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第一章──百足(ムカデ)──
いち
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いつもの、高校へ行く通学路。
昨日からの雨で湿度が高く。癖毛のぼくは、朝から自分の髪の毛と一戦して。既に疲れていた。
「はあ……。本当に梅雨時は嫌い」
ぼやいたところで何も変わらないのだが。
広がってうねる髪の毛は、結局のところワックスでまとめるしか解決策はない。無造作ヘアとか。言い方だけ格好良い。結局ぐちゃぐちゃの髪、じゃない?
そんな感じで朝から気持ちが落ちていて、いつもの通学路がやけに長く感じた。
「………………」
鈍よりとした、厚い灰色の雲が空を覆い隠している。
でも、何だかそれ以上に薄暗いような気がした。
こういう時のぼくは、変に神経が過敏になる。
嫌な感じ──とでもいうのか。
通学時間なのだから、他にもたくさんの人が歩いている筈なのに。何故だか、ぼく独りの世界にいるようで。
周囲を見回して見たけれど、やっぱりというか。本当に誰もいなくて。
「うそ……」
目に見える景色はいつもと同じ通学路なのに。
黒いアスファルトの上には、何故かたくさんの──ウゴウゴと蠢く黒い何かがあった。
ゾワリと全身の毛が逆立つ感覚。
慌てて身を翻そうと後ろを振り返って──。絶望するって、こういう状況を言うのだろう。そんな事を、ぼくの中の冷静なぼくが言っている。
「むか……で……っ?」
この状況でぼくは、目に見える事実しか認識が出来なかった。
感情が麻痺した感じ。
心は置き去りで。ぼくの感覚と脳が、ただ見えるものを認識するだけだった。
目の前には大きな。てっぺんは電柱よりも高い位置にある程の。大きな大きな、大きな百足。
いやいや、ちょっと待って。ムカデって、もっと小さくない?幾ら大きくても、人間の何倍もあるって。有り得ないでしょっ?!
「っ?!」
「静かに。気付かれちゃう」
思い切り叫ぼうとして。でも、声が出なかった。正確には口を押さえられていて、出せなかった。
耳元で言う誰かの声に、ビクリと身体を震わせたぼく。そうして恐々振り返った視界に、さらりと手触りの良さそうな黒髪が映った。そして、ぼくと同じ年くらいの男の子(?)──いや、小さい子供じゃない。
ん?デジャブ?
妙に知った感覚が脳内に見えた気がするけど。今はそれどころじゃない。目の前に巨大な百足。ぼくの超至近距離に、見知らぬ男。──たぶん高校生。ってか、同じ制服?
口を押さえられたままでありながら。ぼくは脳内で大忙し。そりゃあもう、パニックだった。
「……お利口だね。そのまま静かにしてて」
その人には、ぼくの内心は当然分からず。
一人脳内会議中だったぼくをよそに、真っ直ぐ巨大百足へ視線を向けた。
昨日からの雨で湿度が高く。癖毛のぼくは、朝から自分の髪の毛と一戦して。既に疲れていた。
「はあ……。本当に梅雨時は嫌い」
ぼやいたところで何も変わらないのだが。
広がってうねる髪の毛は、結局のところワックスでまとめるしか解決策はない。無造作ヘアとか。言い方だけ格好良い。結局ぐちゃぐちゃの髪、じゃない?
そんな感じで朝から気持ちが落ちていて、いつもの通学路がやけに長く感じた。
「………………」
鈍よりとした、厚い灰色の雲が空を覆い隠している。
でも、何だかそれ以上に薄暗いような気がした。
こういう時のぼくは、変に神経が過敏になる。
嫌な感じ──とでもいうのか。
通学時間なのだから、他にもたくさんの人が歩いている筈なのに。何故だか、ぼく独りの世界にいるようで。
周囲を見回して見たけれど、やっぱりというか。本当に誰もいなくて。
「うそ……」
目に見える景色はいつもと同じ通学路なのに。
黒いアスファルトの上には、何故かたくさんの──ウゴウゴと蠢く黒い何かがあった。
ゾワリと全身の毛が逆立つ感覚。
慌てて身を翻そうと後ろを振り返って──。絶望するって、こういう状況を言うのだろう。そんな事を、ぼくの中の冷静なぼくが言っている。
「むか……で……っ?」
この状況でぼくは、目に見える事実しか認識が出来なかった。
感情が麻痺した感じ。
心は置き去りで。ぼくの感覚と脳が、ただ見えるものを認識するだけだった。
目の前には大きな。てっぺんは電柱よりも高い位置にある程の。大きな大きな、大きな百足。
いやいや、ちょっと待って。ムカデって、もっと小さくない?幾ら大きくても、人間の何倍もあるって。有り得ないでしょっ?!
「っ?!」
「静かに。気付かれちゃう」
思い切り叫ぼうとして。でも、声が出なかった。正確には口を押さえられていて、出せなかった。
耳元で言う誰かの声に、ビクリと身体を震わせたぼく。そうして恐々振り返った視界に、さらりと手触りの良さそうな黒髪が映った。そして、ぼくと同じ年くらいの男の子(?)──いや、小さい子供じゃない。
ん?デジャブ?
妙に知った感覚が脳内に見えた気がするけど。今はそれどころじゃない。目の前に巨大な百足。ぼくの超至近距離に、見知らぬ男。──たぶん高校生。ってか、同じ制服?
口を押さえられたままでありながら。ぼくは脳内で大忙し。そりゃあもう、パニックだった。
「……お利口だね。そのまま静かにしてて」
その人には、ぼくの内心は当然分からず。
一人脳内会議中だったぼくをよそに、真っ直ぐ巨大百足へ視線を向けた。
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