226 / 515
第五章
5.泣くな【3】
しおりを挟む
「……それで、今はどの様な状態なのですか?」
すぐに冷静さを取り戻してしまうベンダーツさんは大人ですね。
いえ、この場合はヴォルを信頼しているからこその思考の切り替えでしょうか。
「魔力の供給を断っている。長い年月を掛けて身体に馴染ませてきた魔力を遮断しているんだ。ペルニギュートはかなりの苦痛を感じているだろう。……外の様子はどうだ。お前以外も目覚めているのか」
「はい。全てを確認した訳ではありませんが、ガルシアを筆頭に侍女達は状態確認に走り回っております。私はヴォルティ様とメルシャ様のお姿が見受けられなかったので、『感知』を使いましてここに馳せ参じたのです」
ヴォルは少し苦い顔でペルさんの状態を説明した後、城内の様子を確認です。ベンダーツさんが下りてきているので、他の方々もちゃんと目覚めていると良いですね。
それよりも『感知』という聞き慣れない単語に、私は首を傾げました。
「お前にはそれがあったな。別に来なくても良かったが。……あぁ、ベンダーツは魔力を持っていないが俺とリングで繋がっている。……そもそもが不要だが」
「リング、ですか?」
問う私に、ヴォルは右手の親指につけられた指輪を見せてくれます。
しっかりと関節の内側にはまっているようで、とても抜けなさそうですね。
「主従関係を結んだ時に、半ば強制的につけられた。これで互いの居場所が把握出来る、体の良い首輪だ」
嫌そうに答えたヴォルでした。──それで、監視されているとか言われていた訳ですか。
「あ、だからスワケット港に……」
「はい。あの時も『感知』を使って、港にお迎えにあがりました」
主従のリング、恐るべしです。いえ、この場合は使い手でしょうか。
まぁ、あの時は色々と言われたのですけれどね。ベンダーツさんは全く悪気はないようなので、私もその事について問い質したりはしませんよ。
ベンダーツさんを知った今では、彼のあの時の対応はヴォルを守る為だったのだと分かりますから。
「それではペルニギュート様は今、魔力が枯渇した状態なのですね」
「そうだ。元々魔力を持っていないペルニギュートが、魔法石の力を奪う形でも魔力を維持するには肉体に問題が出る」
今の倒れているペルさんを外から見るだけでは私には分かりませんが、ベンダーツとヴォルには容態が想像出来るだけようでした。
「お身体に負担があるが故、心臓に疾患が現れていると?ですが魔力枯渇状態が続けば……」
「心配するな。生命の精霊をつけている」
「……生命の?」
ベンダーツさんが訝しげな顔を見せます。
そうですよね、公には生命の精霊さんはいない事になっているのですから。
「そうだ」
「全くいつの間に……、分かりました。とりあえず私は、一度皇帝閣下に報告をしなければなりません。ペルニギュート様の事はお任せいたします」
「あぁ……、死なせはしない」
真っ直ぐベンダーツさんを見たヴォルの強い言葉に、私は少し安心しました。
ベンダーツさんも同じなのか、ヴォルに深々と頭を下げて退室します。
「ヴォル?」
「……死なせるものか。だがペルニギュートの肉体からは、魔法石の魔力を完全に消すつもりだ。元々あれらはあまり良くない力だ。負の感情を纏った魔力など、魔物に近くなるだけだからな」
ヴォルは強い眼差しでペルさんの結界へ視線を送りました。私も今は動かなくなってしまったペルさんを案じます。
魔力の性質によるものなのかは分かりませんが、確かにペルさんの黒い力には恐ろしいものを感じましたから。
すぐに冷静さを取り戻してしまうベンダーツさんは大人ですね。
いえ、この場合はヴォルを信頼しているからこその思考の切り替えでしょうか。
「魔力の供給を断っている。長い年月を掛けて身体に馴染ませてきた魔力を遮断しているんだ。ペルニギュートはかなりの苦痛を感じているだろう。……外の様子はどうだ。お前以外も目覚めているのか」
「はい。全てを確認した訳ではありませんが、ガルシアを筆頭に侍女達は状態確認に走り回っております。私はヴォルティ様とメルシャ様のお姿が見受けられなかったので、『感知』を使いましてここに馳せ参じたのです」
ヴォルは少し苦い顔でペルさんの状態を説明した後、城内の様子を確認です。ベンダーツさんが下りてきているので、他の方々もちゃんと目覚めていると良いですね。
それよりも『感知』という聞き慣れない単語に、私は首を傾げました。
「お前にはそれがあったな。別に来なくても良かったが。……あぁ、ベンダーツは魔力を持っていないが俺とリングで繋がっている。……そもそもが不要だが」
「リング、ですか?」
問う私に、ヴォルは右手の親指につけられた指輪を見せてくれます。
しっかりと関節の内側にはまっているようで、とても抜けなさそうですね。
「主従関係を結んだ時に、半ば強制的につけられた。これで互いの居場所が把握出来る、体の良い首輪だ」
嫌そうに答えたヴォルでした。──それで、監視されているとか言われていた訳ですか。
「あ、だからスワケット港に……」
「はい。あの時も『感知』を使って、港にお迎えにあがりました」
主従のリング、恐るべしです。いえ、この場合は使い手でしょうか。
まぁ、あの時は色々と言われたのですけれどね。ベンダーツさんは全く悪気はないようなので、私もその事について問い質したりはしませんよ。
ベンダーツさんを知った今では、彼のあの時の対応はヴォルを守る為だったのだと分かりますから。
「それではペルニギュート様は今、魔力が枯渇した状態なのですね」
「そうだ。元々魔力を持っていないペルニギュートが、魔法石の力を奪う形でも魔力を維持するには肉体に問題が出る」
今の倒れているペルさんを外から見るだけでは私には分かりませんが、ベンダーツとヴォルには容態が想像出来るだけようでした。
「お身体に負担があるが故、心臓に疾患が現れていると?ですが魔力枯渇状態が続けば……」
「心配するな。生命の精霊をつけている」
「……生命の?」
ベンダーツさんが訝しげな顔を見せます。
そうですよね、公には生命の精霊さんはいない事になっているのですから。
「そうだ」
「全くいつの間に……、分かりました。とりあえず私は、一度皇帝閣下に報告をしなければなりません。ペルニギュート様の事はお任せいたします」
「あぁ……、死なせはしない」
真っ直ぐベンダーツさんを見たヴォルの強い言葉に、私は少し安心しました。
ベンダーツさんも同じなのか、ヴォルに深々と頭を下げて退室します。
「ヴォル?」
「……死なせるものか。だがペルニギュートの肉体からは、魔法石の魔力を完全に消すつもりだ。元々あれらはあまり良くない力だ。負の感情を纏った魔力など、魔物に近くなるだけだからな」
ヴォルは強い眼差しでペルさんの結界へ視線を送りました。私も今は動かなくなってしまったペルさんを案じます。
魔力の性質によるものなのかは分かりませんが、確かにペルさんの黒い力には恐ろしいものを感じましたから。
0
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる