ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第二章──解放者──

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「で、それより。さっきのは何」
「ん?解放者?言葉通り。解放する者」

 グラスを冴木さえきに返したぼくは。改めて先程の続きを問う。
 でも何て言うか。冴木は応えてくれるのだけど、微妙に言葉が足りないと思う。これまでの彼の言葉。全て──は、言い過ぎかもだけど。

「説明が足りない」
「はあ?んだよ、面倒くせぇな」
「それに、口悪い。学校での冴木、もっと丁寧だった」
「あぁ、あれ?あれはフェイクだ。おれのはこっち。潤之介じゅんのすけも慣れろ」
「んむぅ」

 ぼくはちゃんとした説明を求めているのに。冴木は、説明する気があまり見えない。
 あの──化け物の事とか。現状の自分の状態もだけど。理解出来ないの、怖い。

「説明……してくれるって。言ってたのに……」
「あっ、わっ!?な、泣くなよっ」
「泣いてない……」

 怒りもあったけど。今のぼくは分からない事ばかりで。それに気付いたら、心が。シュンと項垂うなだれた。
 それでもぼくの、本音の不満は。口から勝手にこぼれる。
 それを聞いてなのか。アワアワと慌て出す冴木。とりあえず、泣いてないから。それだけは、即否定しておいたけど。

※ ※ ※

「全く。お前は、もっときちんと説法を受けるべきだぞ」
「……すみません」

 目の前で。キッチリとした和装の男性に、怒られて正座して項垂れている冴木。
 この和装の男性は冴木──臥竜がりゅうの父親、らしい。冴木天照てんしょう宗颯そうりゅう寺の住職との事だ。
 そしてぼくがいる、ここ。この場所は宗颯寺の庫裡くりと呼ばれる、住職さんが住んでいる建物。つまりは、冴木──臥竜は、寺の跡継あとつぎ。という事である。

「すまないね、潤之介くん。君の事は、少し調べさせてもらったよ」
「あ……、いえ」

 息子のクラスメイトとはいえ、家に見知らぬ人物を招き入れるのだ。しかも、意識を失った者である。
 臥竜が、天照さんにどのように説明をしたのかは不明だが。聞くところによると、二人して泥だらけの傷だらけ。酷いさまだったらしい。
 良く、家に入れたな。ぼくが言うのも何だけど。警察呼んでも不思議じゃないぞ。

「それで。君は鹿毛かげ家の長子ちょうしで、嫡男ちゃくなんだとか」
「はい……」

 天照さんの言う事は、間違っていない。ぼくは鹿毛家の長男だ。
 でもこの言い方。普通に『○○さん家のご長男ね』というそれとは、少し違う気がする。
 この先は──正直、あまり聞きたくない。でも。たぶん。もう、そうは言っていられない。の、だろう。
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