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第四章
≪Ⅴ≫疲れているだろう【1】
しおりを挟む爽やかな風が頬を撫でます。
小鳥達の声が聞こえてきて、もう朝なのだと訴えかけているようでした。
「……ん……っ」
このお城に来てから半年以上経ちますが、ここはいつも穏やかな気候で暑くも寒くもないです。
もしかしたら農村にいた頃のように雪が降るのかもしれませんが、暑い季節がなかったので本当にないのかもですね。
「起きたか、メル」
「はい。おはようございます、ヴォル」
後ろから聞こえてきたヴォルの声に、自然と頬が緩みます。
この心地好い温かさは、最早私にとってなくてはならないものですね。
「どうした、メル」
「あ、いえ。何だか、朝一番にこうしてヴォルと挨拶が出来るのは幸せだなぁと思いまして」
素直な私の気持ちですよ。
ヴォルは一瞬目を見開きましたが、すぐにフッと表情を和らげました。──はい、朝イチ笑顔をいただきましたっ。
「そうか。……俺もだ」
「……っ!」
穏やかな瞳のヴォルが少しだけ身体を起こし、触れるだけの口付けをします。その突然のキスに驚いたのは私の方で、でも何だか心がくすぐったく感じました。
お話の中の王子様とお姫様も、こんな幸せな時間を過ごしたのですかね?想いを伝えてキスをして、でもそれで終わりではないのだと知りました。
「もっとメルに触れていたいが、俺の我慢が利かなくなると困るからな。それにそろそろガルシアも来る頃だ。起きるとするか。メルはまだゆっくりしていて良いからな」
「は、はい」
少し眉根を下げたヴォルは、そう告げて起き上がります。
言葉の意味を理解出来たのは少し後になってからですが、真っ赤になった私の頭を優しく撫でてくれました。
その後他者のお世話を必要としないヴォルは身支度を終え、一度研究室へ行くと言って部屋を出ていきました。
忙しくても私と共に食事をとるようにしてくれているので、次に会うのは朝食の時ですね。
ヴォルを見送った後、私は半身を起こしてベッドに腰掛けていました。少しボンヤリしていましたが、ガルシアさんが来る前に顔でも洗おうと立ち上がります。
「っ!」
立ち上がった瞬間、自分の身体に違和感が走りました。あまりの驚きに思わずその場に座り込んでしまいます。
そのタイミングでノックの音が響きました。
「え……、あっ……はいっ」
「ガルシアでございます」
焦る私です。ノックをしたのは当然のようにガルシアさんでした。
──ど、どうしましょう。
座り込んだまま慌てていると、声を掛けながらガルシアさんが入ってきました。私の返答が遅かったので、心配になったのでしょうか。
「メルシャ様?……あぁ、大丈夫ですよ。さぁ、こちらに」
真っ赤になっている私の顔を見て察してくれたのか、直ぐ様歩み寄ってきてくれました。そしてあらかじめお湯と布が用意されている事を教えてくれます。
彼女に半分支えられるようにして湯殿に移動する私。
「大丈夫です、メルシャ様。これが普通ですから、不安にならないで下さいね」
ガルシアさんがにっこりと優しい笑顔を向けてくれるので、私はやっと少しだけホッとしたのでした。
何だか昨日から初めての事ばかりで、私はその一つ一つにとても戸惑います。
「さぁ、本日はこちらのお召し物ですよ」
「ありがとうございます」
ヒラリと目の前に広げられたドレスは、とても柔らかそうな質感でした。
侍女長である彼女を拘束してしまうのは心苦しいのですが、他の方々に不馴れな私を気遣ってくれたヴォルと他ならぬガルシアさん本人からの申し出により現状が成り立っています。
──えぇ、些細な嫌がらせはなくなっていないのですよ。ヴォルに言い付ける事はしませんけどね。
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