202 / 515
第四章
10.俺を男だと認識しておけよ【4】
しおりを挟む
「い……っ、嫌ぁぁぁ~っ!!」
目も耳も塞ぎ、私は声の限り叫びました。私の声と共に様々な破壊音が地響きの如く轟きます。
激しい轟音の中、私は自分の殻に閉じ籠りました。
メルが悲鳴をあげ、同時に腕輪の『拒絶』の魔法が発動した。
万が一の為、新たに渡した既婚の腕輪にも仕掛けておいたのだが──失敗だった。俺の血を見た途端、自我の枠がぶれたらしい。
とにかく、これ以上被害が及ばないようにとこの部屋に結界を張る。
既にテーブルや椅子は吹き飛ばされ、壁に当たって木っ端微塵だった。
「ヴォルティ様っ!?」
ガルシアが必死に俺に歩み寄ろうとしているが、結界に阻まれて近付けないでいる。
咄嗟の判断から、周囲にいた人間全て個別に小規模結界を張っておいた。本来ならばこの部屋から脱出させるのが一番だが、何分抑えている魔法が俺の魔法である。
全員を空間移動させる程の魔力を割けないというのが本音だった。
「悪い。その場で待機しておいてくれ。俺はこっちを抑えるので精一杯だ」
俺の言葉に驚いたガルシアだが、現状をいち早く把握したようである。──と言うかこの魔法、改良の必要があるな。
「かしこまりました。ご無理をなさらないようにお願い致します。」
元々近くにいた侍女達を集め、壁際に寄り添うようにして深く頭を下げている。
しかし無理も何も、メルを落ち着けなくてはならないのだ。
「ちょっと、何やってるのよっ」
前方からの激しい『拒絶』の圧力に逆らうようにメルへ歩み寄る俺だったが、甲高い声で喚き散らす女がいた。──原因はお前だろう。
「煩い。死にたくなかったら黙ってろ」
頭にきた俺は、皇妃に刺すような鋭い視線を向けて怒鳴る。だが、静かになったのは一瞬だった。
直ぐ様キーキーと金属が擦り合わさるような不愉快な音を響かせ始める。
本当に煩い。
俺はソイツの結界から音を消した。
瞬時に静かになる。初めからこうすれば良かった。
「メル」
漸く彼女に手が届く。
「メル」
反応のない中で何度も呼び掛ける。
「メルシャ」
メルがゆっくりと顔を上げた。
泣いている。──俺が泣かした。
「すまない」
「ヴ~……!!」
途端に圧力が消える。彼女が自我を取り戻した事で魔法が解除されたのだ。
メルが俺の胸に顔を埋めるように泣き付いてくる。
「メル……、泣くな」
宥めるように肩を抱き、背中を撫でた。彼女の壊れそうな程細い肩が小さく跳ねている。
「……ヴォルティ様、治療をなさいませんと……」
控え目にガルシアが声を掛けてきた。
そして確かに出血は未だ続いている。花瓶を受けた時に大半は腕で破壊したのだが、破片が一部頭皮を裂いたようだ。
「あぁ」
俺の返答に、メルが再度ゆるゆると顔を上げた。茶の大きな瞳に涙を溜めたまま、傷口を見定めようとしているのか。
だが──濡れた俺にしがみついた為、メルの服が透けているのに気付いてしまった。
鎮まれ、俺。
目も耳も塞ぎ、私は声の限り叫びました。私の声と共に様々な破壊音が地響きの如く轟きます。
激しい轟音の中、私は自分の殻に閉じ籠りました。
メルが悲鳴をあげ、同時に腕輪の『拒絶』の魔法が発動した。
万が一の為、新たに渡した既婚の腕輪にも仕掛けておいたのだが──失敗だった。俺の血を見た途端、自我の枠がぶれたらしい。
とにかく、これ以上被害が及ばないようにとこの部屋に結界を張る。
既にテーブルや椅子は吹き飛ばされ、壁に当たって木っ端微塵だった。
「ヴォルティ様っ!?」
ガルシアが必死に俺に歩み寄ろうとしているが、結界に阻まれて近付けないでいる。
咄嗟の判断から、周囲にいた人間全て個別に小規模結界を張っておいた。本来ならばこの部屋から脱出させるのが一番だが、何分抑えている魔法が俺の魔法である。
全員を空間移動させる程の魔力を割けないというのが本音だった。
「悪い。その場で待機しておいてくれ。俺はこっちを抑えるので精一杯だ」
俺の言葉に驚いたガルシアだが、現状をいち早く把握したようである。──と言うかこの魔法、改良の必要があるな。
「かしこまりました。ご無理をなさらないようにお願い致します。」
元々近くにいた侍女達を集め、壁際に寄り添うようにして深く頭を下げている。
しかし無理も何も、メルを落ち着けなくてはならないのだ。
「ちょっと、何やってるのよっ」
前方からの激しい『拒絶』の圧力に逆らうようにメルへ歩み寄る俺だったが、甲高い声で喚き散らす女がいた。──原因はお前だろう。
「煩い。死にたくなかったら黙ってろ」
頭にきた俺は、皇妃に刺すような鋭い視線を向けて怒鳴る。だが、静かになったのは一瞬だった。
直ぐ様キーキーと金属が擦り合わさるような不愉快な音を響かせ始める。
本当に煩い。
俺はソイツの結界から音を消した。
瞬時に静かになる。初めからこうすれば良かった。
「メル」
漸く彼女に手が届く。
「メル」
反応のない中で何度も呼び掛ける。
「メルシャ」
メルがゆっくりと顔を上げた。
泣いている。──俺が泣かした。
「すまない」
「ヴ~……!!」
途端に圧力が消える。彼女が自我を取り戻した事で魔法が解除されたのだ。
メルが俺の胸に顔を埋めるように泣き付いてくる。
「メル……、泣くな」
宥めるように肩を抱き、背中を撫でた。彼女の壊れそうな程細い肩が小さく跳ねている。
「……ヴォルティ様、治療をなさいませんと……」
控え目にガルシアが声を掛けてきた。
そして確かに出血は未だ続いている。花瓶を受けた時に大半は腕で破壊したのだが、破片が一部頭皮を裂いたようだ。
「あぁ」
俺の返答に、メルが再度ゆるゆると顔を上げた。茶の大きな瞳に涙を溜めたまま、傷口を見定めようとしているのか。
だが──濡れた俺にしがみついた為、メルの服が透けているのに気付いてしまった。
鎮まれ、俺。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる