「結婚しよう」

まひる

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第五章

8.己が手のように【2】

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 魔物を討伐し終えた私達は、そのまま南下して低木草地帯を進みます。

「このまま行くとサガルットの町に着きます」

「このバニグレール平原は獣型の魔物が多いからな。これだけ開けていれば接近に気付かない事はないだろうが、サガルットの町まで少なくとも五日は掛かる。お前は久し振りの実戦だ。面倒だからバテるなよ」

「心しておきます。ヴォルティ様も義手はデリケートなので、あまり負荷を掛けないようにお願い致します」

 軽口を言い合うヴォルとベンダーツさんです。
 でも先程の戦闘を見る限り、ベンダーツさんもかなりの強者つわもののようでした。──さすがヴォルの師匠ですね。

「あ~……、また来ましたよ?」

 私はウマウマさんに乗っているだけなので、キョロキョロと周囲を見回していました。
 しかも──ぅわ~、何だか砂煙が近付いて来るので更に大量な予感がします。

「今回の旅は魔物討伐がメインだからな。広範囲に結界を張る事はしないが、メルには絶対近付けないから安心しろ」

「はい、分かりました」

 ヴォルの言葉に安定の信頼感で頷きました。
 魔物に関してより、ベンダーツさんが討伐した後が怖いです。──言えませんけど、後処理はしてほしいとせつに願っていました。

 二人が再び剣を構え、私はウマウマさんと一緒に結界の中で待機です。
 相変わらずウマウマさんは全く物怖ものおじせず、足元の草をのんびりとんでいました。
 一匹は前回の旅で一緒だったウマウマさんなのですが、もう一匹もやたらに図太い気がします。もうなんだか、私だけが怖がりビビりなのではないかと思ってしまいました。

 さてやってきた魔物は再び四足歩行タイプの獣型で、先程のより全体的に白くて二回ふたまりは大きかったです。
 人の二倍程の体躯を持ち、後足で立ち上がりもしました。飢えているのか、仲間が殺られても気にせず突進してきます。

「気性が荒いですね」

「あぁ。腹部のへこみを見ると、長期に渡って餌が捕れていないようだ」

 相も変わらず、ヴォルとベンダーツさんは戦闘中に呑気に会話をしていました。

「繁殖し過ぎで、餌場にきゅうしているのですか。迷惑ですね」

「その分まとめて討伐出来る事を良しとするか。Honoo no yari.」

 ヴォルが魔物に向け、火の槍を複数放ちます。やはりこれだけ数がある場合には、魔法での複数攻撃の方ががあるようです。
 左手に闇の剣レイドを持ったまま、右手から次々と魔法を繰り出していました。何気に魔物の気を引きつつ、自分が囮になっているようです。

「ヴォルティ様、義手では魔法を放出させないようにお願いします。特に炎系は注意してください」

「何だ。燃焼するのか」

 ベンダーツさんの注意に、ヴォルは興味を引かれたようでした。──いえいえ、燃えたらダメですよね?

「いえ、それは何とも言えませんが。義手自体に巡らせた魔力に差異が生じれば、動きに不自由が出るかもしれません」

「それならば逆に試してみる。Honoo no tama.」

 ベンダーツさんの忠告を無視し、ヴォルは左手で魔法を使い始めました。
 それは先程とは違い、放たれる魔力の炎の色が白っぽいです。それでも火の玉を作り、幾つも魔物に向けて放出しました。

「……加減が難しいな」

 魔物討伐をそうやってほとんど魔法で済ませるつもりなのか、時折ときおりその掌を動かしては確認するヴォルです。──って言うか、手袋が燃えてなくなっていませんか?!
 木製の義手を包んでいた手袋が炭となり、ハラハラと舞い落ちたのでした。

 『火加減』という意味で言っているのではないでしょうが、普通ならば掌が熱を持つ事もない筈です。やはり義手で魔法を使うのは難しいだと思いました。
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