「結婚しよう」

まひる

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第四章

≪Ⅳ≫我が儘ではない【1】

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「……どうしましょう」

 あれからガルシアさんに私の部屋──婚儀の前まで使っていた場所です──まで案内してもらいましたが、彼女はまだ片付けがあると言うので御一人様な私です。
 ですが既に、ヴォルへの先程の態度に後悔しているのでした。

「あぅ~……ヴォル、怒ってますよね……」

 一人項垂うなだれます。──本当に私、もう少し考えて行動しましょうよ。
 ベッドに腰掛けていましたが、ポテンとうつぶせに倒れてみます。このベッドも、ここに来てからずっとヴォルと寝ていました。

 寂しい……です。

 おかしいですよね、これ。いえ、ヴォルの事は好きなんですけど……私は彼に依存しすぎてません?このままじゃ、ヴォルなしではいられない身体になってしまいそうです。──もう既にその兆候が現れている気がしなくもないですが。

 そんな感じで一人で悶々としていると、静かなノックの音が響きました。

「あっ、はいっ!」

 勢い良く起き上がって扉を見ます──が、誰も入って来ません。
 あれ?気のせいではないです……よねぇ。しばらくしても何の応答もないので、私は扉に近付きます。

「どちら様……ですか?」

 再度声を掛けてみましたが、誰からの反応もありません。私は外が気になって、ソッと扉を開けてみました。
 あれ?やっぱり正面には誰もいな……いっ?!

「警戒心が足りないな、本当に。良くそれで今まで無事だったと感心するぞ」

 呆れた様な声を掛けられました。
 ビックリしましたよ、ベンダーツさんではないですか。壁際に立っていたベンダーツさんを見つけたのですが、驚きのあまり扉を閉めようとしてしまいました。いえ、閉まらないように扉に足を挟まれましたが。

「あの……、すみませんです」

「何度も言うが、『とりあえず』で頭を下げるな。俺はお前より下の者だぞ」

 閉められないままの扉を固定するように手で押さえ、ベンダーツさんが私の顔を覗き込みます。
 この片眼鏡モノクルなしバージョンはいつもと違った迫力があって恐いのですよ。口調も荒いですし。

「あ……あの……っ」

「ったく、何で俺がケツを拭いて回らなきゃならんのだ」

 は、はい?何故か分からないですけど怒っていますね。
 廊下の奥の方を見ながら、人が来ないかをさぐっているようなベンダーツさんでした。
 ──あ、頬がさらに青くなっています。先程ヴォルに叩かれたところですよね。痛そうです。

「何してる」

「えっ?あの、痛そうだなと思いまして……」

 視線がれてるとそれほど怖くないので、感情のおもむくままに青くなった頬に触ろうとしていました。勿論、その途中で手首を掴まれて止められましたけど。

「……状況を見る力も養え。今のこの状況はかなり危険なんだぞ。部屋にはお前一人、廊下に人影なし。目の前に男。襲われて対処が出来るのか?」

 あからさまな溜め息をき、すぐに視線を真っ直ぐ向けて告げられます。
 えっと……、どう言うことですか?

「アイツの事をうとましく思っている輩は多い。いくら婚儀を挙げたとは言え……いや、だからこそお前を狙って来るんだろうが」

 いつの間にか両の手首を掴まれていて、鋭い視線を向けられます。
 怖い──ですけど、やっぱりこれは心配して下さってます……よね?
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