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第一章──百足(ムカデ)──

なな

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 第一に、その大きさ。あの大顎。顎肢がくし、だったか。脚から進化した、猛毒性の高い毒牙どくがである。
 人間なんて、パクッ。ブチッ。とまぁ、一撃だろう。

「……本当、こういう時だからか?潤之介じゅんのすけの余裕な感じ、改めてすげぇって思うわ~」
「何言ってるの?!ぼく、余裕なんて欠片もないからねっ?!」
「いや、マジで。観察してんだろぉ?」
「そ、それは怖いからであって……。って頭、撫でないでよねっ」

 化け物と対峙しているのだ。生死の感覚を前にして、余裕でいられるのは強者だけである。──もしくは、戦闘狂?
 そして第二に、戦える力のないぼくだから。
 その点。冴木さえきは口調からして、余裕が見える。言いながら。ぼくの頭頂部を、子供よろしく撫でてくるし。
 最後には、圧倒的な恐怖と凄惨な死の気配。
 冴木の手を振り払いながら。ぼくは今の目の前の事象を、非現実であると思いたいのだ。
 こんなの。これまでのぼくが、経験した事ない──

「………………?」
「思い出した?」

 思考が目まぐるし変化する。まるで回転しているかのようで、少し気持ちが悪くなってきた。
 目の前の冴木と目が合っている筈なのに。今のぼくの認識出来る視界には、幼い少年が──だぶって見える。五歳くらいの、さらっとした黒髪の子が。真剣な表情で、ぼくの顔を覗き込んでいた。何処かでぼく、会った事があるの?
 巨大百足ムカデから、黒いもやこぼれ出していた。動きはない、が。黒い靄がれた中庭の、綺麗に整えられている花壇の植物達が枯れていく。
 脳内のバグなのか。二重に見える視界は変わらず。
 その視界の中で、黒い大きな塊が動いた。通った場所は、黒くなってグズグズと。溶けるように崩れ落ちる。草も。樹木でさえ。
 既にぼくの頭は、焼け焦げてしまいそうな痛みを訴えている。脳内オーバーヒートだ。

「あ……あ……っ」
「……まぁ、刺激が強すぎるわなぁ。こんなショック療法はしたくねぇんだが。……っていっても、わりぃけど。正直。潤之介に覚醒してもらわねぇと、おれもあぶねぇ」
「ぃや……、と……けちゃ……んぅ!」

 冴木が何かを言っているが、今のぼくには理解出来ない。
 そしてバチンと何かが弾け。視界を埋め尽くす程の光と、それに伴う痛みがぼくを襲った。
 歯を食い縛ったけど。衝撃で、ガクンと身体が揺らぐ。

「潤之介っ」

 冴木の慌てたような叫び声が聞こえた、気もするけど。
 ぼくはグワングワンと脳内を揺さぶられ、キーンと鳴り響く耳鳴りで。そうして、完全に意識が吹き飛ばされてしまった。
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