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第四章
5.疲れているだろう【4】
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コンコン──と、静かに扉を叩きます。
ガルシアさんと午前中を過ごして昼食後、私はヴォルの研究室を訪れていました。
何だか先程の話を聞いて、いてもたってもいられなかったのです。
「何だ」
「あ、メルシャですっ」
中から聞こえた淡々とした声に、何故だか凄く慌ててしまいました。
お知らせもなく突撃したので今更ですけど、お仕事のお邪魔ではなかったでしょうか。
「メル?」
そんな事を考えていたら、ヴォル自ら扉を開けて迎えてくれました。
「あの……、すみません。お邪魔ではなかったでしょうか」
「問題ない。メルならいつでも歓迎だ」
淡々とした口調でしたが、見上げた瞳には柔らかな光が見えました。
良かったです。でも本当に邪魔でも、邪魔なのだとヴォルは言わないのでしょうけど。
「あの、聞きたい事がありまして」
問い掛けを口にしたところで部屋の中に通され、散らかった机を見て少し驚きました。
やっぱり忙しそうです。用事が終わったら、即退室する事にしましょう。
「聞きたい事?」
「はい。ガルシアさんとのお話の中で、治癒魔法の精霊さんがいないとお聞きしたのですが」
「……あぁ」
──あれ?何か違和感があります。
ヴォルは微妙に視線を逸らしていました。
「違うのですか?」
「………まぁな」
思ったままに問い直したのですが、曖昧ながらも否定されます。
──はい?
思い切り疑問符のついた私の顔の前を、一人(?)の精霊さんが通過します。
ん?この子、他の精霊さんと少し違いますね。何がって言うか、光が……ですが。
「ヴォル……、この精霊さんって?」
「メルには分かるのか」
研究室限定で精霊さんを見る事の出来る私ですが、一人の精霊さんを示すとヴォルが僅かに目を見開きました。
小さな精霊さんは何かを訴えるように私の目の前で漂うので、ゆっくりと両掌を上に向けて広げてみました。すると少しだけ首を傾げて見せた後、ソッと私の掌に乗ってくれたではありませんか。
か、感激ですっ。重さを全く感じませんが、視覚的には手乗り精霊さんでした。
「……気に入られたようだな」
「か、可愛いです~……」
僅かに口元に笑みを浮かべるヴォルに見せながら、私は飛び跳ねそうな程嬉しくなりました。──いえ、本当に跳ねたりしたら精霊さんに迷惑をかけそうなのでしませんが。
小さな精霊さんを掌に乗せたまま、感動にうち震えている私です。
「ソイツは生命を司る精霊だ」
「……え?」
精霊さんに意識を奪われ過ぎて、ヴォルの言葉を聞き逃してしまうところでした。
今、何と言いました?
「まだ生まれたばかりで力はないがな」
「生まれた……?」
「あぁ。精霊は魔力の混沌から生まれる」
また難しい事があるものです。
しかしながら事も無げに告げられた情報は貴重で、先程ガルシアさんから聞いた歴史的事実と異なりました。
「前にヴォルは、魔力から魔物が生まれると言われていませんでしたか?」
「覚えていたか。魔物は魔力の坩堝から生まれる」
混沌と坩堝……。
私には全く違いが分かりませんが、ずっと魔力を研究しているヴォルだから理解出来る事なのでしょう。
「魔力って、何だか凄いのですね」
私は一言、そう言いました。
だってスケールが大き過ぎて、私には理解不能なのですから。
「……気味が悪いと思わないのか」
「はい?何故ですか?」
僅かに揺れるヴォルの青緑色の瞳。
何故か……、不安に思っています?
ガルシアさんと午前中を過ごして昼食後、私はヴォルの研究室を訪れていました。
何だか先程の話を聞いて、いてもたってもいられなかったのです。
「何だ」
「あ、メルシャですっ」
中から聞こえた淡々とした声に、何故だか凄く慌ててしまいました。
お知らせもなく突撃したので今更ですけど、お仕事のお邪魔ではなかったでしょうか。
「メル?」
そんな事を考えていたら、ヴォル自ら扉を開けて迎えてくれました。
「あの……、すみません。お邪魔ではなかったでしょうか」
「問題ない。メルならいつでも歓迎だ」
淡々とした口調でしたが、見上げた瞳には柔らかな光が見えました。
良かったです。でも本当に邪魔でも、邪魔なのだとヴォルは言わないのでしょうけど。
「あの、聞きたい事がありまして」
問い掛けを口にしたところで部屋の中に通され、散らかった机を見て少し驚きました。
やっぱり忙しそうです。用事が終わったら、即退室する事にしましょう。
「聞きたい事?」
「はい。ガルシアさんとのお話の中で、治癒魔法の精霊さんがいないとお聞きしたのですが」
「……あぁ」
──あれ?何か違和感があります。
ヴォルは微妙に視線を逸らしていました。
「違うのですか?」
「………まぁな」
思ったままに問い直したのですが、曖昧ながらも否定されます。
──はい?
思い切り疑問符のついた私の顔の前を、一人(?)の精霊さんが通過します。
ん?この子、他の精霊さんと少し違いますね。何がって言うか、光が……ですが。
「ヴォル……、この精霊さんって?」
「メルには分かるのか」
研究室限定で精霊さんを見る事の出来る私ですが、一人の精霊さんを示すとヴォルが僅かに目を見開きました。
小さな精霊さんは何かを訴えるように私の目の前で漂うので、ゆっくりと両掌を上に向けて広げてみました。すると少しだけ首を傾げて見せた後、ソッと私の掌に乗ってくれたではありませんか。
か、感激ですっ。重さを全く感じませんが、視覚的には手乗り精霊さんでした。
「……気に入られたようだな」
「か、可愛いです~……」
僅かに口元に笑みを浮かべるヴォルに見せながら、私は飛び跳ねそうな程嬉しくなりました。──いえ、本当に跳ねたりしたら精霊さんに迷惑をかけそうなのでしませんが。
小さな精霊さんを掌に乗せたまま、感動にうち震えている私です。
「ソイツは生命を司る精霊だ」
「……え?」
精霊さんに意識を奪われ過ぎて、ヴォルの言葉を聞き逃してしまうところでした。
今、何と言いました?
「まだ生まれたばかりで力はないがな」
「生まれた……?」
「あぁ。精霊は魔力の混沌から生まれる」
また難しい事があるものです。
しかしながら事も無げに告げられた情報は貴重で、先程ガルシアさんから聞いた歴史的事実と異なりました。
「前にヴォルは、魔力から魔物が生まれると言われていませんでしたか?」
「覚えていたか。魔物は魔力の坩堝から生まれる」
混沌と坩堝……。
私には全く違いが分かりませんが、ずっと魔力を研究しているヴォルだから理解出来る事なのでしょう。
「魔力って、何だか凄いのですね」
私は一言、そう言いました。
だってスケールが大き過ぎて、私には理解不能なのですから。
「……気味が悪いと思わないのか」
「はい?何故ですか?」
僅かに揺れるヴォルの青緑色の瞳。
何故か……、不安に思っています?
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