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第五章
1.俺だけの【4】
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「部屋にでも飛ばしておきましょうか」
「……あぁ、すまぬが今はグラセリーナ抜きで話がしたい」
皇帝様の返答に一つ頷き、ヴォルはすぐに皇妃様を包み込んだシャボン玉を消してしまいました。
この何でもないように行ってしまうヴォルが凄いです。転移魔法はとても高度なんですよ?
「大丈夫なのか?」
「向こうに飛ばしてから結界を解除しましたから、最悪またここに乗り込んでくるでしょうね。まぁ、今はここに結界を張ってありますが」
「そうか。では、先程のグラセリーナの声は」
「問題ありません」
皇妃様を慮る皇帝様と淡々としたヴォルの会話でした。
でもこの二人のやり取りから──いつの間に結界を張ったのか──、皇帝様の部屋は防音になっているようです。
「それで、ヴォルティはどうしたい」
「……前にも言いましたよ」
「今も気持ちは変わらないのか」
「えぇ、変わりません」
「そうか」
話の本題の見えない会話でした。でもヴォルは、自らの意思を既に皇帝様に伝えてあるようです。
私は先が見通せる訳ではありませんから、彼の思いがねじ曲げられる事がないようにと祈ります。──あ……でもヴォルが自己犠牲をしようとか思っているのならば、私が邪魔をしますけど。
「分かった。少し時間をくれないか」
「はい」
「メルシャも、すまなかったな」
「いえ……」
それきり、皇帝様は疲れたように近くの椅子に腰掛けてしまいました。
私はヴォルに促され、ペコリと頭を下げて彼と共に退室します。
「大丈夫ですか?」
廊下に出た途端、疲れたように溜め息をついたヴォル。
彼にとっては想定内の事のようですが、やはり出血の後のこの騒動に疲労を感じない訳がありませんよね。
「問題ない、メル。ベンダーツ、食堂の修繕を頼んだぞ」
「はい、ヴォルティ様」
私に答えた後、廊下に控えていたベンダーツさんに指示を出します。──そう言えば、かなり食堂は壊れていたような……。誰も何も言わないですけど。
「戻るぞ、メル」
「は、はい」
思考に沈んでいた私は、突然自分に声を掛けられて驚いてしまいました。
でも、ヴォルの顔色が少し悪い事に気付きます。出血と精神的疲労の為だけでしょうか。
私は寄り添うようにヴォルを支え、部屋までの道を行きます。
ただでさえ長い廊下が、今日は一段と距離を感じるものになりました。
「疲れたな」
部屋に戻ってすぐ、ヴォルはベッドに身体を沈めてしまいました。やはり身体が辛いのでしょうか。
「少し寝てください」
「……嫌だ」
私の言葉に少しだけ無言を返した後の返答です。──というか、『嫌だ』とは何ですか。
「ダメです。たくさん出血したのですから、水分をとって身体を休めないと良くなりませんよ?」
「それなら、メルがいないとな」
言い聞かせるように告げれば、何故か口角を上げるヴォル。──はい?何故私が……。
なんて疑問に思っている間に、ベッド引き込まれてしまいました。
「あの……」
「俺だけの抱き枕だからな」
『俺だけの』ですか。
そう断言されても悪い気がしない私は、十分にヴォルに染まっているようです。
「そう、ですね」
そしてまた日の高いうちから横になってしまった私達でした。
でもお休みだからって、こんな生活ばかりしていては良くないですよね。──分かってはいますが、今だけ。
今だけは許してもらえますよね?
「……あぁ、すまぬが今はグラセリーナ抜きで話がしたい」
皇帝様の返答に一つ頷き、ヴォルはすぐに皇妃様を包み込んだシャボン玉を消してしまいました。
この何でもないように行ってしまうヴォルが凄いです。転移魔法はとても高度なんですよ?
「大丈夫なのか?」
「向こうに飛ばしてから結界を解除しましたから、最悪またここに乗り込んでくるでしょうね。まぁ、今はここに結界を張ってありますが」
「そうか。では、先程のグラセリーナの声は」
「問題ありません」
皇妃様を慮る皇帝様と淡々としたヴォルの会話でした。
でもこの二人のやり取りから──いつの間に結界を張ったのか──、皇帝様の部屋は防音になっているようです。
「それで、ヴォルティはどうしたい」
「……前にも言いましたよ」
「今も気持ちは変わらないのか」
「えぇ、変わりません」
「そうか」
話の本題の見えない会話でした。でもヴォルは、自らの意思を既に皇帝様に伝えてあるようです。
私は先が見通せる訳ではありませんから、彼の思いがねじ曲げられる事がないようにと祈ります。──あ……でもヴォルが自己犠牲をしようとか思っているのならば、私が邪魔をしますけど。
「分かった。少し時間をくれないか」
「はい」
「メルシャも、すまなかったな」
「いえ……」
それきり、皇帝様は疲れたように近くの椅子に腰掛けてしまいました。
私はヴォルに促され、ペコリと頭を下げて彼と共に退室します。
「大丈夫ですか?」
廊下に出た途端、疲れたように溜め息をついたヴォル。
彼にとっては想定内の事のようですが、やはり出血の後のこの騒動に疲労を感じない訳がありませんよね。
「問題ない、メル。ベンダーツ、食堂の修繕を頼んだぞ」
「はい、ヴォルティ様」
私に答えた後、廊下に控えていたベンダーツさんに指示を出します。──そう言えば、かなり食堂は壊れていたような……。誰も何も言わないですけど。
「戻るぞ、メル」
「は、はい」
思考に沈んでいた私は、突然自分に声を掛けられて驚いてしまいました。
でも、ヴォルの顔色が少し悪い事に気付きます。出血と精神的疲労の為だけでしょうか。
私は寄り添うようにヴォルを支え、部屋までの道を行きます。
ただでさえ長い廊下が、今日は一段と距離を感じるものになりました。
「疲れたな」
部屋に戻ってすぐ、ヴォルはベッドに身体を沈めてしまいました。やはり身体が辛いのでしょうか。
「少し寝てください」
「……嫌だ」
私の言葉に少しだけ無言を返した後の返答です。──というか、『嫌だ』とは何ですか。
「ダメです。たくさん出血したのですから、水分をとって身体を休めないと良くなりませんよ?」
「それなら、メルがいないとな」
言い聞かせるように告げれば、何故か口角を上げるヴォル。──はい?何故私が……。
なんて疑問に思っている間に、ベッド引き込まれてしまいました。
「あの……」
「俺だけの抱き枕だからな」
『俺だけの』ですか。
そう断言されても悪い気がしない私は、十分にヴォルに染まっているようです。
「そう、ですね」
そしてまた日の高いうちから横になってしまった私達でした。
でもお休みだからって、こんな生活ばかりしていては良くないですよね。──分かってはいますが、今だけ。
今だけは許してもらえますよね?
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