ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第四章──山椒魚(サンショウウオ)──

はち

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「まぁ、放置は出来ねぇわなぁ」
「そうだね。ぼくたち、出られないもんねぇ」

 他からの邪魔は入らないが。外では普通に、時間が流れているのだ。
 中には時間の感覚が狂う場合もあるって、天照てんしょうさんに言われている。そういったしろは、強い化け物あやかしが多いとか。
 精神的な攻撃の為なのか、本当に時間軸をゆがめている為なのか。とにかく。普通に囲むだけではないのだから、要注意なのは頷ける。

潤之介じゅんのすけ。手、放すなよ」
「うん。臥竜がりゅうも、気を付けてね」

 しろに捕らわれたと分かってから。ぼくは臥竜と手を繋いでいた。これは接触的解放らしい。いんを結ぶ前の第一段階の解放、とか教えられた。
 最終的に真言しんごんを唱えて、神様にお願いするのだけど。守護者ナータストリの関係性ゆえそばにいるだけで心地好いのはあっても、常に力を解放する事は双方に負担があるとか。
 ちなみに以前。臥竜が言っていた、心地好いって感覚。今では、ぼくにも分かる。他の人と違って、安心する。ほんわかする。存在感が、かな。一緒にいたいって、普通に思える感じだ。原理は分からないけど。
 そうしてぼくたちは。湿った大岩の後ろ側へ、ゆっくりと廻っていく。サラサラと流れる音が、少しずつ大きくなってきた。

「あ~……、いたわぁ。相変わらず、キモくなってんなぁ」
「ん?……山椒魚サンショウウオ?」

 溜め息をついた臥竜の肩越し。幅一メートル程の小川があって、綺麗な水が流れている。そして、ソレはそこにいた。
 長い尾と短い鼻を持つ細長い形体をしている、ヌメッとした濡れた体。図鑑で見た知識だけど。蜥蜴とかげは乾燥に強く、高温で晴れた場所を好む爬虫類はちゅうるい。対して山椒魚は両生類で、幼生の頃は水中生活。つまりはエラ呼吸から、肺呼吸に替わる生命体だ。
 一番の違いは。蜥蜴にはうろこがあるが、山椒魚はツルツルとした肌をしている事。つまり目の前のアレは、山椒魚だ。

「潤之介。本当、生き物詳しいなぁ」
「ん?そうなの?」

 臥竜の感心したような言葉を聞きながら。ぼくは、目の前のソレを見る。
 基本型ベースは山椒魚なのだけど。それに付随ふずいするような、その他諸々もろもろがいまいちな装飾だ。昆虫や動物らしき、崩れ落ちた手足。それらの表面が、何故かビクビク動いている。動くから──腐敗している表面が、ポトポト落ちて。綺麗な水面みなもを、黒く禍々まがまがしく染めていった。
 対象とは十メートル程の距離が開いているが。サイズは軽自動車くらいだろうか。大き過ぎて、細部が観察しやすい事に。善し悪しはあるのだろうと、ぼくは思った。
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