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第五章
≪Ⅸ≫いらないおまけがついてきた【1】
しおりを挟む「あの……ヴォルの今の立場は、どの様な状況なのでしょうか」
「どの様な、とは?」
「ベンダーツさんは、ヴォルの補佐役なのですよね。それって、まだヴォルが皇帝様の息子である事が変わっていないという事ですよね?」
メンテナンスの終わったらしきヴォルの手に、新しい手袋をはめていたベンダーツさんです。
綺麗にもしてもらったので、また新品のような──気分的には『物』のようなので微妙なのですが──状態になっていました。
「……ヴォルティ様が皇帝閣下のご子息であられる事は変わりありません。ただ……、帝位継承権を完全に剥奪されました」
珍しく少し言い淀むベンダーツさんです。
問い掛けたのが私とはいえ傍にはヴォルもいるのですから、本人の前で本人の事を話し辛いようでした。
しかしながら──『剥奪』?本人が拒否したのではなくて、です。
私は不安から、思わずヴォルに視線を落としました。でも彼は何も聞いていないとでもいうように起き上がり、左手を開いたり閉じたりしています。
「あの……、ヴォル?」
「………………俺は初めから帝位を継がないと言っていた」
思わず声を掛けました。そのままでは聞いていなかった事にされそうだったからです。
そして返ってきた言葉は、僅かばかり不機嫌を乗せたものでした。
「えぇ、そうでしょうね。ですが、拒否するのと剥奪されるのには大きな違いがあります。何か国益になるような事を成し遂げなくては、今の処遇は変わらないものと思ってください」
「どちらでも同じ事だ。俺はメルがいればそれで良い。いらないベンダーツがついてきたのが気に入らないくらいなものだ」
「私はヴォルティ様の監視役でもあります。いくら魔力所持者の居場所が分かるとはいえ、細部に渡って認識出来る訳ではないですからね。貴方以外の精霊つきが現れない限り、次なる魔法石候補筆頭である事に変わりありません。そして帝位継承権を剥奪されたという事は、後援がないという事です。メルシャ様にも支援先はないのです。分かっていらっしゃるのですか、お立場が悪くなったのですよ?」
『またまた憎まれ口を……』と思いましたが、声音に苛立ちは乗せていないものの、ベンダーツさんの怒りが伝わってきます。
ベンダーツさんって本当はヴォルを心配している筈なのに、事ある毎に挑発するような言葉を綴りますよね。ほら、案の定ヴォルが不機嫌になったではないですか。
「お前……」
「あ~、ほらヴォル。私、お腹が空いたのですけど」
ベンダーツさんに食って掛かろうとしたヴォルに、私はわざとらしく空腹を訴えました。
もぅ──三人しかいないのですから、喧嘩はやめてくださいよぉ。止めるのが私の役割になってしまっているではないですか。
だいたい、怒ると二人共怖くなるのですから私の精神衛生上良くありません。
「…………分かった」
私の方を振り向いてヴォルは暫く黙り込んでいましたが、何とか怒りを抑えてくれたようです。
『勝った』とばかりに薄く微笑んでいるベンダーツさんは置いておいて、とにかく二人の喧嘩をやめさせる事には成功しました。
──が、その考えは甘かったとすぐに突き付けられます。
「また簡単に魔法を使うのですね。火くらい、御自分で起こせないのですか。ほら、水もすぐ近くに川があるではないですか。鍋くらい、風の魔法を使わずに持てないのですか」
空腹を訴えた私の為に食事を作り始めてくれているヴォルでした。ですかその一つ一つのヴォルの行動に対してダメ出しをするベンダーツさんです。
私はヴォルと旅をするのが初めてではないので、この様なものかと思っていたのですがね。
「………………物凄く煩い」
ボソッと呟かれました。──あぁ、ヴォルが我慢しているようです。
私が先程の言い争いを止めた理由を分かっているからなのでしょうが、これでは一方的に責められているヴォルが可哀想ですよ。
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