「結婚しよう」

まひる

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第四章

10.俺を男だと認識しておけよ【2】

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「あの……、ヴォルは魔法を使っていて疲れないのですか?」

 正視出来ない状況なので、私は現実逃避を求めます。

「このくらいでは疲れない。余程強力な魔法を連発すれば違うだろうが、前回旅に出た時もそれ程魔力に頼らなかったからな」

 実際にあふれ出る魔力を精霊さんにあげていても、まだヴォルは無意識下でこの国の結界を維持出来るのですよね。
 確かにこれ程の力の持ち主なら、生物として遺伝子を残したいと思うのも理解は出来ます。──個人的に納得は出来ませんけどね。

「魔力は遺伝ではないのですよね?」

「そうだな。事実、俺の父も母も魔力持ちではない」

 それならば──と口を開こうとしましたが、続けられたヴォルの言葉に止まります。

「割合は多い方だがな」

 あ、そうですか。
 何故だか気落ちしてしまった私でした。

「……だからこそ、女性達がヴォルを求めるのですかね」

「良い迷惑だ」

 呟くような私の声が聞こえたのか、ヴォルが律儀に返答をしてくれます。
 フフッ──本当、迷惑ですよね。そんなヴォルの言葉に、私も思わず笑ってしまいました。

「メルは構わないのか?」

「何がですか?」

 彼の問い掛けに問い掛けで返し、ハッと気付きました。魔力を持つ事で良い思いをしていないヴォルにとって、これは良いスキルではないからなのでしょう。
 でもこんなやり取り、何度目でしょうかね。

「私、前にも言いましたよ?魔法ってとっても素敵ですもの。ヴォルが魔力を好きになれなくても、私は素晴らしい贈り物だと思います。大体それが何であっても、使う人次第ですからっ」

「……ありがとう」

 拳を握り締めそうな意気込みで私が断言してしまったのですが、ヴォルは小さく謝意を告げてきました。

「えっ?」

「やはり、メルでないと駄目だ」

 ギュッと抱き締められます。──あぁ、ヴォルの嬉しい気持ちが流れてくるようでした。
 でもこれって、物凄く恥ずかしいのですが。

「あ、あの……服を着ませんか?」

 お湯につかっているだけではなく、違う意味で逆上のぼせてきます。

「そうだな。……このままでは抑えが効かなくなりそうだ」

 耳元で告げられる言葉に首筋まで熱くなりながらも、ヴォルに手伝ってもらいながらタオル地のゆったりとした服に身を包みます。
 まだ生まれたての小鹿のように足がガクガクしますが、何とか立てるようになりました。

「ガルシアを呼んでこよう。それまではベッドで横になっていると良い」

「ありがとうございます、ヴォル」

 それでも心配性なヴォルにベッドに抱き上げられて連れていかれたのですが、ポンと優しく頭を撫でられたのは嬉しいです。
 激しいスキンシップより、こういった柔らかな接触の方が心穏やかに受け止められますね。

「っ!?」

 そんな気持ちで微笑んでいましたら、突然ヴォルのキスが降ってきました。
 びっくりして目を見開いてしまいます。

「俺を男だと認識しておけよ」

「し、してますよっ」

 真っ赤になって反論しましたが、ヴォルはそれでも満足そうに笑みを浮かべました。意地悪そうな微笑みでしたけどね。
 もぅ──、本当に気を抜いていられないですよ。
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