「結婚しよう」

まひる

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第五章

5.泣くな【3】

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「……それで、今はどの様な状態なのですか?」

 すぐに冷静さを取り戻してしまうベンダーツさんは大人ですね。
 いえ、この場合はヴォルを信頼しているからこその思考の切り替えでしょうか。

「魔力の供給をっている。長い年月を掛けて身体に馴染なじませてきた魔力を遮断しているんだ。ペルニギュートはかなりの苦痛を感じているだろう。……外の様子はどうだ。お前以外も目覚めているのか」

「はい。全てを確認した訳ではありませんが、ガルシアを筆頭ひっとうに侍女達は状態確認に走り回っております。私はヴォルティ様とメルシャ様のお姿が見受けられなかったので、『感知』を使いましてここにせ参じたのです」

 ヴォルは少し苦い顔でペルさんの状態を説明した後、城内の様子を確認です。ベンダーツさんが下りてきているので、他の方々もちゃんと目覚めていると良いですね。
 それよりも『感知』という聞き慣れない単語に、私は首をかしげました。

「お前にはそれがあったな。別に来なくても良かったが。……あぁ、ベンダーツは魔力を持っていないが俺とリングで繋がっている。……そもそもが不要だが」

「リング、ですか?」

 問う私に、ヴォルは右手の親指につけられた指輪を見せてくれます。
 しっかりと関節の内側にはまっているようで、とても抜けなさそうですね。

主従関係を結んだコイツが俺の傍仕えになった時に、半ば強制的につけられた。これで互いの居場所が把握出来る、ていの良い首輪だ」

 嫌そうに答えたヴォルでした。──それで、監視されているとか言われていた訳ですか。

「あ、だからスワケット港に……」

「はい。あの時も『感知』を使って、港にお迎えにあがりました」

 主従のリング、恐るべしです。いえ、この場合は使い手でしょうか。
 まぁ、あの時は色々と言われたのですけれどね。ベンダーツさんは全く悪気はないようなので、私もその事について問いただしたりはしませんよ。
 ベンダーツさんを知った今では、彼のあの時の対応はヴォルを守る為だったのだと分かりますから。

「それではペルニギュート様は今、魔力が枯渇した状態なのですね」

「そうだ。元々魔力を持っていないペルニギュートが、魔法石の力を奪う形でも魔力を維持するには肉体に問題が出る」

 今の倒れているペルさんを外から見るだけでは私には分かりませんが、ベンダーツとヴォルには容態が想像出来るだけようでした。

「お身体に負担があるがゆえ、心臓に疾患が現れていると?ですが魔力枯渇状態が続けば……」

「心配するな。生命の精霊をつけている」

「……生命の?」

 ベンダーツさんがいぶかしげな顔を見せます。
 そうですよね、おおやには生命の精霊さんはいない事になっているのですから。

「そうだ」

「全くいつの間に……、分かりました。とりあえず私は、一度皇帝閣下に報告をしなければなりません。ペルニギュート様の事はお任せいたします」

「あぁ……、死なせはしない」

 真っ直ぐベンダーツさんを見たヴォルの強い言葉に、私は少し安心しました。
 ベンダーツさんも同じなのか、ヴォルに深々と頭を下げて退室します。

「ヴォル?」

「……死なせるものか。だがペルニギュートの肉体からは、魔法石の魔力を完全に消すつもりだ。元々あれらはあまり良くない力だ。負の感情をまとった魔力など、魔物に近くなるだけだからな」

 ヴォルは強い眼差まなざしでペルさんの結界へ視線を送りました。私も今は動かなくなってしまったペルさんを案じます。
 魔力の性質によるものなのかは分かりませんが、確かにペルさんの黒い力には恐ろしいものを感じましたから。
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