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第三章──蟹(かに)──

ろく

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※ ※ ※

「何か。冴木さえき鹿毛かげの会話は聞き取れなかったけどさ。ちょっと、起きにくい雰囲気だったよなぁ」
「うん、マジでそれ。そんなんじゃないかもしれないけど、妙にイチャイチャって感じでさぁ」
「それな。俺、マジで名渡山などやまを蹴り起こそうとしてた」
「何でだよ、田地たじ。いきなりあのシーンで飛び込むの、いくら俺でもかなりつらいだろうが」
「名渡山ならいけるだろ。いつもの空気読まない感じで、なぁに~とか」
「無理だって。もう、本当に田地がチャレンジしなくて良かったわぁ」
「結局は俺も勇気が出なかった。寝たフリしてたし」
「うんうん、俺も。狸寝入りしてたら、本気で寝てたけど」
「あぁ、それはある」
「ってか、俺が作ったボートは?遊んでなくない?」
「……また今度な」

※ ※ ※

 漁師のおじさんのご厚意で。ぼくたちは無事、浮き島から陸地──漁港に到着した。
 港は砂浜から少し離れていたけど。漁師のおじさんは物凄く良い人で。家に帰るついでにと言って、軽トラでぼくたち全員を砂浜まで連れてきてくれたのだ。

「大変お世話になりました」
「本当に助かりました。おじさん、ありがとうございます」
「ありがとう、おじさん。俺等海パンだし、あのまま歩いて帰るのはちょっと不審者かなって思ってた」
「ちょ、名渡山。空気読まない感じは、今は良いから。すみません、本当にありがとうございました」
「あっはっは。良いよ、そでり合うも他生たしょうえんと言うだろう。それじゃあな、元気な若者たち」

 臥竜がりゅうとぼくが普通に感謝を伝える。けれども何故か、名渡山がおかしなお礼の仕方をして。結局、田地に後頭部をはたかれてた。
 それでもおじさんはニコニコ笑顔で。豪快に笑うと、颯爽と去っていく。──カッコいいな、ああいう風に出来る人。

「本当に助かったよなぁ。良い人もいるもんだ」
「お~。世の中、捨てたもんじゃないよなぁ。ってか、腹減ったなぁ。何か食べに行くか?」
「そうだな。でも待て、名渡山。とりあえずもう海で遊ばないなら、着替えてテントを片付けないとだろ」
「あぁ、そうだった。使ってないから、忘れてたわぁ」
「んじゃ、とりあえず着替えるか。潤之介じゅんのすけ。肩のところ、真っ赤になってるぜ」
「えっ、本当に?後でお風呂に入るの、痛そうだなぁ」
「潤之介は色が白いからな。シャワーでしおを流した後、一度薬を塗ってやる」
「本当?ありがとう、臥竜」
「……俺等。着替えて、先に何か買ってくるよ。な、名渡山」
「え、俺も?お~、分かった。薬塗るなら、時間が必要だもんな」
「わりぃな、気を遣わせて」
「ごめんね。ありがとう田地、名渡山」
「「良いって」事よ~」

 砂浜に設置したテントはそのままで。特に荷物も荒らされた様子がなかったので、ぼくは安心した。
 田地と名渡山が買い出しをしてきてくれると言うので、その言葉に甘える事にする。──何だか、名渡山の視線が少し気になったけど。
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