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第五章
5.泣くな【4】
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「でももう、本当に魔法石はなくなってしまいましたよ?」
「あぁ。……こんなもの、なくなった方が良い」
苦い表情を見せるヴォルは、魔法石そのものを嫌っているようでした。
嫌う理由は分かりますが、それがないとヴォルに魔力消費の負担が掛かるのではないかと不安になります。
「どうした、メル」
「あ……。魔法石が結界の維持をするのですよね?それがなくなったという事は、ヴォルが……」
「問題ない。俺の存在魔力だけで結界は維持出来る。……それに魔法石にもならない」
私の不安を取り除こうとしてか、ヴォルは強い口調で断言してくれました。それでも継続的に消費される魔力は心配です。──それに、ずっとここに縛り付けられる事にもなりますよね。
ヴォルの言葉を疑う訳ではありませんが、それでも不安になってしまう心を止める事は出来ませんでした。
「泣くな」
「な、泣いてません」
──まだ泣いてませんよ。鼻の奥がツンとするので、泣きそうではありますが。
こうしてヴォルと触れ合っているのに、私の瞳が悲しみに揺れます。
優しく頬に指を這わされ、ヴォルと視線を合わせました。
「俺のいないところで泣くな」
「そ、そんな事……分かりません。だからずっと傍にいて下さらないと……」
たまにストレートに言葉をぶつけられると、どう対応したら良いのか分からなくなります。
我が儘だと分かっていても口に出してしまいました。ヴォルを困らせてしまうのが分かっていても、不安に押し潰されそうです。
「あ、ペルさんが……?」
不意に結界の中でペルさんが身動ぎするのが見えました。それまで倒れたまま動かなかったので、私は彼の様子を確認します。
ヴォルも私の声で振り返ったようでした。
「気分はどうだ、ペルニギュート」
「……最悪だよ、兄さん」
ヨロヨロとふらつきながら身体を起こしたペルさんは、まだ立ち上がる事が出来ないのか半身起こしたまま座って頭を押さえています。
「はぁ……、気持ち悪い。何なの、この結界」
先程までとは違い、中の音は聞こえるようになっていました。深く息を吐き、周囲を見渡すペルさんです。
顔色は悪いですが、先程までの黒い炎は完全に消えていました。
「お前を魔力から離す為の隔離結界だ。どちらにしてももう魔法石がない今、ペルニギュートの魔力はいずれ枯渇する。そうならないように、身体を魔力から完全に分断しているのだ。もう魔力を使えないようにな」
「……勝手な事をしてくれるね。僕は別にこの命なんて「認められない」……」
ペルさんの言葉を遮り、ヴォルが強く言い放ちます。本当に命を断つつもりだったと伝わってきました。
聞いた限りの彼の生い立ちはあまり幸福とは言い難いものでしたが、それでももっと不幸せな人達はたくさんいます。
生きたくても生きられない人もいるのですから、自らが捨てるなんて許されない事でした。
「はいはい。分かったよ、兄さん。どうせこの身体も魔力に耐性がなかったし、諦める事にするよ。……だから出して」
「まだだ。お前の身体から完全に魔力が消えたら、その結界も自動的に解除される」
ヴォルは本当に凄いです。何だかとても不満げなペルさんを、そのまま黙らせてしまいました。
力の行使だけではなく、ペルさんへの深い愛情もあるのでしょうか。
でも結界の使い方も、色々あるのですね。たんに魔物から身を守るだけではないようです。
「あぁ。……こんなもの、なくなった方が良い」
苦い表情を見せるヴォルは、魔法石そのものを嫌っているようでした。
嫌う理由は分かりますが、それがないとヴォルに魔力消費の負担が掛かるのではないかと不安になります。
「どうした、メル」
「あ……。魔法石が結界の維持をするのですよね?それがなくなったという事は、ヴォルが……」
「問題ない。俺の存在魔力だけで結界は維持出来る。……それに魔法石にもならない」
私の不安を取り除こうとしてか、ヴォルは強い口調で断言してくれました。それでも継続的に消費される魔力は心配です。──それに、ずっとここに縛り付けられる事にもなりますよね。
ヴォルの言葉を疑う訳ではありませんが、それでも不安になってしまう心を止める事は出来ませんでした。
「泣くな」
「な、泣いてません」
──まだ泣いてませんよ。鼻の奥がツンとするので、泣きそうではありますが。
こうしてヴォルと触れ合っているのに、私の瞳が悲しみに揺れます。
優しく頬に指を這わされ、ヴォルと視線を合わせました。
「俺のいないところで泣くな」
「そ、そんな事……分かりません。だからずっと傍にいて下さらないと……」
たまにストレートに言葉をぶつけられると、どう対応したら良いのか分からなくなります。
我が儘だと分かっていても口に出してしまいました。ヴォルを困らせてしまうのが分かっていても、不安に押し潰されそうです。
「あ、ペルさんが……?」
不意に結界の中でペルさんが身動ぎするのが見えました。それまで倒れたまま動かなかったので、私は彼の様子を確認します。
ヴォルも私の声で振り返ったようでした。
「気分はどうだ、ペルニギュート」
「……最悪だよ、兄さん」
ヨロヨロとふらつきながら身体を起こしたペルさんは、まだ立ち上がる事が出来ないのか半身起こしたまま座って頭を押さえています。
「はぁ……、気持ち悪い。何なの、この結界」
先程までとは違い、中の音は聞こえるようになっていました。深く息を吐き、周囲を見渡すペルさんです。
顔色は悪いですが、先程までの黒い炎は完全に消えていました。
「お前を魔力から離す為の隔離結界だ。どちらにしてももう魔法石がない今、ペルニギュートの魔力はいずれ枯渇する。そうならないように、身体を魔力から完全に分断しているのだ。もう魔力を使えないようにな」
「……勝手な事をしてくれるね。僕は別にこの命なんて「認められない」……」
ペルさんの言葉を遮り、ヴォルが強く言い放ちます。本当に命を断つつもりだったと伝わってきました。
聞いた限りの彼の生い立ちはあまり幸福とは言い難いものでしたが、それでももっと不幸せな人達はたくさんいます。
生きたくても生きられない人もいるのですから、自らが捨てるなんて許されない事でした。
「はいはい。分かったよ、兄さん。どうせこの身体も魔力に耐性がなかったし、諦める事にするよ。……だから出して」
「まだだ。お前の身体から完全に魔力が消えたら、その結界も自動的に解除される」
ヴォルは本当に凄いです。何だかとても不満げなペルさんを、そのまま黙らせてしまいました。
力の行使だけではなく、ペルさんへの深い愛情もあるのでしょうか。
でも結界の使い方も、色々あるのですね。たんに魔物から身を守るだけではないようです。
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