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第二章──解放者──

いち

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※ ※ ※

「……もぅ、自分で……」
「黙って食え。我慢しろ。ほら」

 立て続けに、ぼくの口に入れられる食べ物。入れてくるのは、冴木さえき
 結局。冴木が言うに、ぼくには体力回復が必須なのだとか。
 実際に。何故か、自分で座っていられない。まるで身体中から、骨が失くなってしまったかのように。力が入らないのだ。
 動きはする。手を上げようとすれば、そのように動く。でも、支えていられない。つまりは動かしても。惰性だせいに従って、クタリと反対方向へ移動するだけ。もしくは、パタリと落ちる。
 そして体力回復には、充分な食事と休息。冴木がそう、鋭い視線で告げた。
 ぼくが駄々をねたから。最終的に有無を言わさず、そう言い切られた。
 ちなみに、ここは冴木の家らしい。凄い。

「んぐ、んぐ、んぐ……ごくん」
「ほら。次はこっちな」

 あ、食事の話だけれど。代案は幾つかわしたのである。冴木の手をわずらわせるのは、どうかと思って。
 でも、見知らぬ女性──メイドさんに食べさせられるのは、ぼくの心が折れそうだった。介護されている──実際にはそうなんだけど。客観的にウハウハじゃん?とか、思えない。ダメ。
 病院、とか。案は出たけど、結局食べさせられなきゃ、今のぼくは食事すら出来ない。看護士イコール、知らない女性。同じじゃん。いや、中には男性もいるけど。知らない人ってとこ、同じ。

「んぐ、んぐ、んぐ……ごくん」
「次はこっち。肉、小さく切ってやるからよ」

 ぼくは雛鳥。ぼくは雛鳥。ぼくは雛鳥……ぐすん。
 それで。ぼくが家に帰る、という代案もあった。すぐに冴木に却下されたけど。
 ぼく。ぼくの家。普通じゃないから。

「んぐ、んぐ、んぐ……ごくん」
「ほら。これを食べたら、説明をしてやる」

 冴木が差し出してくれる、暖かい食事。全て。凄く、美味しい。
 学校の食堂も美味しいけど。やっぱりちょっと、違うよね。

「んぐ、んぐ、んぐ……ごくん」
「で、潤之介じゅんのすけ。お前はおれの、解放者・・・だ」
「んぐっ……ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
「あぁ、もう。ほら、水だ。飲め」

 思い切り。入ってはいけない部分に、何か入った。
 むせるぼくの背を軽く叩きながら、冴木が綺麗な水の入ったコップを差し出してくれる。
 このガラスのコップ──グラス。無茶苦茶、表面の装飾が細かい。水も綺麗で美味しかったけど。これ、凄い。

「何だ?もう一杯か?……あ、グラスそれが欲しい?」
「ち、違う」

 冴木の言葉に。ぼくはギョッとして、大きく頭を横に振る。
 このグラスは、この家にあるから良いんだ。決して、ぼくが持っていてはいけない。
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