ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第二章──解放者──

ろく

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 ぼくには実感はなかったけれど。確かに、十五歳を過ぎた頃から始まった。
 物が上から落ちてきたり。自転車とかバイクとかと、接触事故寸前とか。そう思い返してみれば、規模が大きくなってきていたような?

「まぁ、だからよぉ。潤之介じゅんのすけは、おれといないとダメなんだ」
「え?」
臥竜がりゅう。物事には順序があると、いつも言っているではないか。潤之介くん。君のおとこ神子みことしての力は、成人するまで。つまりは、二十歳になるまでなのだよ。そして調べさせてもらったところによると、養父母宅では……あまり良い待遇ではないようだね」
「ホント、くそ」
「臥竜、口をつつしみなさい。……急な話なのだけれど。君が良ければ、うちで過ごしてくれないかい?」

 怒涛とどうの情報ラッシュ。
 ただの、十六歳になったばかりの高校生男子に。何を決めさせようと言うのだろうか。
 あまりの情報過多に。ぼくは反応が出来ず、固まってしまった。

「まぁ、今日はもう遅いからね。明日また、改めて聞く事にしようね」
「おれはここにいるからな」
「ダメだよ、臥竜。結界は張ってあるのだから、少し潤之介くんに時間をあげないと」
「んでだよ、邪魔しねぇって」
「ダメだ。さぁ、行くよ」
「あ、待てって。潤之介は動けねぇんだ。寝支度させっからよ。な?良いだろ?」
「……はぁ、本当に言い出したら聞かないのだから。後で私のところに、ちゃんと顔を出しなさい。おやすみなさい、潤之介くん」
「あ……。おやすみ、なさいです」

 天照てんしょうさんと臥竜の掛け合いは。ぼくにとって、嵐のようだ。
 ポンポンと、勢い良く言葉が飛び交う。聞き取るので精一杯で。情報量に頭が追い付かない。
 そしてもう夜、らしい。今更のように気付いた。

「ほら、潤之介。トイレ、行くぜ?」
「うん………………え?」
「動けねぇだろ?おれが連れてってやる」
「あ、え?……そうだけど、も」
「遠慮すんなって。それとも、尿瓶しびんとかの方が良いか?」
「じょ、冗談だよねっ?!」

 確かにまだ身体に力が入らないのだけど。
 カラカラと笑う臥竜に。ちゃんと目まで笑っている臥竜は、酷く楽しそうだ。ぼくは単に、からかわれているのだろうか。

「怪我の治療もあってさぁ。風呂にはおれが入れたからよぉ。身体はさっぱりしてるだろぉ?」
「……そう言えば。って?え!臥竜が?!」
「んあ?メイド……っておれは呼んでるけど。お手伝いさんが潤之介に触ったら、スッゲェ拒絶してたじゃん」
「……記憶にない」

 メイドって、お手伝いさんの事だったんだ。そうだよな、寺だもんな。
 ぼくは臥竜に抱えられるように、トイレに連れていってもらう。抱っこは、全力で拒否した。
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