「結婚しよう」

まひる

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第四章

8.歩み寄って【2】

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「少しは……落ち着きましたか?」

「はい……、すみません」

 優しいガルシアさんの声に、泣き腫らした目を向けられず答えます。
 ずっと──ただ泣き続ける私の横に、ガルシアさんはいてくれました。何を聞くでもなく、ただそばにいてくれたのです。
 それが今の私にとって、どれだけ心強かった事か。

「冷たいおしぼりです。目元を冷やされた方が良いですね」

 そう言って氷で冷やしたタオルを手渡してくれました。あぁ──やっぱり腫れていますよね。
 元が良くないのに、これ以上不細工になってはヴォルの近くにもいれません。

 ──近く?
 私は自然と出てきた自分の考えに首をかしげました。

「私……、ヴォルの近くにいても良いのでしょうか……」

 呟くようにれる疑問でした。

「……メルシャ様は、ヴォルティ様のお近くにいる事がお嫌なのですか?」

 私の呟きに答えてくれたのはガルシアさんです。勿論、即座に私はその問いを首を横に振る事で否定しました。
 嫌な訳がないではないですか。

「それでしたら、何故その様なご質問をされるのですか?」

「私……」

 モヤモヤとした黒い物が心を押し潰します。
 それでも少しずつ心に積もってきた物の正体が分かりません。これはただの不安なのでしょうか。

「……ヴォルに……側室、候補の……」

「その話を聞いて、どう思ったのですか?」

 途切れ途切れの私の言葉を、またガルシアさんは質問に変えてきました。
 しかしながらあせらす事はなく、私自身に考えを促しているかのような優しい声です。

「話……」

「随分前から話題自体は出ていたのです。勿論、メルシャ様とご婚約なされる前からも。正妃を取らずとも、せめて……と」

 その言葉を聞いて、ズキンと胸が痛みました。──何故?
 皆はどうしてヴォルを見ていないのでしょうか。

「どうして……」

 思ったまま言葉がこぼれます。
 血筋とか地位とか。それは単にヴォルに付随ふずいしているだけのものなのにですよ。

「ヴォルティ様御自身のお考えとは違い、周囲からはお立場が重要視されますからね。皇帝様のお子は他にもお二方いらっしゃいますが……。私がこんな事を申し上げてはならないのですけれども、お力も存在感もヴォルティ様とは比べ物になりませんもの」

 私の問いとは別に、ガルシアさんはヴォルを褒め称えます。
 でも、それが答えでもあるのでしょう。

「精霊様にも好かれる程の魔力を持ったあの方は、この国の結界すらお一人で維持する事が出来るのです。しかも無意識下で。その方の遺伝子を欲するのは、しゅとして当然の事だと思われますわ」

 遺伝子──。
 結界の話はヴォルからも聞きましたが、やはり物凄い事なのですね。

「それでも私は、ヴォルティ様のご意志を尊重します。だってあの方が笑顔になられる事が、一番私も幸せなのですから」

 暗く沈んでいた心に小さな光が差しました。──でも笑顔、って……。
 確かに普段のヴォルは無表情というか、感情表現がとぼしいのですが。

「メルシャ様とご一緒にお戻りになられてから、随分とヴォルティ様は表情が豊かになられましたわ。笑顔も何度も拝見して、本当にお幸せなのだと思って……」

 キラキラとした表情で話していたガルシアさんが、突然口を閉ざしました。
 え……?何故私をジッと見つめるのですか?
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