212 / 515
第五章
2.そんな生活があった【4】
しおりを挟む
「マズイ事になった」
不意にヴォルが呟きました。
濡れた手を拭いて彼を見上げると、どうやら帰ってきた精霊さんとお話をしているようです。──でも良い報告ではなかったようで、難しい顔をしていました。
「メル。落ち着いて聞いてくれ。……城内の人間全てが眠っているようだ」
「……全て、が?」
ヴォルが一言前置きをしてから告げます。
それを聞いて私は勿論驚きましたが、取り乱す事はありませんでした。
「結界に異常はない。内部の何らかの異変と思って良い。俺は調査の為に城内を見て回るつもりだ。メルは……」
「私も行きます」
ヴォルの言葉に被せるようにして主張します。──だって、こんなところで一人でお留守番だなんて絶対に嫌でした。
いえ、キッチンでなくとも嫌ですよ。
「……危険かもしれないのだぞ」
「それはここにいたって同じではありませんか?」
少し低い声でヴォルが問い掛けてきます。それでも私の気持ちは変わらないのでした。
だってヴォルのいないところなら、何処だって同じなのですよ。
「結界を……「嫌です」……」
今度は彼の言葉を食い気味に答えます。
結界の中だろうと、精霊さんがついていようと同じなのですって。
「私はヴォルがいるところが良いです」
強く訴えました。
真っ直ぐ視線を向け、引く意思がない事を訴えます。
「……分かった」
「ごめんなさい。私が一緒だと、ヴォルの負担になるかもしれないのですけど。それでもここに一人でいるのなんて嫌なのです」
渋々といった感じでヴォルが了承すると、私は素直に謝罪しました。
「あぁ。俺もメルを残していくのは心配だ。共に行こう」
「はいっ」
改めて同行を求められ、元気に頷きます。
大体私って戦闘では全く役に立たないのですから、元気に笑っているくらいしか出来る事がなかったりします。
そうしてヴォルとお城の中を見て回ったのですが、見事に皆さんが寝ていました。
勿論夜中なので眠る事が悪い訳ではないのですが、ベッドで寝ていない人達に問題の鍵があるようなのです。
「倒れるように寝てしまったようですね」
座り込んで確認してみますが、その人達には特に異常がないように見えました。
それでも力尽きるように、その場に崩れるようにして眠ってしまっているようです。
「魔法か」
呟かれたヴォルの言葉に、私は首を傾げました。
魔法?──眠ってしまう魔法があるのですか。それは眠れない人には便利ですよね。私には必要ないですけど。
だって私は自慢ではありませんが、何処でも寝られますから。
「揺すっても起きないですよ?」
「あぁ。……元を探すしかなさそうだな」
魔法を掛けた人って言う事ですかね。
立ち上がったヴォルの後を追い掛けます。──って言っても、置いて行かれるような事はないですけどね。
ヴォルは常に私の居場所を把握していると言うか、気を配ってくれているようですから。
これは旅をしていた時もそうでしたが、戦闘中でも自分と私の場所を意識されていた気がします。
勿論視線をこちらへ向ける訳ではないのですが、それは感覚の鋭さの違いなのでしょうか。
「何処も同じだな」
「はい。……ベンダーツさんの無防備な顔、初めて見ました」
ここが最後とばかりに様子を見に来た執務室でした。
そしてヴォルと二人、目の前で机に伏せるようにして眠っているベンダーツさんを見ます。
やはり身体を揺すってみても起きないのでした。
不意にヴォルが呟きました。
濡れた手を拭いて彼を見上げると、どうやら帰ってきた精霊さんとお話をしているようです。──でも良い報告ではなかったようで、難しい顔をしていました。
「メル。落ち着いて聞いてくれ。……城内の人間全てが眠っているようだ」
「……全て、が?」
ヴォルが一言前置きをしてから告げます。
それを聞いて私は勿論驚きましたが、取り乱す事はありませんでした。
「結界に異常はない。内部の何らかの異変と思って良い。俺は調査の為に城内を見て回るつもりだ。メルは……」
「私も行きます」
ヴォルの言葉に被せるようにして主張します。──だって、こんなところで一人でお留守番だなんて絶対に嫌でした。
いえ、キッチンでなくとも嫌ですよ。
「……危険かもしれないのだぞ」
「それはここにいたって同じではありませんか?」
少し低い声でヴォルが問い掛けてきます。それでも私の気持ちは変わらないのでした。
だってヴォルのいないところなら、何処だって同じなのですよ。
「結界を……「嫌です」……」
今度は彼の言葉を食い気味に答えます。
結界の中だろうと、精霊さんがついていようと同じなのですって。
「私はヴォルがいるところが良いです」
強く訴えました。
真っ直ぐ視線を向け、引く意思がない事を訴えます。
「……分かった」
「ごめんなさい。私が一緒だと、ヴォルの負担になるかもしれないのですけど。それでもここに一人でいるのなんて嫌なのです」
渋々といった感じでヴォルが了承すると、私は素直に謝罪しました。
「あぁ。俺もメルを残していくのは心配だ。共に行こう」
「はいっ」
改めて同行を求められ、元気に頷きます。
大体私って戦闘では全く役に立たないのですから、元気に笑っているくらいしか出来る事がなかったりします。
そうしてヴォルとお城の中を見て回ったのですが、見事に皆さんが寝ていました。
勿論夜中なので眠る事が悪い訳ではないのですが、ベッドで寝ていない人達に問題の鍵があるようなのです。
「倒れるように寝てしまったようですね」
座り込んで確認してみますが、その人達には特に異常がないように見えました。
それでも力尽きるように、その場に崩れるようにして眠ってしまっているようです。
「魔法か」
呟かれたヴォルの言葉に、私は首を傾げました。
魔法?──眠ってしまう魔法があるのですか。それは眠れない人には便利ですよね。私には必要ないですけど。
だって私は自慢ではありませんが、何処でも寝られますから。
「揺すっても起きないですよ?」
「あぁ。……元を探すしかなさそうだな」
魔法を掛けた人って言う事ですかね。
立ち上がったヴォルの後を追い掛けます。──って言っても、置いて行かれるような事はないですけどね。
ヴォルは常に私の居場所を把握していると言うか、気を配ってくれているようですから。
これは旅をしていた時もそうでしたが、戦闘中でも自分と私の場所を意識されていた気がします。
勿論視線をこちらへ向ける訳ではないのですが、それは感覚の鋭さの違いなのでしょうか。
「何処も同じだな」
「はい。……ベンダーツさんの無防備な顔、初めて見ました」
ここが最後とばかりに様子を見に来た執務室でした。
そしてヴォルと二人、目の前で机に伏せるようにして眠っているベンダーツさんを見ます。
やはり身体を揺すってみても起きないのでした。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる