「結婚しよう」

まひる

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第五章

4.お前が一番【3】

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「だが今は……出来れば回避したいと、そう思う自分がいる」

「それは私が言ったからですか?」

 わずかに迷いながらの言葉を紡ぐヴォルに、私は真っ直ぐに問い掛けてしまいました。
 ──ヴォルが魔法石になってしまうのは嫌だと、私が言ったから。

「それもあるが…………メルと共に生きていきたいと、心から思うからだ」

「ヴォル……」

「あ~あ、またノロケ?全く……はいはい、ご馳走さまでしたっ」

 見つめ合うヴォルと私に、ペルさんが大きな溜め息をつきながら大袈裟に言います。
 ──あぁ、そうですね。彼が見た目通りの年齢に見えないのは、前世の記憶を持っているからなのだと改めて納得しました。

「ペルニギュート」

「なぁに、兄さん」

 それでもヴォルの言葉に対する反応は良く、ペルさんがヴォルを慕っているのだと良く分かります。
 甘えているのとは違うのでしょうが、互いに絶対的信頼を置いていると感じました。

「城内に掛けた睡眠魔法を解除しろ」

「嫌だ」

 即答するペルさんに、ヴォルは何かを見極めるように見つめます。
 先程のように力付くではなくなっただけ、良いとしましょう。

「……理由は」

「僕は僕の力を使って……出来れば兄さんの身体が欲しいけど、実力主義の世界を作るから。その為には、この城の組織そのものが邪魔なんだよね。ちなみに範囲は全体だったから、単に兄さんとそこの奥さんには魔法が掛からなかっただけ。たぶん、兄さんの精霊の加護が掛かっているからじゃない?」

 全く悪気のないペルさんの話に、私は怒りがあふれてきました。精霊さんにはとても感謝しますが、ペルさんの利己主義も大概にしてほしいです。

「あのですね……。実力主義だなんて、こんな狭い世界にいるから分からなくなるんですよっ。ペルさんも、ご自分で世界を見てくれば良いのです。皆、自分達の力で精一杯生きてますっ」

「何言ってるの?ってか、ペルさんって何。僕?」

「呼び方は別として、世界が広いのは本当だ。地位や権力にしがみついているのは、ごく一部の貴族階級の奴等だけ。他の町や村では、それぞれが汗水垂らして日々の暮らしをしている。魔物の恐怖とも戦い、権力者に税をむしり取られても負けずにだ」

 旅をしたヴォルと私は、実際に自分の目で見てきました。
 勿論私もその中の歯車の一つでしたが。

「そんなの……」

「事実だ。お前こそ、現状に文句を垂れているだけの子供にすぎない」

 ハッキリとダメ出しをされ、ペルさんは口ごもってしまいます。
 そもそも無い物ねだりをしても始まりません。無いものをうより、あるもので工夫をしていかなければならないのでした。

「確かにペルニギュートは身体が丈夫ではないかもしれない。だがその立場は誰にも引けを取らないものであり、われさえすれども下に見られるものではない。お前は正統な帝位後継者なのだから」

 ペルさんを真っ直ぐ見つめ、ヴォルが真摯しんしに告げます。

「僕は……。僕は帝位なんかいらないよ。兄さんがいれば良い。僕にとって一番欲しいのは兄さんだから」

「……悪いが、俺はお前が一番ではない」

「分かってるよぅ……。でも彼女と一緒にいる時の兄さんは凄く輝いてるから、仕方がないから兄さんの一番は譲ってあげる」

「はぁ……、ありがとうございます?」

 ヴォルとペルさんの話し合いの結果、私を少しだけ認めてくれたようでした。
 なんと言うか──少しでも私を認めてくれたのは良いのでしょうが、何やら兄弟喧嘩のとばっちりを受けただけという事ですか?
 でもこの二人、本当に仲が良いですね。
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