ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第四章──山椒魚(サンショウウオ)──

いち

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※ ※ ※

 夏休みに入った。
 いつもの休みは、宗颯そうりゅう寺でのお手伝いとか。臥竜がりゅう天照てんしょうさんに、色々と教わっているのだけど。
 今日から、田地たじの親戚の家。北海道の酪農家に、ぼくたち四人はアルバイトだ。期間は一ヶ月。おもな仕事は牧草刈りと、搾乳さくにゅうである。

「到着~」
「来たぞ~、北海道~」
「ふふっ。元気だね、名渡山などやま
潤之介じゅんのすけ、帽子忘れてるぜ」
「あっ。ありがとう、臥竜」

 飛行機を出て、四人で北海道の空気を吸う。
 これから酪農家のかたが迎えに来てくれるそうなので、空港ロータリーで待機だ。
 始めての北海道。っていうか、ぼくは初めての旅行。修学旅行とかも。色々理由をつけられて、行けなかった。
 後で先生に聞いた話では、積立金が必要だったとか。一人だけ特別待遇する訳には行かなくて。連れていけなくて申し訳ない、と。教員に頭を下げられた幼い頃のぼく。何回か経験して、養父母に期待をする事がなくなったんだ。

「潤之介?どうした?」
「あ、ううん。何でもな……」
「それ、やめろって言ったよな」
「……うん。ぼくは旅行が初めてだから、とてもワクワクしてる」
「そか。今回は一応バイトだけど、休みももらえるって話だ。たくさん遊ぼうぜっ」
「うんっ」
「宿題はきちんとやらなきゃ、だからさぁ。みんなで担当分けて、写し合おうぜ?」
「名渡山、それはダメだ。俺が怒られる。親戚も、課題をおろそかにしないって。俺の親と約束させられてた。迷惑は掛けられない」
「マジかぁ。俺、それをあてにしてたのにぃ。ちぇ~」

 ぼくの表情の変化に、臥竜は敏感に察してくれる。
 察してくん・・・・・になっているつもりはないけど、どうしても自分の気持ちや考えを押し込んでしまうらしい。十年以上、そんな生活をしていたからね。気を付けないと。

「お~い。ひろしくん、大きくなったなぁ~」
「どうも、伯父おじさん。こっちは今回一緒に手伝ってくれる、前に話していた俺のクラスメイトたちだよ」
「おぉ、たくさん来てくれて助かるよぉ。宜しくねぇ~」
「「「宜しくお願いしますっ」」」

 ワンボックスでやって来た、ニコニコ笑顔の男性。シワの刻まれた顔の、とても柔らかな雰囲気の人だ。
 田地の親戚は農場主らしい。北海道の酪農家だから、敷地面積が広大なんだとか。
 それで、夏は牛用の牧草収穫があって。いつもの搾乳やらの仕事がある為、普段の季節よりも人手が足りないようだ。
 住み込みのアルバイトという形ではあるけれど、ぼくたちは高校生。きちんと週二回の休みをもらえるらしい。ただ、一度に四人で休めるのは一回くらい。人手が足りなくて手伝いに来ているのだから、当然ながら揃って休んでしまっては困るだろう。
 ともあれ。ぼくはとても楽しみである。
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