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第三章──蟹(かに)──
はち
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「ここは前回とちがって陸地だから、真言を唱えるには問題ねぇな。潤之介。まだ不馴れだろうから、負担が大きいかもしれねぇが」
「大丈夫っ。ぼくも、臥竜の手伝いがしたいっ」
臥竜は視線の先に化け物を捉えつつ。それでも、ぼくを気遣ってくれていた。
でも、いつも助けられてばかりいるぼく。出来る事があるのならば、精一杯やりたい。そう思い、ぼくははっきりと申し出た。
「そか、わりぃな。おれもあのレベル相手じゃ、さすがに一人で祓えない。助かる」
「一緒に頑張ろうね、臥竜」
「おぅ。それじゃあ、潤之介はこれを読み上げてくれねぇか」
「分かったっ」
僅かにぼくを振り返り、笑みを浮かべる臥竜。瞳が柔らかく弧を描く。
それを見てぼくは。こんな状況でも、少しだけホッとしてしまった。──いけない、気を引き締めないと。
ぼくは臥竜が差し出した紙片を受け取り、視線を落とす。真言を覚えていないぼくの為に、用意をしてくれていたのだろう。
「ノウマク・サラバタタ、ギャティビャク……サラバ、ボッケイビャク……サラバタタラタ、センダマカロシャダ……ケンギャキギャキ・サラバビギナン、ウンタラタ・カンマン」
まだ少しだけつっかえるけど。宗颯寺で、天照さんの指導を受けさせてもらっているから。片仮名の羅列も、だいぶ読めるようになってきていた。
でも、読み終えた後。ギュン──って感じで。ぼくの身体の中から、何かが抜ける感じがする。前と同じだ。クラッと意識が薄れてふらつくけど、それを横にいる臥竜が支えてくれた。
そしてぼくがお尻をつけて座った事を確認すると、ふわりと頭を撫でてくれる。
「ありがとう、潤之介。後は任せろ。ノウマクサンマンダ・バザラダンセンダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン……」
そして臥竜は、右手と左手の人差し指と中指をそれぞれ立てて印を結び。不動明王の真言で、中咒を三回繰り返す。
そして右手で。横から順番に縦向きと交互に網目の様になるように空中を切りながら、一振りに付き一字。九字を唱えた。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前。我、願う。眼前の悪しき力を打ち砕きたまえ!」
そして空中を切った後、刀に見立てた右手指は、鞘に見立てた左手に納める。
するとその大型犬くらいの大きさの巨大蟹から、ブワッと黒い靄が吹き出した。
「大丈夫っ。ぼくも、臥竜の手伝いがしたいっ」
臥竜は視線の先に化け物を捉えつつ。それでも、ぼくを気遣ってくれていた。
でも、いつも助けられてばかりいるぼく。出来る事があるのならば、精一杯やりたい。そう思い、ぼくははっきりと申し出た。
「そか、わりぃな。おれもあのレベル相手じゃ、さすがに一人で祓えない。助かる」
「一緒に頑張ろうね、臥竜」
「おぅ。それじゃあ、潤之介はこれを読み上げてくれねぇか」
「分かったっ」
僅かにぼくを振り返り、笑みを浮かべる臥竜。瞳が柔らかく弧を描く。
それを見てぼくは。こんな状況でも、少しだけホッとしてしまった。──いけない、気を引き締めないと。
ぼくは臥竜が差し出した紙片を受け取り、視線を落とす。真言を覚えていないぼくの為に、用意をしてくれていたのだろう。
「ノウマク・サラバタタ、ギャティビャク……サラバ、ボッケイビャク……サラバタタラタ、センダマカロシャダ……ケンギャキギャキ・サラバビギナン、ウンタラタ・カンマン」
まだ少しだけつっかえるけど。宗颯寺で、天照さんの指導を受けさせてもらっているから。片仮名の羅列も、だいぶ読めるようになってきていた。
でも、読み終えた後。ギュン──って感じで。ぼくの身体の中から、何かが抜ける感じがする。前と同じだ。クラッと意識が薄れてふらつくけど、それを横にいる臥竜が支えてくれた。
そしてぼくがお尻をつけて座った事を確認すると、ふわりと頭を撫でてくれる。
「ありがとう、潤之介。後は任せろ。ノウマクサンマンダ・バザラダンセンダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン……」
そして臥竜は、右手と左手の人差し指と中指をそれぞれ立てて印を結び。不動明王の真言で、中咒を三回繰り返す。
そして右手で。横から順番に縦向きと交互に網目の様になるように空中を切りながら、一振りに付き一字。九字を唱えた。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前。我、願う。眼前の悪しき力を打ち砕きたまえ!」
そして空中を切った後、刀に見立てた右手指は、鞘に見立てた左手に納める。
するとその大型犬くらいの大きさの巨大蟹から、ブワッと黒い靄が吹き出した。
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