「結婚しよう」

まひる

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第四章

6.知りたい【3】

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「私は嫌ですからね、ヴォルが石になってしまうなんて」

 私はヴォルの瞳を見つめ、はっきりと口にしました。
 このような我が儘とも思える言葉ですが、これだけは彼に言っておかなければならないと思ったからです。
 前にも伝えたと思いますが、何だか当たり前に魔法石になる事を認めているように聞こえたのですよ。

「……そうか」

 でもヴォルは、はっきりと約束してくれませんでした。わずかに視線を伏せただけです。
 この価値観の相違を簡単には変えられそうにありません。恐らく、幼い頃から刷り込まれるように周りから言われ続けたのでしょうから。

「だが、覚えておいてほしい。この世界の魔力とは、存在の危ういものだ。非人道的だと言われようが、魔物の存在がある限り魔法石となる魔力持ちが必要なのだ」

「それは……」

 淡々と、感情なくヴォルから告げられる内容でした。
 聞きましたよ、前に。でも──それでも私は、ヴォルがいなくなってしまうのが嫌なのです。

 私を一人に……しないで下さい。

 言葉に出来ない想いがありました。大切な者がいなくなるのは、もう嫌なのです。突然目の前から消えてしまったら……、残された者はどうすれば良いのですか?

「……っ……」

 考えたらもう涙が止まらなくなりました。あふれ出る涙と感情に息が詰まります。
 思わず俯くと、頬にペタリと張り付く何かに気が付きました。

「すまない、メル。悲しませるつもりはないのだ。だが、事実は事実として認識しておいてほしい。……精霊も心配している。泣き止んでくれ」

 私の頬に張り付いた生命の精霊さんと、目の前で不安げに瞳を揺らすヴォル。
 そうです。私が泣いていたって、何も始まらないですよね。

 ただ泣くだけなんて意味がないです。私は顔を上げました。まばたきと共に大粒の涙が一つこぼれ落ちましたが、これくらいは許してくださいね。

「はい。でも私は出来る限り、それを回避する方法を探したいです」

「あぁ……。だからこそ俺は、魔力の坩堝るつぼを探しに行きたいのだがな」

 魔力の坩堝るつぼ──、魔物が生まれるという場所ですね。

「あ……、でも精霊さんは何処ででも生まれるのですか?この子は、何故ここで?」

 私の涙が止まったのを確認した為か、小さな精霊さんは既に私から離れてフワフワと周囲を漂っていました。
 他の精霊さんと空中で回りながら、まるでダンスをしているかのようです。

「そうだな。俺も初めて目にした。魔力液が幾つか消えてしまったが、それらを媒体として発生したようだ。……だがまさか、絶滅してしまったと言われている生命の精霊とはな」

 ヴォルも生命の精霊さんを不思議そうに見ていました。
 あ、でもどうしてこの精霊さんが『生命の精霊』さんだと分かったのでしょうか。

「あの、精霊さんは自己紹介をされるのですか?」

「そうだ。どの精霊も俺に対して自己アピールしてくる。煩いぞ?」

 私の問いに、ヴォルは少しだけ眉尻を下げました。
 ──フフッ。
 嫌そうに、でも楽しそうに告げてくれたヴォルを見て笑みがこぼれます。

「ヴォルは本当に精霊さんの事が好きなんですね」

 あまりにも微笑ましい光景だったので、私はこれがずっと続けば良いとまで思いました。
 彼にとって常に一緒にいる精霊さんは、きっとなくてはならない大切な存在なのでしょう。
 私も──そんな風になれたら良いです。
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