上 下
10 / 52
第一章──百足(ムカデ)──

はち

しおりを挟む
※ ※ ※

「……け。……のすけっ?……潤之介じゅんのすけっ」

 遠くに聞こえていた声が。実は、超絶近距離である事に気付いて目が覚めた。
 パチリと開いた視界に、超ドアップの冴木さえきがいて。もう一度気絶しそうになったのは、秘密である。

「……ごめ、起きた」
「良かったぜ。そろそろ、おれも限界だったんだ」
「え?…………ぼく。も、もう一回意識飛びそう」
「マジでそれ、勘弁な」

 腕に抱かれるような体勢であった事は。ぼく自身も言及したくないから、見ない方向で。
 それでも。冴木の背後の、真っ黒な巨体まで気付かずにいたかった。
 現状。地面に横たわるぼく。そんなぼくの上半身を抱き上げている冴木。その二人の周囲に、透明なガラス状の壁。極めつけは──壁をぶち壊そうと、巨大な脚を叩き付けている巨大百足ムカデである。
 その音ときたら。ガキン。バキン。ドゴン。それこそ、大型トラックが体当たりしてきてる感じ。立て続けに何台もね。

「でも。ぼくが起きてても、冴木の力にはなれないんだけど」
「いや、これがなれるんだな」
「は?冗談?」
「くくくっ。マジで」

 支えられつつ、ぼくは半身を起こす。地面にお尻をついて座る感じだけど。
 それより、何故こうも。冴木は余裕でいられるのか。まぁ、笑っているのが口元だけなのは同じだけどね。
 それよりも。この透明なガラス状の壁は。

「あぁ、これ?おれのつくってる結界」

 ぼくの視線で気付いたのか、冴木が説明してくれた。壁の向こう側で。ガンガンと脚を打ち付ける百足は放置である。
 何て言うのか。これは、漫画だろう。明らかにフィクションだ。
 ぼくはそう結論付けて。カメラマンを捜す為、視線を周囲へ送る。

「映画とかの撮影、だなんて思ってる?ん~……まぁ、それでもいっか。ん。時短、必須。潤之介、手を貸してくれ」
「手?」

 絶賛現実逃避中のぼくに。冴木は何かの結論を出したようだ。
 全く意味が分からないまま。ぼくは冴木に言われ、自分の右掌を開いて見る。
 そのぼくの掌に。冴木が、自身の左掌を合わせた。
 何だ、これ。いや、手を合わせる事に何ら問題はないのだろうけど。
 スルリと、冴木の指が。ぼくのとは違う、わずかに骨張った指が。何故かぼくの指の間に。何故か、ぼくの!

「ちょちょちょっと!?」
「こんな事で狼狽うろたえんだ?」

 楽しそうな冴木。慌てるぼくの顔を。わざとらしく、小首をかしげつつ覗き込んできた。
 何だか。その余裕そうな顔が。スッゴク、嫌な感じ。
 そんなぼくの思考をよそに。冴木の指が、しっかりとぼくの指に絡まった。つまりこれは、いわゆる恋人繋ぎというものである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

ココログラフィティ

御厨 匙
BL
【完結】難関高に合格した佐伯(さえき)は、荻原(おぎわら)に出会う。荻原の顔にはアザがあった。誰も寄せつけようとしない荻原のことが、佐伯は気になって仕方なく……? 平成青春グラフィティ。 (※なお表紙画はChatGPTです🤖)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...