「結婚しよう」

まひる

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第四章

9.限界だ【2】

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「その為に…………時間を作る為に公務を詰めたんだ」

 視線をらしながらもヴォルが答えてくれたのですが──すみません。私には言葉の意味が分からないです。
 思い切り首をかしげたのを、ヴォルは雰囲気で感じたようです。小さく溜め息をつかれ、私は彼を見上げました。

「……その…………最近……、あまり話せなかっただろう」

 言いにくそうに告げるヴォルです。
 ──えっと……、あまり話せなかった……から?…………ん?
 そんな問答をしている間も歩みは止まる事がなく、いつの間にかヴォルの部屋に着いていました。

「アイツが……、時間は作れと言うし」

 ヴォル、私と話す時間を作る為にお仕事をたくさんされていたのですか?まぁ、毎日お忙しいのは知っていますが──でもとの為に?
 扉を開けて中に入りつつも、ブツブツと呟くヴォルを初めて見ました。普段は淡々と、しかも断定的に話すのにですよ。

「一週間程の仕事は片付けた。だから……」

「本当に?……一緒にいられるのですか?」

 言葉が自然と出てきます。深く考える事など、必要ないくらいに。
 少し勢いがありすぎたのか、わずかにヴォルの瞳が開かれます。

「あ、あぁ。…………嬉しいのか?」

 少し戸惑ったようなヴォルでした。
 問い掛けられた内容は、私の満面の笑みを見たから──ですかね?
 でもだって、本当に嬉しいですもの!

「はいっ。私、ヴォルと一緒にいたいです」

「っ。……そ、そうか」

 息を呑んで視線をらしたヴォルでした。──でも、私の腰を抱いたままです。
 こうして触れられるのも久し振りな気がして──、嬉しいのですけど恥ずかしいですね。

「あ、あの……。部屋に戻ってきて……、どうなさるのですか?」

 抱き留められている事に恥じらいを感じ、モゾモゾとし始めた私です。
 距離感が半端なく近いのですが。

「メルとの時間を過ごす」

 ハッキリと告げられ、真っ直ぐに青緑色の瞳を向けられます。──な、何かドキドキします。
 ヴォルとの距離と言葉に、私は声なく口を開閉してしまいました。

「嫌か?」

 そんな私に、低い──何か物凄く甘い声で問われます。──嫌な訳、ないではないですかっ。
 私は思い切り首を横に振りました。

「メルに……触れたい」

 ヴォルの言葉を聞くだけでゾクゾクしてきます。
 もう既に一杯一杯な私は声も出せず、今度はコクコクと首を縦に振ります。

「キス……したい」

 ──キャーッ!
 ドキドキが激しすぎて、心臓が口から出てこないでしょうか。
 どう答えて良いのか分からないですが、ヴォルは私の返答を待っているようです。ジッとこちらを見ているのです。
 私は真っ直ぐ見返す事が出来ず、視線だけで見上げつつも首を縦に振りました。

 途端にフワリと微笑まれました。──ドキッ、ですよ。
 もう心臓が、有り得ない程高速回転です。その逆に頭は全く働いてくれず、ヴォルの匂いと声と視線にショート寸前でした。
 わ、私はこのまま──いえ、壊れても良いかもしれないです。
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