ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第三章──蟹(かに)──

いち

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※ ※ ※

 ジー、ジー、ジー。
 蝉がうるさく鳴き、暑さが増す季節。
 ぼくの大嫌いな梅雨が終わったけど。暑いのもダメ。湿度は相変わらず高めで、髪の毛は爆発気味。本当に癖毛、嫌。
 電柱百足ムカデ事件から。ぼくは正式に臥竜がりゅうの家──宗颯そうりゅう寺にお世話になる事となった。叔父さんたちが了承したんだな、と。寂しさと安堵と。半々の、変な気持ちだった。
 思ったよりぼくの存在は軽かったのだな、とか。そりゃいつも邪険にされてたもんな、とか。でもさよならの挨拶も不要って何だろうな、とか。

「お~い、潤之介じゅんのすけぇ。まだ浮き輪、全部膨らませてないのかぁ?」
「あ、臥竜。ごめん、まだ。でもこれ、大きくない?」
「んな事ねぇって。おれらが使うんだぜ?これくらい、普通だろぉ」
「お、名渡山などやまがボートを仕上げてきたぜ?ほら、鹿毛かげも急げって。俺と冴木さえきは、もうタープ組んだからさ」

 臥竜に指摘され。ぼくは自分の担当である、浮き輪作りの途中だった事を思い出した。
 でも、一人で四個も膨らませるの。幾らポンプがあるとはいっても、自動じゃなくて足踏みだから。もう、遊ぶ前から疲れちゃってるんだ。
 そんなぼくに、仕事を終えた臥竜が手を貸してくれる。その向こうから、田地たじも満面の笑みで名渡山と駆けてきた。
 実は今日、四人で近くの海に遊びに来たのである。
 田地と名渡山には。ぼくが臥竜の家にお世話になる事を告げた。
 臥竜転校の翌日から、急に名前呼びを始めたぼくたち。当然、何があったのか聞いてくる。進展が早すぎるからね。
 二人は元々、ぼくが叔父さんの家にお世話になっている事を知っていた。彼等と友達になって、数ヶ月だったけど。色々と知れちゃうみたいで。

「ほら、浮き輪完成っ。では!まずは浮き輪を使っての、あの浮き島まで誰が早いか競争~」
「マジで?それ、手足が長い冴木有利じゃね?」
「俺もそう思う~。ってか、それいったら鹿毛が可哀想~」
「ぼくが一番足が短いって、ディスってる?」
「大丈夫だって、潤之介。人間、身長における足の長さの比率。一定じゃねぇからよ。要は足の比率だ」
「冴木、俺等の敵か?胴が長いってか?」
「ダメだって、田地。冴木は、鹿毛優先だからよぉ」
「あ~、そうだった。良いんだ。俺は名渡山とペアだかんな」
「おぅ、行くぜっ」
「あっ、先にスタートはずるいっ。臥竜、ゴー」
「はいよ~」

 突然始まった、浮き島への競争だった。
 同居あの後から、臥竜は田地と名渡山に対して。の口調で話すようになった。他のクラスメイトには、優等生口調だけど。
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