ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

文字の大きさ
上 下
39 / 52
第四章──山椒魚(サンショウウオ)──

なな

しおりを挟む
※ ※ ※

 たこ焼きやら、フライドポテトやら。色々と、テイクアウトの食べ物を購入して。やって来ました、誰もいない片隅のベンチ。
 日陰で静か、落ち着く。少しだけジメッとした感じの岩肌がそばにある。水の流れる音が聞こえるから、近くに小川でもあるのかもしれない。
 ぼくは人に酔ってしまった感があり。こういったさびれた場所のほうが、今は気分が落ち着くようだ。臥竜がりゅうは何故か、先程の女の子たちのような人を警戒しているみたいだけど。

「よし。ここなら、他に近付いて来る奴等はいねぇな?」
「ふふっ、臥竜ってば。そんなに気を張ってると、疲れちゃうよ?」
潤之介じゅんのすけの安全の為だ」
「そうなの?はい、たこ焼き。あ~ん」
「お、おぅ……ん、旨いな」

 周囲へ視線を配る臥竜に。ぼくは、普段から臥竜にされているので。全く特別な意識なく、お口あ~んをする。
 冴木さえき家に転がり込んだ──連れ込まれた初日から、臥竜の雛鳥になっていたぼく。今でも何故かそれは継続されていて。自分で食事をしていても、何かと臥竜は給餌してきた。もう、一人で食べられるのに。
 いわく、美味しいから。甘いぞ。食べてみろ。などなど。確かに本当にどれも美味しいんだけど。そのせいか。ぼくの感覚は、たぶん少しおかしい。
 初めの頃にあった、羞恥心とか男としての矜持プライドとか。臥竜に対しては、そういうのを感じなくなっていた。何か、何でも受け入れてしまえる感じ。

「お、潤之介。これ、甘くて旨いぞ。ほら」
「はむ……んぐんぐんぐ。うわ~、美味しっ」

 これが通常モードなのだ。
 ちなみに。宗颯そうりゅう寺では、ぼくたちのこれは定番化している。誰も追求しないし、言及しない。──あ、田地たじ名渡山などやまもか。

※ ※ ※

 そんな感じで、和気あいあい。二人で食事を終えた。
 もうお腹一杯である。

「……人影がなくて安心していたが」
「そうだねぇ。まさか、こっち側だったなんて」

 片付けを終え、周囲へ視線を巡らせた。
 一言ひとことで言えば、違和感。

「まぁ、静かにめしが食えたからな。感謝の気持ちは、多少はある」
「この『しろ』って。あやかしは、何の意図があって作るのかな」
「さぁな。……まぁ。食事の邪魔をされたくない、とか。獲物を逃がさないように、とか?」

 いつでも移動が出来るように、周囲を片付けた臥竜。ぼくも自分のリュックを背負い、準備万端だ。
 そうして二人で警戒していると。湿った岩の向こうから、黒いもやただよって来る。どうやらその奥にいるようだった。──こっちにいるよって。お知らせしてる?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...