「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
186 / 515
第四章

7.喉が乾く【3】

しおりを挟む
 朝の光に意識が呼ばれました。
 あぁ、私はいつの間にか眠ってしまったようですね。昨日は色々と落ち込んでいたのですけど、結局結論は出ませんでした。

「起きたのか、メル」

「はい。おはようございます、ヴォル……っ?!」

 いつものように後頭部から──って、えぇっ!?
 何故か目の前にヴォルが座っています。

 驚きに見開かれた私の目に、ヴォルの青緑の瞳が真っ直ぐに向けられていました。
 ──ど、ど、ど、どうして?!

「……起きるか」

 混乱したままの私をしばらく見つめていたヴォルでしたが、髪をき上げながらゆっくりと上半身を起こします。
 そこでようやく我に返った私でした。だってヴォルはちゃんと寝具を身に付けていましたから。
 単に起きるのが早すぎたとか、何か用事があって先に起き上がっただけなのでしょう。──勝手ですがそう思いましょう。

「は、はい」

 少し焦ってしまいましたが大丈夫です。無く自分の身体を確認し、寝具を身に付けている安心を得ていました。
 そして今の私に出来る事は、いつもの『私』を見せる事です。

「俺は今日一日公務だ」

「わ、分かりました」

 ヴォルが着替えながら告げる言葉に、必死に目をらしながら答えます。──って言うか、目の前で裸になられても困ってしまいますよ。

「そろそろガルシアが来る頃だ。また朝食の時にな」

「あ、はいっ。いってらっしゃい、ヴォル」

 出ていく気配に振り向き、慌てて頭を下げました。
 そしてポフッと布団に顔から倒れ込みます。

 ──私、いつも通りに出来ました?おかしくなかったですか?
 でも何故今日は……抱き枕状態ではなかったのでしょうか。
 その流れから抱き枕ではなかったあれを思い出しました。ボンッと顔が熱くなります。だって私、ヴォルの胸に抱かれて……っ。

 更に翌朝に起きた時の状況を思い出し、一人で赤面していました。ノックの音にも気付かない程です。

「メルシャ様?」

「あっ、はいっ!?」

 勢い良く顔を上げると、部屋の隅の方にガルシアさんが控え目に立っていました。
 赤面して悶えているところをしっかりと見られていたようで、私は更に耳まで熱くなってしまいます。──恥ずかしい過ぎて穴があったら入りたい気持ちでした。

「申し訳ございません、メルシャ様。ノックを致しましたがお返事がなかったので、失礼を承知で入室させて頂きました」

 ガルシアさんが深く頭を下げて訴えて来ます。
 毎朝彼女が来てくれる事は分かっているので、いつもの私は起きる準備をして待っているのでした。

「あ、いえっ。すみません、私の方こそ気付かなくて」

 慌ててベッドから降りましたが、駆け寄る事は許されません。ガルシアさんが来てくれるのを待つだけです。
 立場とか諸々もろもろ、色々な面倒な規律があるのでした。

「では、失礼致します」

 今日の着替え一式を持ってきてくれたガルシアさんは、いつものように私の身の回りのお世話をしてくれます。──そう、変わらずいつものように。

 こんな平和な日って、そう長く続かないものなのですよね。しみじみ思います。
 だって今、私の目の前に立ち並んでいる事態がそう言わせますもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

処理中です...