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第五章
3.何故お前がここにいる【4】
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沈黙が訪れます。
でも次の瞬間、ペルさんの手の下にあった石像が弾け飛ぶように粉砕されました。
「っ?!」
身を竦めた私の肩を、ヴォルが守るように抱き締めてくれます。
欠片は飛んできませんでしたがとても暴力的で、その分ペルさんの怒りを感じました。
「言ってくれるね。それ、石になった事がないから言えるんだよね」
そう言いながらも、一歩ずつ私達の方へ近付いてきます。
その瞳は暗く濁って見えました。
「ジワジワとさ……先の方から石化してくるとさ……、感覚がなくなってくる自分の身体に怖くなって……死をとても近くに感じるんだよね。分かる?」
思い出すかのように両手を緩く広げながら語るペルさんです。
その言い方はまるで、実際に体験したかのような言葉でした。──この人、もしかして?
「貴方……、魔法石になった人?」
怖いので近付く事はせず、私は安全圏であるヴォルの腕の中から告げます。
すると彼は一瞬目を見開きましたが、すぐに笑みの仮面をつけてしまいました。
「そうだよ?僕は前、そこで石になってる身体を使ってたんだ。生まれ変わりってやつ?まさか、こんなにも憎んでる王族に生まれるとは思ってもみなかったよ。……でもこの身体っ!」
ペルさんが苛立ちを込めて勢い良く片腕を大きく振るいます。その途端、それまで残っていた全ての石像が粉砕されました。
見えはしませんでしたが、どうやら魔力をぶつけたようです。周囲に黒い炎の残滓が漂っていますから。
「心臓は弱いし、魔力はないし。……あるのは僕の記憶だけ?更におまけで母親だとかって言う女はウザいし、もう最悪だよね。少しずつここの魔力を集めてさ、自由に動けるようになるまで凄くストレスだったよ。分かる?」
とうとう目の前に立ちはだかったペルさんは、あろうことかフワリとその身体を宙に浮かべました。
そして、その手をヴォルの頬に伸ばします。
「だからさぁ、兄さん……この身体を頂戴よ」
「だ……、ダメっ!」
私は衝動的にヴォルの腕から抜け出し、その手にしがみつきました。
ペルさんは私よりも身体が小さい筈なのに、腕にしがみついてもびくともしません。
「この女……、煩いんだよっ」
「っ、キャッ!!」
叫んだ直後に彼の腕が振り払われ、私は勢い良く壁に向かって吹き飛びます。
「メルっ!」
受けるであろう衝撃に目を硬く閉じ──たのですが、それ程痛くありませんでした。そう言えばさっき、ヴォルの声が聞こえたような……?
「ヴォルっ!?」
「……っ、問題……ない」
怖々と目を開ければ、壁と私の間にヴォルがいたのです。
驚きに目を見開き、叩き付けられて軽く壁に埋もれているヴォルに触れました。苦しそうに片目を閉じた彼の口の端から、赤い筋が流れます。
血が──また私のせいでヴォルが傷を追ってしまったのだと、心臓が締め付けられる思いでした。
「あ……、や……っ」
身体が自然と震えます。
私を守ろうとして──彼が──。
「メル、落ち着け」
パラパラと石が落ちる音。
ギュッと息が詰まりそうな程に強く抱き締められ、耳元でヴォルの声が聞こえました。──腕輪が熱いです。
「メル。俺を見ろ」
呼吸がままならない中、ヴォルの声だけはしっかりと聞こえました。
私は不安定に揺れる視界の中で彼を捜します。あぁ──、目の前にいるではないですか。私は震える指先で彼の口元を拭い、自らの唇を寄せました。
でも次の瞬間、ペルさんの手の下にあった石像が弾け飛ぶように粉砕されました。
「っ?!」
身を竦めた私の肩を、ヴォルが守るように抱き締めてくれます。
欠片は飛んできませんでしたがとても暴力的で、その分ペルさんの怒りを感じました。
「言ってくれるね。それ、石になった事がないから言えるんだよね」
そう言いながらも、一歩ずつ私達の方へ近付いてきます。
その瞳は暗く濁って見えました。
「ジワジワとさ……先の方から石化してくるとさ……、感覚がなくなってくる自分の身体に怖くなって……死をとても近くに感じるんだよね。分かる?」
思い出すかのように両手を緩く広げながら語るペルさんです。
その言い方はまるで、実際に体験したかのような言葉でした。──この人、もしかして?
「貴方……、魔法石になった人?」
怖いので近付く事はせず、私は安全圏であるヴォルの腕の中から告げます。
すると彼は一瞬目を見開きましたが、すぐに笑みの仮面をつけてしまいました。
「そうだよ?僕は前、そこで石になってる身体を使ってたんだ。生まれ変わりってやつ?まさか、こんなにも憎んでる王族に生まれるとは思ってもみなかったよ。……でもこの身体っ!」
ペルさんが苛立ちを込めて勢い良く片腕を大きく振るいます。その途端、それまで残っていた全ての石像が粉砕されました。
見えはしませんでしたが、どうやら魔力をぶつけたようです。周囲に黒い炎の残滓が漂っていますから。
「心臓は弱いし、魔力はないし。……あるのは僕の記憶だけ?更におまけで母親だとかって言う女はウザいし、もう最悪だよね。少しずつここの魔力を集めてさ、自由に動けるようになるまで凄くストレスだったよ。分かる?」
とうとう目の前に立ちはだかったペルさんは、あろうことかフワリとその身体を宙に浮かべました。
そして、その手をヴォルの頬に伸ばします。
「だからさぁ、兄さん……この身体を頂戴よ」
「だ……、ダメっ!」
私は衝動的にヴォルの腕から抜け出し、その手にしがみつきました。
ペルさんは私よりも身体が小さい筈なのに、腕にしがみついてもびくともしません。
「この女……、煩いんだよっ」
「っ、キャッ!!」
叫んだ直後に彼の腕が振り払われ、私は勢い良く壁に向かって吹き飛びます。
「メルっ!」
受けるであろう衝撃に目を硬く閉じ──たのですが、それ程痛くありませんでした。そう言えばさっき、ヴォルの声が聞こえたような……?
「ヴォルっ!?」
「……っ、問題……ない」
怖々と目を開ければ、壁と私の間にヴォルがいたのです。
驚きに目を見開き、叩き付けられて軽く壁に埋もれているヴォルに触れました。苦しそうに片目を閉じた彼の口の端から、赤い筋が流れます。
血が──また私のせいでヴォルが傷を追ってしまったのだと、心臓が締め付けられる思いでした。
「あ……、や……っ」
身体が自然と震えます。
私を守ろうとして──彼が──。
「メル、落ち着け」
パラパラと石が落ちる音。
ギュッと息が詰まりそうな程に強く抱き締められ、耳元でヴォルの声が聞こえました。──腕輪が熱いです。
「メル。俺を見ろ」
呼吸がままならない中、ヴォルの声だけはしっかりと聞こえました。
私は不安定に揺れる視界の中で彼を捜します。あぁ──、目の前にいるではないですか。私は震える指先で彼の口元を拭い、自らの唇を寄せました。
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