「結婚しよう」

まひる

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第四章

10.俺を男だと認識しておけよ【4】

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「い……っ、嫌ぁぁぁ~っ!!」

 目も耳も塞ぎ、私は声の限り叫びました。私の声と共に様々な破壊音が地響きのごとく轟きます。
 激しい轟音の中、私は自分の殻に閉じ籠りました。



 メルが悲鳴をあげ、同時に腕輪の『拒絶』の魔法が発動した。
 万が一の為、新たに渡した既婚の腕輪にも仕掛けておいたのだが──失敗だった。俺の血を見た途端、自我の枠がぶれたらしい。

 とにかく、これ以上被害が及ばないようにとこの部屋に結界を張る。
 既にテーブルや椅子は吹き飛ばされ、壁に当たって木っ端微塵だった。

「ヴォルティ様っ!?」

 ガルシアが必死に俺に歩み寄ろうとしているが、結界にはばまれて近付けないでいる。
 咄嗟の判断から、周囲にいた人間全て個別に小規模結界を張っておいた。本来ならばこの部屋から脱出させるのが一番だが、何分なにぶん抑えている魔法が俺の魔法である。
 全員を空間移動させる程の魔力をけないというのが本音だった。

「悪い。その場で待機しておいてくれ。俺はこっちを抑えるので精一杯だ」

 俺の言葉に驚いたガルシアだが、現状をいち早く把握したようである。──と言うかこの魔法、改良の必要があるな。

「かしこまりました。ご無理をなさらないようにお願い致します。」

 元々近くにいた侍女達を集め、壁際に寄り添うようにして深く頭を下げている。
 しかし無理も何も、メルを落ち着けなくてはならないのだ。

「ちょっと、何やってるのよっ」

 前方からの激しい『拒絶』の圧力に逆らうようにメルへ歩み寄る俺だったが、甲高い声でわめき散らす女がいた。──原因はお前だろう。

「煩い。死にたくなかったら黙ってろ」

 頭にきた俺は、皇妃それに刺すような鋭い視線を向けて怒鳴る。だが、静かになったのは一瞬だった。
 直ぐ様キーキーと金属が擦り合わさるような不愉快な音を響かせ始める。

 本当に煩い。
 俺はソイツの結界から音を消した。
 瞬時に静かになる。初めからこうすれば良かった。

「メル」

 ようやく彼女に手が届く。

「メル」

 反応のない中で何度も呼び掛ける。

「メルシャ」

 メルがゆっくりと顔を上げた。
 泣いている。──俺が泣かした。

「すまない」

「ヴ~……!!」

 途端に圧力が消える。彼女が自我を取り戻した事で魔法が解除されたのだ。
 メルが俺の胸に顔を埋めるように泣き付いてくる。

「メル……、泣くな」

  なだめるように肩を抱き、背中を撫でた。彼女の壊れそうな程細い肩が小さく跳ねている。

「……ヴォルティ様、治療をなさいませんと……」

 控え目にガルシアが声を掛けてきた。
 そして確かに出血はいまだ続いている。花瓶を受けた時に大半は腕で破壊したのだが、破片が一部頭皮を裂いたようだ。

「あぁ」

 俺の返答に、メルが再度ゆるゆると顔を上げた。茶の大きな瞳に涙を溜めたまま、傷口を見定めようとしているのか。
 だが──濡れた俺にしがみついた為、メルの服が透けているのに気付いてしまった。

 鎮まれ、俺。
          
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