「結婚しよう」

まひる

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第四章

7.喉が乾く【5】

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 ようやく勉強部屋に到着したものの、ベンダーツさんに遅刻の事を何か言われるのではないかと内心ハラハラしていました。
 でも何事もなかったかのように礼儀作法の勉強が始まり、午後からも薬草の勉強をいつものようにこなします。

 歴史も言葉の勉強も何とかこなしていましたから、ベンダーツさんにお小言をもらう事も少なくなりました。ガルシアさんも色々と良くしてくれます。でも──。

 私はその他の人達との交流を一切持っていませんでした。ヴォルとベンダーツさんとガルシアさんだけです。
 その他の人は挨拶はするものの特に会話もなく──と言うか、会話が始まる前に私がその場を辞していました。
 下手な事を口走ってヴォルに迷惑を掛けてはなりませんし、そもそも私が他者への恐怖にさいなまれているだけなのですけど。

 時折サーファさんのように直接に言ってくる方もいましたが、基本的には些細な嫌がらせくらいでした。
 それでも、私が他の方々にどう思われているかがありありと感じられましたから。

「どうした、メル」

 ヴォルが声を掛けてくれます。毎夜、寝具を同じにするのは変わりません。抱き枕なのも。
 でもあの日から、私はただの抱き枕に戻りました。特別親密なスキンシップもありません。

「いいえ、何でもないです」

 問われても、答えるすべを持ち合わせていない私でした。
 ただ、首を横に振るだけです。

「そうか。……寝る」

「はい……」

 布団に誘われるままに、ヴォルの腕の中に潜り込みます。でも、ただそれだけです。
 背中越しにヴォルの体温を感じながら、不安で──でもホッとする中で眠りにつくのでした。



 腕の中で寝息をたてるメル。
 無意識のうちに首筋に鼻先をうずめていた自分に気付き、苦笑いする。──馬鹿馬鹿しいプライドだ。その癖、女々しい。
 突き放しているのは俺なのに、触れずにはいられない自分が歯痒い。メルは俺を好いてくれているのに、それ以上のものを求めている自分にヘドが出る。

 俺は腕の中の彼女を見る。このところ彼女の笑みには陰りがある。俺のせいだと自覚はあるが、今はそれをどうにも出来ないもどかしさもあった。

 思わず溜め息が出る。メルと接する時間の長いベンダーツやガルシアは、もう気付いているだろう。だが、どうすれば良い。

 彼女が欲しい。身も心も、全て。傲慢だろうか。今更何を、と言われるだろうか。

 官僚が騒ぎ始めている。
 側室だと?冗談だろ。俺は種馬じゃない。皇帝の血なんか、糞食らえだ。『魔力持ち』だ、『精霊付き』だと事あるごとに騒ぎ立てていたのに。婚儀の事だって散々煩いから、嫌がらせの意味も含めてわざわざ大陸外から連れてきたのだ。メルには何も告げず……。

 それでもメルは俺が良いと言ってくれた。

 メル以外はいらない。──身体が疼く。あの時の感覚が俺を襲う。
 あぁ、喉が乾く。
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