「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
228 / 515
第五章

5.泣くな【5】

しおりを挟む
「兄さんはこれからどうするつもり?僕を罪人としてつき出して、晴れて皇帝になるの?」

「またその話か。だから初めから、俺は皇帝にならないと言っている」

 開き直ったのか怒っているのか、ペルさんはキツイ口調でヴォルに問い掛けます。対してヴォルは少しだけ呆れたように目を細め、真っ直ぐ視線を返していました。
 そう言えば、正式な跡継ぎ候補はペルさんだと言っていましたね。──って言うか、罪人としてって?

「それにお前を罪人などでつき出しはしない。俺がここを出ていくからな」

 私の内心の疑問を感じ取った訳ではないでしょうが、ヴォルが続けて告げます。──出て……行く?
 何やら話の方向が違う感じになってきました。二人の会話についていけず、一人で百面相をしている私です。

「出て行く……って。何を言っているのさ、兄さん。そんなの、許される筈がないでしょ?」

「皇帝に話はしてある」

 普段通りの淡々としたヴォルの口調でした。
 しかしながら、いつの間にですか?

「いつの間に……。って、メルシャさんはどうするのさ。もしかしてまた魔物のいる外に連れ出す気かい?」

「…………」

 視線が一斉いっせいに私の方へ向きます。──ど、どうしましょうか。だいたい、今の話自体が初耳なんですけど。

「メル……」

 重い口を開くかのようなヴォルの声に、勢い良く開かれた扉の音が重なりました。──ぅわ~、皇妃様ではないですか。

「ペルニギュート、貴方……っ!」

 ペルさんに向かって怒鳴ろうとして、ヴォルと私に気付いたようです。ハッとしたように顔を強ばらせました。
 ──まぁ、ペルさんはまだヴォルの結界の中に入っていますし。

 と言うか──ここの結界は先程のベンダーツさんの侵入といい皇妃様といい、他者を拒絶するものではないようですね。

「貴方が……っ、貴方が犯人ねっ!貴方がペルニギュートを操って、この城を乗っ取ろうとしたのでしょうっ?」

 我に返った皇妃様の訴えに、結界の中のペルさんと私は唖然としました。──ヴォルはいつもの感情を見せない表情のままですが。
 皇妃様の中では、完全にヴォルが悪役のようです。いえ、話を聞く様子もありませんでした。

「母上、違います。これは……」

「ペルニギュートは黙っていらっしゃい。もう許しませんからねっ!いくら王がかばい立てしても、最早許される事ではありませんっ。この壁を早く取り除きなさい」

 説明しようとしたペルさんを一言で静まらせ、一方的にヴォルに詰め寄ります。そしてペルさんの結界の解除を命じていました。
 ペルさんの結界は自動解除らしいので、すぐに解くには強制的に破壊するしかないのです。

「母上、話を聞いてください。兄さんは……」

「早くなさいっ。これ以上我が物顔なんてさせるものですか。帝位も財産も、何一つとして渡しませんからねっ」

 改めて切り出そうとしたペルさんでしたが、見事に無視されました。彼は悔しげに唇を噛んでいます。──あぁ、この人は……。
 ちゃんと息子さんペルさんの話を聞いてあげてくださいよ。それにヴォルは地位もお金も求めていないようですよ?

 ヴォルに詰め寄り、もう少しで殴りかねない勢いの皇妃様でした。そして、ようやくペルさんの結界が弾けます。どうやら条件を満たしたようですね。
 皇妃様はヴォルが説得に負け、結界を解除したと思ったかもしれませんが。

「母上……っ」

「あぁ、ペルニギュート!さぁ、行きますよ?王に進言しなくてはっ」

 解放されたペルさんの話を聞く事もなく、強引に腕を引いて立ち上がらせます。
 そして鋭い視線をヴォルに向け、広間を退室していかれました。──まぁ、十歳くらいのペルさんが犯人などとは誰も思わないのでしょうけど。

 それにしたって、酷くありませんか?!
 ヴォルの話は勿論、ペルさんの話も全く聞きもしないのですから。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...