ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

文字の大きさ
上 下
9 / 52
第一章──百足(ムカデ)──

なな

しおりを挟む
 第一に、その大きさ。あの大顎。顎肢がくし、だったか。脚から進化した、猛毒性の高い毒牙どくがである。
 人間なんて、パクッ。ブチッ。とまぁ、一撃だろう。

「……本当、こういう時だからか?潤之介じゅんのすけの余裕な感じ、改めてすげぇって思うわ~」
「何言ってるの?!ぼく、余裕なんて欠片もないからねっ?!」
「いや、マジで。観察してんだろぉ?」
「そ、それは怖いからであって……。って頭、撫でないでよねっ」

 化け物と対峙しているのだ。生死の感覚を前にして、余裕でいられるのは強者だけである。──もしくは、戦闘狂?
 そして第二に、戦える力のないぼくだから。
 その点。冴木さえきは口調からして、余裕が見える。言いながら。ぼくの頭頂部を、子供よろしく撫でてくるし。
 最後には、圧倒的な恐怖と凄惨な死の気配。
 冴木の手を振り払いながら。ぼくは今の目の前の事象を、非現実であると思いたいのだ。
 こんなの。これまでのぼくが、経験した事ない──

「………………?」
「思い出した?」

 思考が目まぐるし変化する。まるで回転しているかのようで、少し気持ちが悪くなってきた。
 目の前の冴木と目が合っている筈なのに。今のぼくの認識出来る視界には、幼い少年が──だぶって見える。五歳くらいの、さらっとした黒髪の子が。真剣な表情で、ぼくの顔を覗き込んでいた。何処かでぼく、会った事があるの?
 巨大百足ムカデから、黒いもやこぼれ出していた。動きはない、が。黒い靄がれた中庭の、綺麗に整えられている花壇の植物達が枯れていく。
 脳内のバグなのか。二重に見える視界は変わらず。
 その視界の中で、黒い大きな塊が動いた。通った場所は、黒くなってグズグズと。溶けるように崩れ落ちる。草も。樹木でさえ。
 既にぼくの頭は、焼け焦げてしまいそうな痛みを訴えている。脳内オーバーヒートだ。

「あ……あ……っ」
「……まぁ、刺激が強すぎるわなぁ。こんなショック療法はしたくねぇんだが。……っていっても、わりぃけど。正直。潤之介に覚醒してもらわねぇと、おれもあぶねぇ」
「ぃや……、と……けちゃ……んぅ!」

 冴木が何かを言っているが、今のぼくには理解出来ない。
 そしてバチンと何かが弾け。視界を埋め尽くす程の光と、それに伴う痛みがぼくを襲った。
 歯を食い縛ったけど。衝撃で、ガクンと身体が揺らぐ。

「潤之介っ」

 冴木の慌てたような叫び声が聞こえた、気もするけど。
 ぼくはグワングワンと脳内を揺さぶられ、キーンと鳴り響く耳鳴りで。そうして、完全に意識が吹き飛ばされてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...