「結婚しよう」

まひる

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第四章

5.疲れているだろう【5】

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「……人間ではないものを生み出す力だぞ」

 ヴォルは感情を込めない淡々とした言い方で答えます。
 でも私はそれを聞いて、思わずキョトンとしてしまいました。
 だから魔力って凄いと思うのですけど。

「ヴォルが悪い訳ではありませんよ。何故そんなに、自分を責めるような事を言うのですか?」

 ヴォルはその私の言葉に、自らの顔を片手で覆いました。──苦しそうです。
 そして気付きました。ヴォルは今まで、強大な魔力を持っているがゆえに様々な苦労をしてきたのでしたね。

「魔力だって才能の一つですよね?精霊さんだって、ヴォルのその力を糧にしているのですよね?この国の結界だって、ヴォルが維持しているのですよね?凄いじゃないですか。何をそんなに恐れるのです?」

 人とは違う力を持って生まれてきたヴォル。苦しみも悲しみもたくさんあるでしょうけど、でもそれを憎んだりしたって何も変わらないではないですか。
 私にはないものだから、こんな単純な考え方しか出来ないのかもしれないですが。

「…………こんな力、ない方が良かった」

 パシッ。

 自虐的な言葉を呟いたヴォルに、私は普段はない素早さが発動です。
 それはもう勢い良く、ヴォルの両頬を自らの両手で挟み込みました。彼が手を下ろした瞬間にです。
 目を見開いて私を見下ろすヴォルの、キョトンとした顔が可愛いと思ってしまった程でした。
 私の掌が痛いので、ヴォルも結構痛かったと思いますがね。

「ヴォルがヴォルだから、私と会えたのではないのですか?魔力だってヴォルの中の一つです。何かが欠けても、ヴォルは今のヴォルではなくなります。私は今のヴォルが好きなのですから」

 言った後で真っ赤になった私は本当に残念ですが、本心なのですから仕方がありません。
 大声で好きとか口にしてしまいましたし。

「……メル……。本当に……敵わないな……」

 フッと表情を緩めるヴォルに、逆に私は慌ててしまいました。
 し、心臓に悪いですよ。
 この人は見目が良いから、表情一つで冷たくも見惚れる程格好良くも見えます。そして後者の場合、かなりドキッとさせられるのですよ。

「と……とにかく、そう言う事なのですっ。だから自分の事を悪く言うのは嫌ですっ」

 私は自分がドギマギさせられている事を気付かせないように、わざと怒ったようにプイッとそっぽを向いてみました。

「悪かった。この精霊が先程誕生して……、少し俺も気が動転していた。その……………もしも俺とメルの間に子が出来たら……魔力持ちになるかもしれないと思ったのだ」

 口元に笑みを浮かべたまま、ヴォルは天井を見上げます。
 へ?子供?…………えぇっ?!

「一回でそうなる訳ではないが…………、この先の事は分からないからな」

 驚愕している私をよそに、ヴォルは一人で言葉を続けています。
 一回?そうなる?子?……えっと……、昨夜のは……そういう事……なのですね?

 知らなかったです。だって私、生物的な発生を聞いた事も見た事もなかったのですから。
 あ、妊婦さんは知ってますよ?お腹の中に生命が宿ってるって事も。でもまさか、あれが原因であぁなるなんて……。

 驚愕の事実です。
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