38 / 52
第四章──山椒魚(サンショウウオ)──
ろく
しおりを挟む
「あ、あの……御一人ですか?」
「え?違いますよ」
「ほら、やっぱりあの人だって」
「いや、ちょっと待って。押さないでって」
一人か聞かれたので答えたのだけど。──何だろうか、ぐいぐいと二人で。『おしくらまんじゅう』というものだろうか。
見知らぬ女の子二人は、互いの身体を寄せ合い。何故か肩を押し付け合っていた。
「あの紺色のパーカーの人と一緒なんですよねっ?」
「えっと……、すみません。友達と来ているので」
「ですよねっ?!じゃあ、私たちと一緒に」
「え?いや、だから……」
「私たちも二人で来てるんですよねっ」
「………………」
「あ~……、ごめんね?おれたち、二人が良いんだ」
「「っ?!」」
何故か声の勢いが増す女の子たち。少し怖い。
断りのつもりで返したぼくなのに。テーブル越しに、身体を乗り出す勢いで近寄られた。ぼくの言葉、聞こえていないみたい。
どうしようかと押し黙ってしまった時。ぼくの肩を抱くように、後ろから超絶至近距離の声と体温。驚いたけど、臥竜の声だってすぐに分かったから。
ぼくはじっとして、女の子たちの反応を伺う。
「えっと……あの、私たち」
「うん、だから。おれは、君たちと遊ぶ気はないよ。それより、あっちのお兄さんたちが。君たちの事、可愛いって言ってたかも」
「……ねぇ」
「分かりました、ありがとうございます。ほら、行くよっ」
何か言葉を続けようとした女の子たち。でも臥竜は、口元に笑みを作ったまま動かない。拒絶の態度が伝わったのか。顔を見合わせた女の子たちは、何やら言いながら立ち去っていった。
凄い、久し振りに見た。臥竜の、目が笑っていない笑み。あれ──今のぼくがやられると、少し心を抉られる気がする。
「はぁ……。潤之介、あぁいう肉食系。無視するに限るからな?」
「え?肉食?」
「いや、だからさ。ガツガツしてる……や、まぁ良いか。ほら、今度は一緒に行こう。潤之介を一人にしていると、変な虫が寄ってくる」
「えっ、虫?!」
「……そういうの、可愛いんだけど。おれじゃないのに見せる事ねぇっての。……何だよ、この感情。変なの、おれ。いや、潤之介が可愛いのは良いんだけどさぁ」
「ん?何、臥竜」
「何でもねぇ。はいっ、お好み焼き買おうぜ?」
「あ、お好み焼き。うん、買うっ」
良く分からない話からの、虫とか言われて。普通に焦っちゃったぼくだ。
虫は──物凄く苦手という訳じゃない。けど。巨大化した虫を見たからかな。過剰に反応してしてしまうぼくは、自分でも少し情けないと思ってしまう。
今は尚更。農場でアルバイトしているから、当然ながら虫を目にする頻度は物凄い。でも心の中で叫んでいるから、周りには気付かれていない──と、思いたい。
「え?違いますよ」
「ほら、やっぱりあの人だって」
「いや、ちょっと待って。押さないでって」
一人か聞かれたので答えたのだけど。──何だろうか、ぐいぐいと二人で。『おしくらまんじゅう』というものだろうか。
見知らぬ女の子二人は、互いの身体を寄せ合い。何故か肩を押し付け合っていた。
「あの紺色のパーカーの人と一緒なんですよねっ?」
「えっと……、すみません。友達と来ているので」
「ですよねっ?!じゃあ、私たちと一緒に」
「え?いや、だから……」
「私たちも二人で来てるんですよねっ」
「………………」
「あ~……、ごめんね?おれたち、二人が良いんだ」
「「っ?!」」
何故か声の勢いが増す女の子たち。少し怖い。
断りのつもりで返したぼくなのに。テーブル越しに、身体を乗り出す勢いで近寄られた。ぼくの言葉、聞こえていないみたい。
どうしようかと押し黙ってしまった時。ぼくの肩を抱くように、後ろから超絶至近距離の声と体温。驚いたけど、臥竜の声だってすぐに分かったから。
ぼくはじっとして、女の子たちの反応を伺う。
「えっと……あの、私たち」
「うん、だから。おれは、君たちと遊ぶ気はないよ。それより、あっちのお兄さんたちが。君たちの事、可愛いって言ってたかも」
「……ねぇ」
「分かりました、ありがとうございます。ほら、行くよっ」
何か言葉を続けようとした女の子たち。でも臥竜は、口元に笑みを作ったまま動かない。拒絶の態度が伝わったのか。顔を見合わせた女の子たちは、何やら言いながら立ち去っていった。
凄い、久し振りに見た。臥竜の、目が笑っていない笑み。あれ──今のぼくがやられると、少し心を抉られる気がする。
「はぁ……。潤之介、あぁいう肉食系。無視するに限るからな?」
「え?肉食?」
「いや、だからさ。ガツガツしてる……や、まぁ良いか。ほら、今度は一緒に行こう。潤之介を一人にしていると、変な虫が寄ってくる」
「えっ、虫?!」
「……そういうの、可愛いんだけど。おれじゃないのに見せる事ねぇっての。……何だよ、この感情。変なの、おれ。いや、潤之介が可愛いのは良いんだけどさぁ」
「ん?何、臥竜」
「何でもねぇ。はいっ、お好み焼き買おうぜ?」
「あ、お好み焼き。うん、買うっ」
良く分からない話からの、虫とか言われて。普通に焦っちゃったぼくだ。
虫は──物凄く苦手という訳じゃない。けど。巨大化した虫を見たからかな。過剰に反応してしてしまうぼくは、自分でも少し情けないと思ってしまう。
今は尚更。農場でアルバイトしているから、当然ながら虫を目にする頻度は物凄い。でも心の中で叫んでいるから、周りには気付かれていない──と、思いたい。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ココログラフィティ
御厨 匙
BL
【完結】難関高に合格した佐伯(さえき)は、荻原(おぎわら)に出会う。荻原の顔にはアザがあった。誰も寄せつけようとしない荻原のことが、佐伯は気になって仕方なく……? 平成青春グラフィティ。
(※なお表紙画はChatGPTです🤖)
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
本当のことを言うと
香桐れん
BL
寮の自室で呆然とする櫂(かい)。
その様子を目の当たりにしたルームメイトの匠海(たくみ)は――。
BLにカテゴライズしていますが、
あくまでプラトニックな心理的BLです。
BLというよりはLGBT恋愛小説に近いかもしれません。
異性関係に関する描写があります。
苦手な方はご注意ください。
エブリスタ投稿済み作品。
その他小説投稿サイトにも投稿させていただいております。
---
表紙作成:かんたん表紙メーカー
写真素材:Na Inho
きっと世界は美しい
木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちが初めての恋に四苦八苦する話です。
**
本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。
それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。
大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。
「好きになれない」のスピンオフですが、話自体は繋がっていないので、この話単独でも問題なく読めると思います。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
薬膳茶寮・花橘のあやかし
秋澤えで
キャラ文芸
「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」
記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。
薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。
記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。
*************************
既に完結しているため順次投稿していきます。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる