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第五章
3.何故お前がここにいる【2】
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「それは……?」
ヴォルの瞳が細められました。今まで見た事のない、何か秘めたもののある瞳です。
この力が何なのか、彼には分かっているようでもありました。
「これぇ?僕の力、良いでしょ~」
質問の答えになっていない返答でしたが、ヴォルにはそれで十分だったようです。
怒りというか苛立ちというか、とにかくピリピリとした雰囲気がヴォルを包んでいました。
「排除されたくなければその力を捨てろ」
「嫌だよ~。もっとこれを手にいれて、ずっと今より過ごしやすい場所を作るんだっ」
楽しそうに歌うように告げる弟さんです。
彼には力こそが全てのようで、ヴォルの警告を聞き入れる気はないようでした。
「それはお前の意思か?」
「何言ってるの、兄さん。当たり前じゃないか。僕は僕の力で世界を変えるんだよ。こんな面倒な世界なんかいらないもん。僕をちゃんと見てくれる世界を作るんだよっ」
最終確認のように問うヴォルを笑い飛ばし、夢見がちな視線を上に向けます。でも私には、何故かそれが酷く悲しんでいるように見えました。
──自分をちゃんと見てくれる?
「母上はどうした」
「あ~、あんなのいらないもん。急に部屋に飛んできたと思ったらわめき散らすから、思い切り蹴り飛ばしてやった。っていうか兄さんも律儀だよねぇ。あの人は兄さんの母親じゃないし『母上』って言うと怒られる癖に、初めに父上から言われたように呼んであげてんの。凄いよ、本当に。それにあの人は僕も見てない。皇帝の血を引いた、自分の道具が欲しいだけ。便利で逆らわなくて、……壊れない玩具が欲しいだけ」
物凄く笑顔なのに、瞳は全く感情が映っていないです。
でも初めて会った──しかもまだ私よりも小さい子なのに、何故こんなにも恐怖を感じるのでしょうか。
「……僕はダメだった。身体が丈夫じゃないし、兄さんのように魔力持ちでもない」
「ペルニギュート……」
「だからさぁ……、兄さんのその身体を頂戴よ。丈夫だし、精霊にも好かれてるでしょ?大きいしさ。僕のこの身体じゃ、何をしたって足りないもの」
突然うっとりとした表情に変わる弟さんでした。
しかしながら──はい?って聞き直したくなります。『そのクッキーくれない?』的な軽いノリですが、内容はとても辛辣でした。
「あ、何ならついでにその奥さんも相手してあげるからさ。身体が大きくなれば、僕だって『男』になれるんだよね?」
その弟さんの言葉に、ピキッと周囲の空気が変わります。
怖々隣を見上げると、ヴォルの瞳に明らかな怒りが見えました。──地雷を踏みましたよっ。
「冗談にも限度がある」
「あ、怒ったぁ?でも本当に信じられないよねぇ。まさか兄さんに好きな人が出来るとはねぇ?」
ケラケラ笑っていますが、この危機感満載の状況を分かっていないようです。
何やらヴォルが不穏な空気をはらんでいますよ?弟さん──もうペルさんで良いですね──って事でペルさん、それ以上ヴォルの怒りを煽るのは止めた方が良いですよっ。
「兄さんは僕を皇帝にするまでの、ただの繋ぎで良かったのにねぇ。そうしたらあの人にも、ギャンギャン言われなくて良かったじゃない?兄さんが無駄に優秀だから、これまた僕が大変だったんだけどさぁ」
「……俺は帝位を受ける気はない」
「それを皆が信じる訳ないでしょ?官僚達の方が賢いよ。僕と兄さんを仲違いさせて、互いが帝位を争うようにしたいんだもんね。それでどちらが勝っても旨い汁を吸おうっていうんだから、争いから生じる利益がどれだけ凄いか分かるってもんだよねぇ」
十歳くらいの子供が知っている内容ではない気がしました。私は口を挟む事も出来ず、ただ二人のやり取りを見ているしかないです。
笑顔で──でも瞳は笑っていなくて。そんな表情のペルさんは、私の知らない世界の話をしていました。
ヴォルの瞳が細められました。今まで見た事のない、何か秘めたもののある瞳です。
この力が何なのか、彼には分かっているようでもありました。
「これぇ?僕の力、良いでしょ~」
質問の答えになっていない返答でしたが、ヴォルにはそれで十分だったようです。
怒りというか苛立ちというか、とにかくピリピリとした雰囲気がヴォルを包んでいました。
「排除されたくなければその力を捨てろ」
「嫌だよ~。もっとこれを手にいれて、ずっと今より過ごしやすい場所を作るんだっ」
楽しそうに歌うように告げる弟さんです。
彼には力こそが全てのようで、ヴォルの警告を聞き入れる気はないようでした。
「それはお前の意思か?」
「何言ってるの、兄さん。当たり前じゃないか。僕は僕の力で世界を変えるんだよ。こんな面倒な世界なんかいらないもん。僕をちゃんと見てくれる世界を作るんだよっ」
最終確認のように問うヴォルを笑い飛ばし、夢見がちな視線を上に向けます。でも私には、何故かそれが酷く悲しんでいるように見えました。
──自分をちゃんと見てくれる?
「母上はどうした」
「あ~、あんなのいらないもん。急に部屋に飛んできたと思ったらわめき散らすから、思い切り蹴り飛ばしてやった。っていうか兄さんも律儀だよねぇ。あの人は兄さんの母親じゃないし『母上』って言うと怒られる癖に、初めに父上から言われたように呼んであげてんの。凄いよ、本当に。それにあの人は僕も見てない。皇帝の血を引いた、自分の道具が欲しいだけ。便利で逆らわなくて、……壊れない玩具が欲しいだけ」
物凄く笑顔なのに、瞳は全く感情が映っていないです。
でも初めて会った──しかもまだ私よりも小さい子なのに、何故こんなにも恐怖を感じるのでしょうか。
「……僕はダメだった。身体が丈夫じゃないし、兄さんのように魔力持ちでもない」
「ペルニギュート……」
「だからさぁ……、兄さんのその身体を頂戴よ。丈夫だし、精霊にも好かれてるでしょ?大きいしさ。僕のこの身体じゃ、何をしたって足りないもの」
突然うっとりとした表情に変わる弟さんでした。
しかしながら──はい?って聞き直したくなります。『そのクッキーくれない?』的な軽いノリですが、内容はとても辛辣でした。
「あ、何ならついでにその奥さんも相手してあげるからさ。身体が大きくなれば、僕だって『男』になれるんだよね?」
その弟さんの言葉に、ピキッと周囲の空気が変わります。
怖々隣を見上げると、ヴォルの瞳に明らかな怒りが見えました。──地雷を踏みましたよっ。
「冗談にも限度がある」
「あ、怒ったぁ?でも本当に信じられないよねぇ。まさか兄さんに好きな人が出来るとはねぇ?」
ケラケラ笑っていますが、この危機感満載の状況を分かっていないようです。
何やらヴォルが不穏な空気をはらんでいますよ?弟さん──もうペルさんで良いですね──って事でペルさん、それ以上ヴォルの怒りを煽るのは止めた方が良いですよっ。
「兄さんは僕を皇帝にするまでの、ただの繋ぎで良かったのにねぇ。そうしたらあの人にも、ギャンギャン言われなくて良かったじゃない?兄さんが無駄に優秀だから、これまた僕が大変だったんだけどさぁ」
「……俺は帝位を受ける気はない」
「それを皆が信じる訳ないでしょ?官僚達の方が賢いよ。僕と兄さんを仲違いさせて、互いが帝位を争うようにしたいんだもんね。それでどちらが勝っても旨い汁を吸おうっていうんだから、争いから生じる利益がどれだけ凄いか分かるってもんだよねぇ」
十歳くらいの子供が知っている内容ではない気がしました。私は口を挟む事も出来ず、ただ二人のやり取りを見ているしかないです。
笑顔で──でも瞳は笑っていなくて。そんな表情のペルさんは、私の知らない世界の話をしていました。
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