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第五章
5.泣くな【5】
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「兄さんはこれからどうするつもり?僕を罪人としてつき出して、晴れて皇帝になるの?」
「またその話か。だから初めから、俺は皇帝にならないと言っている」
開き直ったのか怒っているのか、ペルさんはキツイ口調でヴォルに問い掛けます。対してヴォルは少しだけ呆れたように目を細め、真っ直ぐ視線を返していました。
そう言えば、正式な跡継ぎ候補はペルさんだと言っていましたね。──って言うか、罪人としてって?
「それにお前を罪人などでつき出しはしない。俺がここを出ていくからな」
私の内心の疑問を感じ取った訳ではないでしょうが、ヴォルが続けて告げます。──出て……行く?
何やら話の方向が違う感じになってきました。二人の会話についていけず、一人で百面相をしている私です。
「出て行く……って。何を言っているのさ、兄さん。そんなの、許される筈がないでしょ?」
「皇帝に話はしてある」
普段通りの淡々としたヴォルの口調でした。
しかしながら、いつの間にですか?
「いつの間に……。って、メルシャさんはどうするのさ。もしかしてまた魔物のいる外に連れ出す気かい?」
「…………」
視線が一斉に私の方へ向きます。──ど、どうしましょうか。だいたい、今の話自体が初耳なんですけど。
「メル……」
重い口を開くかのようなヴォルの声に、勢い良く開かれた扉の音が重なりました。──ぅわ~、皇妃様ではないですか。
「ペルニギュート、貴方……っ!」
ペルさんに向かって怒鳴ろうとして、ヴォルと私に気付いたようです。ハッとしたように顔を強ばらせました。
──まぁ、ペルさんはまだヴォルの結界の中に入っていますし。
と言うか──ここの結界は先程のベンダーツさんの侵入といい皇妃様といい、他者を拒絶するものではないようですね。
「貴方が……っ、貴方が犯人ねっ!貴方がペルニギュートを操って、この城を乗っ取ろうとしたのでしょうっ?」
我に返った皇妃様の訴えに、結界の中のペルさんと私は唖然としました。──ヴォルはいつもの感情を見せない表情のままですが。
皇妃様の中では、完全にヴォルが悪役のようです。いえ、話を聞く様子もありませんでした。
「母上、違います。これは……」
「ペルニギュートは黙っていらっしゃい。もう許しませんからねっ!いくら王が庇い立てしても、最早許される事ではありませんっ。この壁を早く取り除きなさい」
説明しようとしたペルさんを一言で静まらせ、一方的にヴォルに詰め寄ります。そしてペルさんの結界の解除を命じていました。
ペルさんの結界は自動解除らしいので、すぐに解くには強制的に破壊するしかないのです。
「母上、話を聞いてください。兄さんは……」
「早くなさいっ。これ以上我が物顔なんてさせるものですか。帝位も財産も、何一つとして渡しませんからねっ」
改めて切り出そうとしたペルさんでしたが、見事に無視されました。彼は悔しげに唇を噛んでいます。──あぁ、この人は……。
ちゃんと息子さんの話を聞いてあげてくださいよ。それにヴォルは地位もお金も求めていないようですよ?
ヴォルに詰め寄り、もう少しで殴りかねない勢いの皇妃様でした。そして、漸くペルさんの結界が弾けます。どうやら条件を満たしたようですね。
皇妃様はヴォルが説得に負け、結界を解除したと思ったかもしれませんが。
「母上……っ」
「あぁ、ペルニギュート!さぁ、行きますよ?王に進言しなくてはっ」
解放されたペルさんの話を聞く事もなく、強引に腕を引いて立ち上がらせます。
そして鋭い視線をヴォルに向け、広間を退室していかれました。──まぁ、十歳くらいのペルさんが犯人などとは誰も思わないのでしょうけど。
それにしたって、酷くありませんか?!
ヴォルの話は勿論、ペルさんの話も全く聞きもしないのですから。
「またその話か。だから初めから、俺は皇帝にならないと言っている」
開き直ったのか怒っているのか、ペルさんはキツイ口調でヴォルに問い掛けます。対してヴォルは少しだけ呆れたように目を細め、真っ直ぐ視線を返していました。
そう言えば、正式な跡継ぎ候補はペルさんだと言っていましたね。──って言うか、罪人としてって?
「それにお前を罪人などでつき出しはしない。俺がここを出ていくからな」
私の内心の疑問を感じ取った訳ではないでしょうが、ヴォルが続けて告げます。──出て……行く?
何やら話の方向が違う感じになってきました。二人の会話についていけず、一人で百面相をしている私です。
「出て行く……って。何を言っているのさ、兄さん。そんなの、許される筈がないでしょ?」
「皇帝に話はしてある」
普段通りの淡々としたヴォルの口調でした。
しかしながら、いつの間にですか?
「いつの間に……。って、メルシャさんはどうするのさ。もしかしてまた魔物のいる外に連れ出す気かい?」
「…………」
視線が一斉に私の方へ向きます。──ど、どうしましょうか。だいたい、今の話自体が初耳なんですけど。
「メル……」
重い口を開くかのようなヴォルの声に、勢い良く開かれた扉の音が重なりました。──ぅわ~、皇妃様ではないですか。
「ペルニギュート、貴方……っ!」
ペルさんに向かって怒鳴ろうとして、ヴォルと私に気付いたようです。ハッとしたように顔を強ばらせました。
──まぁ、ペルさんはまだヴォルの結界の中に入っていますし。
と言うか──ここの結界は先程のベンダーツさんの侵入といい皇妃様といい、他者を拒絶するものではないようですね。
「貴方が……っ、貴方が犯人ねっ!貴方がペルニギュートを操って、この城を乗っ取ろうとしたのでしょうっ?」
我に返った皇妃様の訴えに、結界の中のペルさんと私は唖然としました。──ヴォルはいつもの感情を見せない表情のままですが。
皇妃様の中では、完全にヴォルが悪役のようです。いえ、話を聞く様子もありませんでした。
「母上、違います。これは……」
「ペルニギュートは黙っていらっしゃい。もう許しませんからねっ!いくら王が庇い立てしても、最早許される事ではありませんっ。この壁を早く取り除きなさい」
説明しようとしたペルさんを一言で静まらせ、一方的にヴォルに詰め寄ります。そしてペルさんの結界の解除を命じていました。
ペルさんの結界は自動解除らしいので、すぐに解くには強制的に破壊するしかないのです。
「母上、話を聞いてください。兄さんは……」
「早くなさいっ。これ以上我が物顔なんてさせるものですか。帝位も財産も、何一つとして渡しませんからねっ」
改めて切り出そうとしたペルさんでしたが、見事に無視されました。彼は悔しげに唇を噛んでいます。──あぁ、この人は……。
ちゃんと息子さんの話を聞いてあげてくださいよ。それにヴォルは地位もお金も求めていないようですよ?
ヴォルに詰め寄り、もう少しで殴りかねない勢いの皇妃様でした。そして、漸くペルさんの結界が弾けます。どうやら条件を満たしたようですね。
皇妃様はヴォルが説得に負け、結界を解除したと思ったかもしれませんが。
「母上……っ」
「あぁ、ペルニギュート!さぁ、行きますよ?王に進言しなくてはっ」
解放されたペルさんの話を聞く事もなく、強引に腕を引いて立ち上がらせます。
そして鋭い視線をヴォルに向け、広間を退室していかれました。──まぁ、十歳くらいのペルさんが犯人などとは誰も思わないのでしょうけど。
それにしたって、酷くありませんか?!
ヴォルの話は勿論、ペルさんの話も全く聞きもしないのですから。
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