ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第四章──山椒魚(サンショウウオ)──

ろく

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「あ、あの……御一人ですか?」
「え?違いますよ」
「ほら、やっぱりあの人だって」
「いや、ちょっと待って。押さないでって」

 一人か聞かれたので答えたのだけど。──何だろうか、ぐいぐいと二人で。『おしくらまんじゅう』というものだろうか。
 見知らぬ女の子二人は、互いの身体を寄せ合い。何故か肩を押し付け合っていた。

「あの紺色のパーカーの人と一緒なんですよねっ?」
「えっと……、すみません。友達と来ているので」
「ですよねっ?!じゃあ、私たちと一緒に」
「え?いや、だから……」
「私たちも二人で来てるんですよねっ」
「………………」
「あ~……、ごめんね?おれたち、二人が良いんだ」
「「っ?!」」

 何故か声の勢いが増す女の子たち。少し怖い。
 断りのつもりで返したぼくなのに。テーブル越しに、身体を乗り出す勢いで近寄られた。ぼくの言葉、聞こえていないみたい。
 どうしようかと押し黙ってしまった時。ぼくの肩を抱くように、後ろから超絶至近距離の声と体温。驚いたけど、臥竜がりゅうの声だってすぐに分かったから。
 ぼくはじっとして、女の子たちの反応を伺う。

「えっと……あの、私たち」
「うん、だから。おれは、君たちと遊ぶ気はないよ。それより、あっちのお兄さんたちが。君たちの事、可愛いって言ってたかも」
「……ねぇ」
「分かりました、ありがとうございます。ほら、行くよっ」

 何か言葉を続けようとした女の子たち。でも臥竜は、口元に笑みを作ったまま動かない。拒絶の態度が伝わったのか。顔を見合わせた女の子たちは、何やら言いながら立ち去っていった。
 凄い、久し振りに見た。臥竜の、目が笑っていないみ。あれ──今のぼくがやられると、少し心をえぐられる気がする。

「はぁ……。潤之介じゅんのすけ、あぁいう肉食系。無視するに限るからな?」
「え?肉食?」
「いや、だからさ。ガツガツしてる……や、まぁ良いか。ほら、今度は一緒に行こう。潤之介を一人にしていると、変な虫が寄ってくる」
「えっ、虫?!」
「……そういうの、可愛いんだけど。おれじゃないのに見せる事ねぇっての。……何だよ、この感情。変なの、おれ。いや、潤之介が可愛いのは良いんだけどさぁ」
「ん?何、臥竜」
「何でもねぇ。はいっ、お好み焼き買おうぜ?」
「あ、お好み焼き。うん、買うっ」

 良く分からない話からの、虫とか言われて。普通に焦っちゃったぼくだ。
 虫は──物凄く苦手という訳じゃない。けど。巨大化した虫を見たからかな。過剰に反応してしてしまうぼくは、自分でも少し情けないと思ってしまう。
 今は尚更。農場でアルバイトしているから、当然ながら虫を目にする頻度は物凄い。でも心の中で叫んでいるから、周りには気付かれていない──と、思いたい。
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