181 / 515
第四章
6.知りたい【3】
しおりを挟む
「私は嫌ですからね、ヴォルが石になってしまうなんて」
私はヴォルの瞳を見つめ、はっきりと口にしました。
このような我が儘とも思える言葉ですが、これだけは彼に言っておかなければならないと思ったからです。
前にも伝えたと思いますが、何だか当たり前に魔法石になる事を認めているように聞こえたのですよ。
「……そうか」
でもヴォルは、はっきりと約束してくれませんでした。僅かに視線を伏せただけです。
この価値観の相違を簡単には変えられそうにありません。恐らく、幼い頃から刷り込まれるように周りから言われ続けたのでしょうから。
「だが、覚えておいてほしい。この世界の魔力とは、存在の危ういものだ。非人道的だと言われようが、魔物の存在がある限り魔法石となる魔力持ちが必要なのだ」
「それは……」
淡々と、感情なくヴォルから告げられる内容でした。
聞きましたよ、前に。でも──それでも私は、ヴォルがいなくなってしまうのが嫌なのです。
私を一人に……しないで下さい。
言葉に出来ない想いがありました。大切な者がいなくなるのは、もう嫌なのです。突然目の前から消えてしまったら……、残された者はどうすれば良いのですか?
「……っ……」
考えたらもう涙が止まらなくなりました。溢れ出る涙と感情に息が詰まります。
思わず俯くと、頬にペタリと張り付く何かに気が付きました。
「すまない、メル。悲しませるつもりはないのだ。だが、事実は事実として認識しておいてほしい。……精霊も心配している。泣き止んでくれ」
私の頬に張り付いた生命の精霊さんと、目の前で不安げに瞳を揺らすヴォル。
そうです。私が泣いていたって、何も始まらないですよね。
ただ泣くだけなんて意味がないです。私は顔を上げました。瞬きと共に大粒の涙が一つこぼれ落ちましたが、これくらいは許してくださいね。
「はい。でも私は出来る限り、それを回避する方法を探したいです」
「あぁ……。だからこそ俺は、魔力の坩堝を探しに行きたいのだがな」
魔力の坩堝──、魔物が生まれるという場所ですね。
「あ……、でも精霊さんは何処ででも生まれるのですか?この子は、何故ここで?」
私の涙が止まったのを確認した為か、小さな精霊さんは既に私から離れてフワフワと周囲を漂っていました。
他の精霊さんと空中で回りながら、まるでダンスをしているかのようです。
「そうだな。俺も初めて目にした。魔力液が幾つか消えてしまったが、それらを媒体として発生したようだ。……だがまさか、絶滅してしまったと言われている生命の精霊とはな」
ヴォルも生命の精霊さんを不思議そうに見ていました。
あ、でもどうしてこの精霊さんが『生命の精霊』さんだと分かったのでしょうか。
「あの、精霊さんは自己紹介をされるのですか?」
「そうだ。どの精霊も俺に対して自己アピールしてくる。煩いぞ?」
私の問いに、ヴォルは少しだけ眉尻を下げました。
──フフッ。
嫌そうに、でも楽しそうに告げてくれたヴォルを見て笑みが溢れます。
「ヴォルは本当に精霊さんの事が好きなんですね」
あまりにも微笑ましい光景だったので、私はこれがずっと続けば良いとまで思いました。
彼にとって常に一緒にいる精霊さんは、きっとなくてはならない大切な存在なのでしょう。
私も──そんな風になれたら良いです。
私はヴォルの瞳を見つめ、はっきりと口にしました。
このような我が儘とも思える言葉ですが、これだけは彼に言っておかなければならないと思ったからです。
前にも伝えたと思いますが、何だか当たり前に魔法石になる事を認めているように聞こえたのですよ。
「……そうか」
でもヴォルは、はっきりと約束してくれませんでした。僅かに視線を伏せただけです。
この価値観の相違を簡単には変えられそうにありません。恐らく、幼い頃から刷り込まれるように周りから言われ続けたのでしょうから。
「だが、覚えておいてほしい。この世界の魔力とは、存在の危ういものだ。非人道的だと言われようが、魔物の存在がある限り魔法石となる魔力持ちが必要なのだ」
「それは……」
淡々と、感情なくヴォルから告げられる内容でした。
聞きましたよ、前に。でも──それでも私は、ヴォルがいなくなってしまうのが嫌なのです。
私を一人に……しないで下さい。
言葉に出来ない想いがありました。大切な者がいなくなるのは、もう嫌なのです。突然目の前から消えてしまったら……、残された者はどうすれば良いのですか?
「……っ……」
考えたらもう涙が止まらなくなりました。溢れ出る涙と感情に息が詰まります。
思わず俯くと、頬にペタリと張り付く何かに気が付きました。
「すまない、メル。悲しませるつもりはないのだ。だが、事実は事実として認識しておいてほしい。……精霊も心配している。泣き止んでくれ」
私の頬に張り付いた生命の精霊さんと、目の前で不安げに瞳を揺らすヴォル。
そうです。私が泣いていたって、何も始まらないですよね。
ただ泣くだけなんて意味がないです。私は顔を上げました。瞬きと共に大粒の涙が一つこぼれ落ちましたが、これくらいは許してくださいね。
「はい。でも私は出来る限り、それを回避する方法を探したいです」
「あぁ……。だからこそ俺は、魔力の坩堝を探しに行きたいのだがな」
魔力の坩堝──、魔物が生まれるという場所ですね。
「あ……、でも精霊さんは何処ででも生まれるのですか?この子は、何故ここで?」
私の涙が止まったのを確認した為か、小さな精霊さんは既に私から離れてフワフワと周囲を漂っていました。
他の精霊さんと空中で回りながら、まるでダンスをしているかのようです。
「そうだな。俺も初めて目にした。魔力液が幾つか消えてしまったが、それらを媒体として発生したようだ。……だがまさか、絶滅してしまったと言われている生命の精霊とはな」
ヴォルも生命の精霊さんを不思議そうに見ていました。
あ、でもどうしてこの精霊さんが『生命の精霊』さんだと分かったのでしょうか。
「あの、精霊さんは自己紹介をされるのですか?」
「そうだ。どの精霊も俺に対して自己アピールしてくる。煩いぞ?」
私の問いに、ヴォルは少しだけ眉尻を下げました。
──フフッ。
嫌そうに、でも楽しそうに告げてくれたヴォルを見て笑みが溢れます。
「ヴォルは本当に精霊さんの事が好きなんですね」
あまりにも微笑ましい光景だったので、私はこれがずっと続けば良いとまで思いました。
彼にとって常に一緒にいる精霊さんは、きっとなくてはならない大切な存在なのでしょう。
私も──そんな風になれたら良いです。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる