上 下
44 / 52
第五章──栗鼠(リス)──

しおりを挟む
※ ※ ※

 今日は。朝からみんながそわそわ。そわそわ。
 休憩時間なので、食堂に集まっている今。

「まだか?生まれたか?」

 理由はこれ。子牛の出産を待っているのだ。
 夏にあまり出産をさせないらしいが、相手は生き物なので多少のズレは発生する。ちなみに。 受胎してから十ヶ月程で、牛さんは誕生するようだ。
 すると、歓喜の声が遠くから近付いてきて。

「生まれた~っ。凄い、やったぞっ。うぅ……、頑張ったなぁ……うぅっ……」
「ふふっ。名渡山などやまが泣いてる」
「涙もろいんだもんな、名渡山は。コイツ。感動系のストーリーは、すぐ泣くぞ」
田地たじは愛想良いけど、案外淡々としてるよな。潤之介じゅんのすけはこういうの、むっちゃ観察する系だからなぁ。泣いてちゃあ、見えねぇもんなぁ?」
「え?ぼく、冷たいのかな。臥竜がりゅう。ぼく、泣いた方が良い?」
「いや、泣く必要はねぇな。名渡山がうるさいだけなんだし」
冴木さえき、酷いなぁ。うぅ……、田地ぃ~。お前も泣けよぉ~。うぅっ……」
「何でだよ。っていうか、名渡山が泣きすぎなんだ。うわっ、鼻がつくだろうがっ」
「田地。はい、ティッシュ」

 今日は休みの名渡山。そして様子を見に行っていて、逸早いちはやく戻ってきたのである。
 ボロボロと涙する名渡山に抱き付かれ。同じく休みの田地は、彼の顔を突き放すように抵抗していた。
 見た感じ少し可哀想なので、ぼくは田地にティッシュを差し出す。
 そうすると。なんだかんだ言いながらも、面倒見の良い田地。名渡山の鼻をティッシュで摘まんであげていた。それが小さな子供ならば、可愛いのかもしれないけど。──相手が高校生男子。意外とシュールだな。

めすだったらしいな、子牛」
「それじゃあ、乳牛コースだねぇ」

 牛さんにとっては。正直、どちらが正解かは分からない。
 ミルクの為に育てられ。一年に一度、子牛を生んで。ミルクを搾乳させれる雌。そして五年か六年して。今度は肥えさせる為の、数ヶ月。
 対しておすは。肥えさせる為に、生後二ヶ月程で去勢され。美味しい御飯と、適度な運動はあれども。一年半程で出荷・・。太く、短く。

「俺ぇ、もうステーキ食べられないかもぉ」
「何言ってるんだ、名渡山。昨日もしっかり食べてただろうが、しかも二人前」
「名渡山?美味しく食べてあげる事がお肉の為だと、ぼくは思うよ?」
「割り切れ、名渡山。生き物は何であれ、他を駆逐して生きるものだ」

 最後は人も同じ。この世界から消える。でも牛さんは、次へ繋ぐ存在ものでもあって。
 どんな食べ物でも。粗末にしてはならないと、ぼくは心の奥深くに刻み込むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

ココログラフィティ

御厨 匙
BL
【完結】難関高に合格した佐伯(さえき)は、荻原(おぎわら)に出会う。荻原の顔にはアザがあった。誰も寄せつけようとしない荻原のことが、佐伯は気になって仕方なく……? 平成青春グラフィティ。 (※なお表紙画はChatGPTです🤖)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

処理中です...