ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第二章──解放者──

はち

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※ ※ ※

 右手──が、温かい。
 そう気付いて。沈んでいた意識が浮上する。ふわふわの布団。知らない天井。──いや、昨日と同じ天井だ。
 動こうとして、右手の違和感に視線を移せば。

「ちょっと」
「んあ?」

 何故か、そこに臥竜がりゅうがいた。
 思わず声をあげてしまい。それに気付いた臥竜が、昨日とは違う。少しかすれた声で、返してくる。
 ぼくが寝ていた横に、寄り添うように寝ていた彼。これ──添い寝、とかいうもの?確か臥竜は昨夜、ぼくがいるこの客間を退室した筈だ。

「何で、臥竜がここにいるの」
「ん~……潤之介じゅんのすけ?あれ、何でだ?」

 問い掛けに対して。何故か、逆に問われたぼく。──せぬ。
 いまだに右手を握られたままで。ぼくは、これ見よがしに。臥竜がぼくの手を握っているのだと分かるように、持ち上げてプラプラと振ってやった。
 その時のぼくの手は、当然パーに開いてである。

「おぉ~」
「これ」
「スゲェじゃん。もう、そんなに力が戻ったのか?」

 思った反応と違った。でも確かに。
 昨日は動かすのが精一杯だったのに。持ち上げて、振る動作も出来ている。しかも今も力が抜ける事なく、上げた状態を保てていた。

「やっぱ、食って寝る。これだよなぁ~」

 頷きながら。それでも、ぼくの手を離さない。──何なの、いったい。
 色々と納得は出来ないのだけど。臥竜がぼくを助けてくれたのは事実で。色々と。色々──あぁ~。昨日のぼくは、いつものぼくじゃないんだ。
 諸々思い出して。ぼくは布団を頭からかぶった。

「んおっ、どうした?潤之介?」

 戸惑いの声を上げる臥竜だが。ぼくも、色々戸惑っているのだ。気付いてほしい。

※ ※ ※

「朝から、元気な事は良いのだ。ただ。ここには他の僧侶たちもいるのでね。君たちを起こしに行った僧侶が。困惑してしまうような事は、けてほしいね」
「「すみませんでした」」

 朝食後、お寺の本堂の中。目の前に大きな不動明王の像があって、天照てんしょうさんは袈裟を着て座っている。正座して、ピンと背筋が伸びていた。
 対して。向かい合っている臥竜とぼく。
 ぼくなんか、特にだけど。正座に慣れていないから、どうしても猫背になってしまう。臥竜は、視線を避ける為みたい。床を見ているから。

「臥竜は特に。檀家さんの前でもだけど、他の僧侶に対して。きちんとした振る舞いをするように、再三言っている」
「はい……」
「それに。何故、潤之介くんの部屋にいた?」
「………………潤之介のそばが心地好いんだ、です」

 お説教されているのだが。
 原因は分かっている。気まずくて布団を被るぼくと、何としてでもそれを引き剥がそうとする臥竜の。布団引き合戦が開催されたからだ。
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