「結婚しよう」

まひる

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第四章

10.俺を男だと認識しておけよ【5】

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「ガルシア。メルの服を用意してやってくれ」

 ヴォルの声に、ガルシアさんや他の侍女さん達の周りにあったシャボン玉が消えました。
 何故シャボン玉?──結界、でしたっけ?そしてどうして私の服ですか?周囲が見えていない私は、彼の言葉に小首をかしげます。
 それでもヴォルの状態にはすぐに気が付き、出血している彼を見て私は青ざめました。
 ──そうです。彼が傷を追ったから、私は泣いてしまっていたのでした。

「ヴォルの治療の方が先ですっ。たくさん血が出ているではないですかっ」

 たくさん泣いた為にかすれた声で非難します。迫力はないですが、優先順位は譲れないので仕方ありません。

「頼む……俺の理性が飛ぶ」

 ──はい?
 何故だか視線をらせたままのヴォル。

「服がっ、透けているんだ」

「っ!?」

 ヴォルに言われて初めて気が付きました。
 動揺しそうになる私でしたが、でもまぁ──周りは女の人ばかりですしっ。なんて心の中で言い訳してみます。

「わ、分かりました。私の服は他の侍女さんに用意してもらいますからっ。だ、だからヴォルは治療をしてもらってくださいっ」

「…………承知した」

 渋々といった感じでしたが、ヴォルが頷いてくれました。
 ん?今気付きましたが、この部屋は何故こんなにも荒れ果てているのでしょうか。──まるで嵐が過ぎ去ったみたいに……。

「メルシャ様」

「あ、はいっ」

 侍女さんに呼ばれ、タオルを肩から掛けられました。
 えぇ、かなり透けているのですよ。自分でもビックリなくらいに。

 そしてヴォルは医師の診断が必要との事もあり、医務室へと担架で運ばれて行きました。
 着いていきたいのはやまやまですが、私はとにかく着替えです──と振り向いた先に。
 ──っ!?この人は何?

 虹色のシャボン玉の中に、何故か鳥籠のように囚われている皇妃様を発見してしまいました。
 えっと──中で壁を叩くように暴れていますが、全く音が聞こえてきません。

「あ……、あの……?」

 他の侍女さん達の顔を見回してみましたが──どうやら彼女達では何も出来ないのか、軽く首を横に振られてしまいました。

「メルシャ様。お着替えを先になさって下さい。このままではお風邪を引いてしまいます」

 遠慮がちに声を掛けられ、私も今のままではどうにもならない事だと判断しました。
 そうですよね、着替えてからヴォルに聞きに行きましょう。

「分かりました」

 気にならない訳ではないですが、今の最優先事項は着替えです。
 私は結界の中の皇妃様にペコリとお辞儀をして、その場を立ち去る事にしました。

 そして自分の部屋で急いで着替えを済まし、ヴォルのいる医務室に足早に向かいます。
 あれだけ出血していたのですから、とても心配なのです。あの時の──大きな犬型の魔物に襲われて噛み付かれた──、今も残っている肩の傷もそうでした。
 我慢強いのは良いのですが、耐えれば良いと言う訳ではないのですから。
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