ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

文字の大きさ
上 下
32 / 52
第三章──蟹(かに)──

じゅう

しおりを挟む
「さぁて。今度はテントの片付けだぜ、潤之介じゅんのすけ
「あ、そうだった。田地たじ名渡山などやまが戻ってくる前に……って。臥竜がりゅう、もう遅かった」

 再度テントへ視線を向けたぼくだったけど。残念ながら、というか。幾つかビニル袋を持ってこちらへ向かってくる、田地と名渡山の姿がはっきりと確認出来たのだ。

「まぁ、良いんじゃね?テントがあれば、食べる場所を探さなくても良いからよぉ」
「それはそうだけど……」

 片付けると言った手前。何もしてなかった、では。遊んでいたと思われても、仕方ないではないだろうか。
 ぼくは少し罪悪感を感じながらも。臥竜と一緒に、テント方向へ歩み寄った。

「ごめんね。ぼくたち、まだ片付けてなくて……」
「おぉ~。まだテントが片付けられてなくて、本当に良かったぜ。向こうの休憩所とかも、人がいっぱいでさぁ。砂の上に、服で座りたくないじゃん?」
「そうそう。日焼けの鹿毛かげに、炎天下で食事させる訳にもいかないし」
「そうか。買い出し、ありがとうな。田地、名渡山。潤之介の日焼け、結構酷くてさぁ。見ろよ、顔も真っ赤じゃねぇ?でもおれが持ってきた治療薬、顔はヤバいみたいでよぉ」
「うわぁ~、痛そうだねぇ。あ、田地。さっき買った日焼け治療薬は?」
「お~、これな。何となく目についたから買ったんだがな。使えるなら良いが」
「ん、マジでありがとう。ほら、潤之介」
「あ、え?みんな、ありがとう」

 そんな感じで、凄く気を遣われているぼく。みんなの優しさがみる。嬉しい。でも、申し訳ない。
 田地と名渡山は、ワイワイ良いながらテントの床に食べ物を広げている。臥竜はぼくの手を引いて座らせた後、頬やらおでこやらに薬を塗ってくれていた。
 それからみんなでいただきますして、おにぎりやサンドイッチ。お菓子やお弁当など、好き好きに食べ始める。相変わらず名渡山は大食漢で、見た目は細いのに何処に入るのだろうと思える量を食べていた。
 いつもの学校の昼食とは違う。これはこれで、とても楽しい感覚。
 周囲には海水浴客が。土曜日だから、子供も多い。あぁいう風に、子供のそばに寄り添うように遊ぶのか。普通の家族ってあぁいうもの、なのかな。
 ぼくは五歳より前の記憶が。さすがにほとんど覚えていないから。お父さんとお母さん、どんな風にぼくに接してくれていたのかな。
 叔父さんの家では。──いや。これは思い出さなくて良いな。
 今は臥竜と天照てんしょうさんが、ぼくの家族だって言ってくれている。他にも、宗颯そうりゅう寺の修行僧。
 ちゃんと、ぼくを一個人として見てくれる。優しい人たちの為に、ぼくも出来る事をたくさんしたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...