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第四章
≪Ⅶ≫喉が乾く【1】
しおりを挟むあれから私は自分の部屋に戻り、ガルシアさんから借りた本を読んでいました。──でも、全く文章が頭に入って来ません。
何度も先程のヴォルとのやり取りが思い出されます。
「……はぁ……」
何度目かになる溜め息をつきました。
ダメですね、こんなの。俯いて、後ろ向きで。開いた本はページを捲るだけで、こちらもせっかく貸してくれたガルシアさんに悪い事をしています。
鬱々としている私の耳に、静かなノックが聞こえました。
「……はい」
「ガルシアでございます」
「どうぞ」
「失礼致します」
私が答えてから、二拍程してから扉が開きます。これ、私はベンダーツさんに何度もダメ出しされました。
ノックの後にすぐ開けてしまってはダメなのだとか。中の状況は外には分かりませんし、返答が聞こえない場合や就寝中などの応対出来ないパターンもありますからね。
「メルシャ様。お食事の準備が整いましてございます」
その言葉に外に視線を向け、初めて夕暮れに染まる時間なのだと気付きました。
然程集中出来てはいませんでしたが、時間は無情にも過ぎ去るものです。
「あ、はい。分かりました。ありがとうございます、ガルシアさん」
「どうか……なさったのですか?」
笑みを浮かべたつもりでしたが、失敗してしまったようです。気遣わしげにガルシアさんに問われてしまいました。
でも今の心境を口に出来る程、私自身が自分を理解出来ていないのです。
「……いえ……、何でもない……です」
ぎこちない笑みでも、これが今の私の精一杯でした。
「……差し出がましい事を申しました。どうぞ、こちらでございます」
ガルシアさんはそれ以上問う事もなく、私を食堂に案内してくれました。
勿論、食堂にはヴォルがいました。先程のやり取りの為か、いつものより重い空気が漂っています。
私が喋らないから余計に暗くなりますね。息苦しい──です。こんな事……、初めてではないでしょうか。
ソッとヴォルを伺うと、いつもと特に代わりのない表情で黙々と食事をしています。
こんな……でした?私が気にしすぎなのでしょうか。
「どうした、メル。食べないのか?」
「あ、いえ……」
ヴォルに問われ、慌ててスプーンを動かします。
──でも、すぐに止まってしまいました。食欲が沸きません。
まだ目の前のスープは半分も減っていませんでした。
「すみません……。あまりお腹……空いてなくて……」
「そうか。……具合が悪いのか?」
「い、いえ。それは大丈夫です、……ごめんなさい。私、先に部屋に戻っています」
医師を呼ばれても困ります。
そんな思いから私は作り笑いを浮かべ、早くこの場所から立ち去りたくて腰を浮かせました。
「俺も戻ろう」
「あ、いえ、そんな……。ヴォルは食事を続けて下さい」
ヴォルまで食事を中断させては申し訳ないです。私は慌てて断りの言葉を告げますが、ヴォルは既に立ち上がっていました。
まだメインに辿り着いていないので、給仕係の方にも迷惑を掛ける事になります。
あぁ──私、ダメじゃないですか。
「ごめんなさい……」
「問題ない」
頭を下げた私に対し、ヴォルは淡々と答えます。
分かっています。これは怒っているとかではなく、通常の反応ですよね。
そのままヴォルに付き添われて部屋に戻ります。──勿論、ヴォルの部屋ですが。
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