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第五章
8.己が手のように【5】
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「あの、ヴォルの腕……大丈夫ですか?」
作業中のベンダーツさんに声を掛けます。
あの後すぐにヴォルは結界を張り、その場に横になってしまっていました。──所謂不貞寝です。
でも何故か、私の太ももの上に頭を乗せていますね。俗にいう『膝枕』ですよ。
「表面が少々焦げ付いていましたが、磨いて簡単に取れたので煤のようなものでしょう。他に異常は見受けられません」
「そうですか、良かったです。手袋が燃えてしまっていたので、とても心配でした」
腕をベンダーツさんに突き出しているヴォルに視線を落とすと、少しだけ不服そうな表情を見せました。
でも自然と見上げられる形になるので、何だか可愛く思えます。
「俺が信用出来ないと?」
「そんな事ないです。ヴォルが凄く強い事は知っています。でも、危ない事をされて心配するのはダメなのですか?」
「ヴォルティ様は、御身が不死身だと思われているのですか」
畳み掛けるようにベンダーツさんが告げ、ヴォルは腑に落ちない様子ながらも押し黙りました。
本当に、もっと自分の身体も労ってほしいです。
「今のような扱い方をしていれば、すぐに義手が役に立たなくなってしまいます。この素材となる木材は稀少なので、次から次へと替えが用意出来る訳ではありません」
「分かった。それなりに扱おう」
「ダメです、大切に扱って下さい。ヴォルはもっと自分を大切にしてほしいです。だいたい、勝手に腕をなくしてきて……」
ベンダーツさんの助言に適当に答えたヴォルに、今度は私が口を挟みました。──私だって不満に思っているのですから。
ヴォルは私から怒られると思っていなかったのか、困ったように眉尻を下げます。
こんな表情も出来るようになっていたのですか。ずいぶんと感情表現が豊かになりましたね。
「分かったから。泣くな、メル」
「な、泣いてなんていません」
顔を背ける事が今の私の精一杯の反抗でした。でもこの事だけは許さないですからね。
まだ涙は出ていませんが、ヴォルの腕がなくなった時を思い出したらすぐに泣けます。これだけは自信がありました。
「……だが俺は、メルの為なら己の身体などいくらでも差し出すからな」
しかしながら、ヴォルからは反省をしていないかのような言葉が続けられます。
──分かってますよ、そんな事。
何度も聞きました。だからこそ、怖いのではないですか。私の言葉一つで、また大切な人の命がなくなってしまわないかと──恐ろしいのです。
「ヴォルティ様。命を張るばかりが愛ではありません」
「分かっている。……そうならぬように心掛けてはいる」
「そうですね。だいたいこの魔物討伐の旅ですら、本来貴方様のなさる事ではないのです。ですが今回の名目は汚名払拭の為。皇帝閣下もさぞお辛い決断だった事でしょう」
ヴォルとベンダーツさんの話を聞きながら、この旅にも皇帝様の許可が出ているのだと思い出しました。もとよりヴォルは国の結界に必要な人材の為、基本的には王都を長く離れる事が出来ないのです。
前回の旅でも、ヴォルの血液を対価にしていたと聞いていました。
そう言えば、あの後から皇妃様の姿を見ていないです。ヴォルの弟さんと一緒に、どの様な事を皇帝様に伝えたのでしょうか。
ベンダーツさんの先程の言い方だと、悪いのはヴォルという事になっているようでした。
私の頭、頑張って思い出して下さい。──皇帝様は、あの時何と言っていましたか?
二度とこの地に足を踏み入れる事は叶わないと──そう、言われてませんでした?
作業中のベンダーツさんに声を掛けます。
あの後すぐにヴォルは結界を張り、その場に横になってしまっていました。──所謂不貞寝です。
でも何故か、私の太ももの上に頭を乗せていますね。俗にいう『膝枕』ですよ。
「表面が少々焦げ付いていましたが、磨いて簡単に取れたので煤のようなものでしょう。他に異常は見受けられません」
「そうですか、良かったです。手袋が燃えてしまっていたので、とても心配でした」
腕をベンダーツさんに突き出しているヴォルに視線を落とすと、少しだけ不服そうな表情を見せました。
でも自然と見上げられる形になるので、何だか可愛く思えます。
「俺が信用出来ないと?」
「そんな事ないです。ヴォルが凄く強い事は知っています。でも、危ない事をされて心配するのはダメなのですか?」
「ヴォルティ様は、御身が不死身だと思われているのですか」
畳み掛けるようにベンダーツさんが告げ、ヴォルは腑に落ちない様子ながらも押し黙りました。
本当に、もっと自分の身体も労ってほしいです。
「今のような扱い方をしていれば、すぐに義手が役に立たなくなってしまいます。この素材となる木材は稀少なので、次から次へと替えが用意出来る訳ではありません」
「分かった。それなりに扱おう」
「ダメです、大切に扱って下さい。ヴォルはもっと自分を大切にしてほしいです。だいたい、勝手に腕をなくしてきて……」
ベンダーツさんの助言に適当に答えたヴォルに、今度は私が口を挟みました。──私だって不満に思っているのですから。
ヴォルは私から怒られると思っていなかったのか、困ったように眉尻を下げます。
こんな表情も出来るようになっていたのですか。ずいぶんと感情表現が豊かになりましたね。
「分かったから。泣くな、メル」
「な、泣いてなんていません」
顔を背ける事が今の私の精一杯の反抗でした。でもこの事だけは許さないですからね。
まだ涙は出ていませんが、ヴォルの腕がなくなった時を思い出したらすぐに泣けます。これだけは自信がありました。
「……だが俺は、メルの為なら己の身体などいくらでも差し出すからな」
しかしながら、ヴォルからは反省をしていないかのような言葉が続けられます。
──分かってますよ、そんな事。
何度も聞きました。だからこそ、怖いのではないですか。私の言葉一つで、また大切な人の命がなくなってしまわないかと──恐ろしいのです。
「ヴォルティ様。命を張るばかりが愛ではありません」
「分かっている。……そうならぬように心掛けてはいる」
「そうですね。だいたいこの魔物討伐の旅ですら、本来貴方様のなさる事ではないのです。ですが今回の名目は汚名払拭の為。皇帝閣下もさぞお辛い決断だった事でしょう」
ヴォルとベンダーツさんの話を聞きながら、この旅にも皇帝様の許可が出ているのだと思い出しました。もとよりヴォルは国の結界に必要な人材の為、基本的には王都を長く離れる事が出来ないのです。
前回の旅でも、ヴォルの血液を対価にしていたと聞いていました。
そう言えば、あの後から皇妃様の姿を見ていないです。ヴォルの弟さんと一緒に、どの様な事を皇帝様に伝えたのでしょうか。
ベンダーツさんの先程の言い方だと、悪いのはヴォルという事になっているようでした。
私の頭、頑張って思い出して下さい。──皇帝様は、あの時何と言っていましたか?
二度とこの地に足を踏み入れる事は叶わないと──そう、言われてませんでした?
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