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第二章──解放者──

さん

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※ ※ ※

 鹿毛かげ家は。この時代においても、少し変わった一族だった。
 山深い村が、一族の集落。古い風習が続く村で。村の皆には、全て『鹿毛』の苗字がついていた。
 そして長子ちょうし──第一子は、必ず五歳になるとおこなう儀式がある。嫡男ちゃくなんでも、嫡女ちゃくじょでも。村の外に住んでいても、だ。そうでなければ、村から出る事を禁じられるという。必ず五歳の誕生日から、一ヶ月以内という縛りまである。そうしないと、一族で捜索でもするのだろうか。
 とはいえ、儀式は簡単。相手が五歳児だから、だろうけど。
 薄暗い、雨戸などで完全に窓の締め切られた部屋の中。蝋燭だけが灯りで。何かのお香がかれた部屋で、裸になる事。十人程の長老会の集まる前で。
 五歳だからね。女の子であっても、おじいちゃんの前で裸体をさらしても何とも思わない。──思えない、のかな。
 あの煙の中。頭がぼんやりするんだよね。ぼくもやったからさ。半分寝ているような感じ?ぽわぽわして、何だか少し楽しいような。
 で、長老会の人たちは。子供を見るんだ。勿論、さわりはしない。でも、手を上げさせたり。後ろを向かされたりする。指示する、それだけ。
 十五分もしないんじゃないかな。裸だし。親も心配だろうし。
 それから普通に服を着て、御飯を食べる。もう良いよって、そんな感じ。子供は少しの間、おじいちゃんたちの前で裸で踊るだけ。そんな感覚だ。
 でも、ぼくの後は──少し違った。
 難しい顔して、皆で寄り集まって。お父さんもお母さんも。
 ぼくはつまらなくなって。ゲームなんてないし。持っていってた本だって、すぐに読み終わっちゃったんだ。でも、誰も遊んでくれない。こっちは五歳児だから。お利口に待っているのって、限界があるよね。
 何しようかなって、考えてたら。家の中に入り込んだ、綺麗な蝶を見つけて。当然、追い掛けるよね。
 捕まえようとか。網や籠がないから、そこまでは考えてなかった。でも、近くで見たくて。
 誕生日プレゼントで、お父さんに図鑑を買ってもらってたから。それに載ってた、クロアゲハみたいで。少し図鑑と違った感じが、ぼくの好奇心を刺激した。
 子供用の図鑑なのだから、一般的なものしか載ってないだろうけど。『好奇心は猫を殺す』って言葉。五歳のぼくは知らないから。
 てってけ。てってけ。家から離れる事も気にせず、蝶だけを見て。自分が住んでいる町と違う事も忘れて。
 本当に子供って。一瞬だけ目を離したつもりでも。大人からしたら、忽然こつぜんと消えてしまったように感じたんだろうね。
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