ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第三章──蟹(かに)──

さん

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※ ※ ※

「何だ。鹿毛かげ、寝てるのか?」
「俺等が頑張って泳いできたってのに、見てないのかよ」
「可愛いだろ、潤之介じゅんのすけ
「いや、待て。冴木さえきの判定が分からん」
「仕方ないさ、冴木は鹿毛優先だからな。田地たじも俺も、鹿毛の友達枠なだけだよ」
「そりゃ、分かってるけどさぁ。俺にも、もう少し愛情を向けてほしいじゃん」
「田地に分ける愛情なんて、鹿毛にあるのか?鹿毛、周囲に一線引いてるじゃん。冴木には別みたいだけど。同居してるからって、名前呼びだし」
名渡山などやま、俺には酷いな。でも、そうなんだよなぁ。俺等の方が先に友達になったのに、既に距離感が冴木に勝てん。名前呼び……うらやましくなんてないんだからねっ」
「おれ、そう思われてんのかぁ?くくくっ、嬉しいなぁ」

※ ※ ※

 みんなの話し声が聞こえて、ゆっくり意識が戻ってくる。
 背中に──浮き輪だと思われる、少し固くて弾力のある感触。でも、上半身は何だか温かいものに寄り掛かっていた。──ん?これって。
 パチリと目を開けると、正面に臥竜がりゅうの柔らかな笑み。さわさわと頭を撫でられていて、ぼくの癖毛がふわふわ揺れている。──思いっ切り、臥竜にもたれ掛かってたっ。

「っ?ごめ、重かったでしょ!」
「いや、全然。もっと食えよ、潤之介ぇ」

 慌てて起きつつ距離を取れば。全く気にしていないと、臥竜はカラカラと笑った。しかも、ぼくの線の細さを気にされている。
 しかし、これでも成長した方だ。養父母宅では、食事はあまり取れなかったから。小、中は給食メイン。高校も、今の場所は食堂があるから最高である。そも、それで選んだふしがあった。
 それでも宗颯そうりゅう寺──冴木家では。毎食、何品も。準備する人は大変ではないだろうか。これまでのぼくにとっては、食べられないご馳走だった。ありがとうございます。

「これでも。食べ過ぎなくらい、食べてる。臥竜、口に突っ込んでくるし」
「何言ってんだぁ、潤之介ぇ。高校男子が茶碗半分なんで、有り得ねぇ」
「まぁ、俺も軽く山盛りだな」
「俺なんて、どんぶりじゃないと足りないっ」
「名渡山は食べ過ぎの感があるがな。でも、鹿毛は本当に少ないよな。うどん単品とか。米を食べないのかって、毎回思う」
「それでも、百七十五はあるんだろ?」
「百七十六だし。ぼくはそれ程、小さくない」
「「でも、俺等百八十あるぜ」」
「潤之介は小さくないよなぁ。可愛いんだよな~」
「臥竜は大き過ぎだもんっ」
「「それは言える」ってか、もんって可愛いな」
「だろ~?潤之介は可愛いんだ」
「冴木はそればかりだな」
「鹿毛優先だからな~」

 海の真ん中。小さな浮き島で、やんややんやと言い合う。
 いつの間にか、論点がぼくが可愛いかって事になっている。腑に落ちない。何故だ。
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