「結婚しよう」

まひる

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第四章

6.知りたい【2】

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「……どうしても、ですか?」

「…………すまない。これは……、何とも……」

 私の追求にも、ヴォルは視線をらしたままでした。顔も変わらず赤みを帯びているので、これ以上聞くのは可愛そうでもあります。
 どうやら、精霊さんはかなり際どい事を告げたようです。だってそうでもなければ、これ程ヴォルが言い淀むなんてないですから。

「分かりました。では、もう聞かないでおきます」

 私のその言葉に、明らかにホッとしたようなヴォルでした。
 少しだけ寂しく思うと同時に、私はここに来た一番の理由を思い出しました。そうでした。

「って言うかヴォル?生命の精霊さん、さっき生まれたって言ってましたよね?」

「あ、あぁ。朝ここに来た時に精霊達がざわついていてな。メルが来る少し前に誕生した」

「そうなのですか。残念です、貴重な場面に遭遇出来ませんでした」

 話を変えた私に安堵したのか、ヴォルはいつもの対応に戻りました。まだ少しだけ頬に赤みが差していますが、すぐに気持ちを切り替えられる彼は凄いですね。
 けれども精霊さんの誕生シーンに立ち会えなかった事は本当にガッカリした私ですが、ヴォルはそれでも驚いているようです。

「本来精霊は、人の前では姿を隠すのだ。特に誕生したてで力のない精霊は、森の奥に身を隠して自らの成長を待つ」

 そして続けられたヴォルの言葉に目から鱗です。私は言われて初めて気付きました。
 そうですよね、身を守るすべや抗うすべを持たないのであれば当然の事です。でもこの子、みずから私に触れてくれましたよ?

「……メルだから、なのだな」

 ヴォルは瞳を柔らかく細めて告げます。
 はい?それって、どういう……。
 あ、あれですか。恐怖心を感じさせない程、私のポワンとした雰囲気が──いえいえ、いつもぼんやりとしてませんからね?

「メルだから、触れたくなる」

「っ!?」

 そしてヴォルが手を伸ばし、私の頬に触れました。ボンッと赤くなったであろう私の顔。──そんな艶っぽい目で見ないで下さいよ……。
 ヴォルの手が離れた瞬間、頬を必死に隠す私です。でもヴォルの瞳は柔らかく細められていました。

「あ……そうなると、回復の魔法が出来るようになるのですか?」

「……そうだな。契約にもよるが、精霊次第でもある。元々魔法を使えるのは人間ではない」

 改めて気付いた事をヴォルに問い掛けました。──精霊さん次第ですか。
 それは以前ヴォルから聞いた事があります。魔法を使わせてもらう──って。

「でも、魔力を持っている人が全てその考えではないのでしょう?」

「そうだ。魔法を己の能力と勘違いし、周囲を圧しようとする者もいる。この国ではそういった場合も考慮して、魔力持ちを管理して統括しようとしている」

 深い考えもなく問い掛けたのですが、突如としてそれまでの甘い雰囲気はなくなりました。
 ヴォルは感情を乗せない淡々とした口調で答えます。──管理と統括って。

「魔力を持っているだけで、その人の居場所が分かってしまうのですか?」

「あぁ」

「何だかそれって、監視されているみたいですね。ヴォルが旅に出ている間も、もしかしなくても監視されていた訳ですよね?」

「そうだ。死んだとしても遺体を魔法石にする為だ。『魔力持ち』は死してもその肉体を解放されない」

 当たり前の事であるかのように、淡々と語るヴォルです。──でもおかしくないですか?それって、人としての価値観から外れていますよ。
 単に価値観の違いですか?私の価値観もここにいる方々と違うのですよね。そういう考え方は嫌だと本心から思ってしまいます。
 同じ人なのに、物のように扱われる存在がいる事を初めて知りました。──勿論、納得は出来ませんが。
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