20 / 22
第二章
2-7
しおりを挟む
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
風の月になり、無事に進級出来たケミシナとトシアだ。勿論私もだけれど、残念ながらクラスが異なる。
「ねぇ、ここにしようっ」
「そうですわね。ほら、エフェも座りましょう?」
「あ……うん」
そっくりの男女に両サイドを挟まれ、私はスンと表情を消して椅子に座った。そこは何と、教卓のド真ん前である。
普通、誰もが避ける筈である。──というか黒板が見にくくないかな、教師が邪魔で。
この男女は学院の誰もが知る双子で。しかもフォザフ侯爵家。侯爵家──そう、何故か。私は最上級クラスに振り分けられてしまった。
そしてクラスに入った瞬間、何故か。これまたそう何故か、この二人に懐かれてしまった私。
フォザフ侯爵家第一子、ノスナ・ピコヌ・フォザフ令嬢。口調はさすがの侯爵家なのだが、性格はいたずら子猫系。私は既にこの四週間で、散々な目にあっていたりする。
そしてフォザフ侯爵家第二子、嫡男。エアド・ギガー・フォザフ様。こちらは人懐っこいワンコ系であるが、空気が読めない。──いや、わざとかもしれないけれど。
こうして何故か。常に二人、ないし片方に引っ付かれている。──物理で。
私に触れていないと、どうにかなってしまう病を患っているのかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それじゃあ。また明日ね、エフェ」
「……え?明日は闇の日だよね、エア」
「あら、忘れたのかしら。エフェの明日は、既にわたくしとエアドのものですよの?」
「………………ノース。それは私、聞いていたかな?」
「今、初めて伝えたところですわ」
「え~。ノスナ、言ってなかったの~?闇の日にエフェと影森に行こうって、話してたじゃないかぁ」
木の日の授業が終わり、漸く週末と思っていた私に爆弾が落とされた。
ただでさえ貴族の中に唯一の平民という、私である。物凄く──そう、物凄く毎日が疲れるのだ。
勿論、フォザフ姉弟のおかげで直接的な攻撃はない。だがしかしその分、常に湾曲した鬱屈とした陰口と視線に晒されている。──だから独りになりたい。
「決まりですわね、エフェ。明日の土の時に迎えに伺いますわ」
「えっ、早っ?!」
「そうだよ、ノスナ。日の出と共に行くのは、さすがに早くない?せめて風の時にしようよ。あ、エフェ。朝食は俺達が用意するから、動きやすい服装でね~」
「あ、え?もう……決まっているの?」
「「また明日」ですわ」
「あ……うん……」
こうして私の意思確認は全くなされないまま、休日の予定が確定したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
動きやすい服装でと言われ、膝下丈のワンピースに念のためとキュロットを選んだのだが。
「こんなのはダメですわ。ほらエフェ、こちらに着替えなさい。エアドは少し外に出ていて」
待ち合わせの学院前で、即座にノースから服装を却下され。フォザフ侯爵家の馬車内で、お付きのメイドさん二人に着替えさせられてしまった私。
そして、やたらふんわり系ふりふりリボンな私に変身した。
「え、影森に行くんだよね?」
「そうですわ。可愛いは防御力ましましですの」
「うん、エフェ可愛い」
微笑みを浮かべるノースとエア。
言わせてもらえば、二人の装いも森へ行く格好ではない。街へショッピング、な。美味しいレストラン、行くのか的な。
──何だろう、この話の通じてない感。
昨日改めて調べた『影森』は、正しく暗い森なのである。
鬱蒼と繁った木々が日の光を遮り、昼間でも視界が悪い場所だ。整備された道を外れれば、方向感覚を見失って出られなくなるという曰く付き。
そして、流浪の民の住む集落があるといわれている。
私は今日、この生を終えてしまうかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
分かってた。前回の私は、最上級クラスになんてならなかった。
少しずつ前回と異なっていく現在の生は、私の行動が原因で変化しているだけではないだろう。そうだ、何かしらの別の力が加わっているに違いない。
私は、日の沈む火の時だろう今。自然物で造り上げられた集落を目の前に、スンと表情が消える自分を感じた。
「凄いね、エフェ。本当に集落があったね、ノスナ」
「流浪の民の住む集落ですわよね?エアド、エフェ。わたくし達は発見致しましたわっ」
「……そうだねエア、ノース。影森を彷徨って、もう半日以上経ったもん。反対側へ出たっておかしくないのに、森から出られないなんて……ね」
流浪の民は、マージェラ王国民と認められていない。戸籍がないのだ。
だが、見た目は同じ人間である。──初めて見たけれど。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局。フォザフ姉弟は、好奇心から流浪の民を見たかっただけらしい。そして当然のように、大切な子女に護衛がついていない筈もなく。──空腹を訴えれば、すぐに目の前にピクニック的な食事の用意がなされていたからね。
ノースとエアの目的が達成された途端、周囲に十人程のフォザフ侯爵家騎士が現れた。流浪の民達が向ける警戒をものともせず、かなりの食糧を対価として攻撃態勢を解除してもらう。
そして行きの時間が嘘のように、木の時から闇の時に変わる前に私は寮の自室に戻ってきていたのだった。
風の月になり、無事に進級出来たケミシナとトシアだ。勿論私もだけれど、残念ながらクラスが異なる。
「ねぇ、ここにしようっ」
「そうですわね。ほら、エフェも座りましょう?」
「あ……うん」
そっくりの男女に両サイドを挟まれ、私はスンと表情を消して椅子に座った。そこは何と、教卓のド真ん前である。
普通、誰もが避ける筈である。──というか黒板が見にくくないかな、教師が邪魔で。
この男女は学院の誰もが知る双子で。しかもフォザフ侯爵家。侯爵家──そう、何故か。私は最上級クラスに振り分けられてしまった。
そしてクラスに入った瞬間、何故か。これまたそう何故か、この二人に懐かれてしまった私。
フォザフ侯爵家第一子、ノスナ・ピコヌ・フォザフ令嬢。口調はさすがの侯爵家なのだが、性格はいたずら子猫系。私は既にこの四週間で、散々な目にあっていたりする。
そしてフォザフ侯爵家第二子、嫡男。エアド・ギガー・フォザフ様。こちらは人懐っこいワンコ系であるが、空気が読めない。──いや、わざとかもしれないけれど。
こうして何故か。常に二人、ないし片方に引っ付かれている。──物理で。
私に触れていないと、どうにかなってしまう病を患っているのかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それじゃあ。また明日ね、エフェ」
「……え?明日は闇の日だよね、エア」
「あら、忘れたのかしら。エフェの明日は、既にわたくしとエアドのものですよの?」
「………………ノース。それは私、聞いていたかな?」
「今、初めて伝えたところですわ」
「え~。ノスナ、言ってなかったの~?闇の日にエフェと影森に行こうって、話してたじゃないかぁ」
木の日の授業が終わり、漸く週末と思っていた私に爆弾が落とされた。
ただでさえ貴族の中に唯一の平民という、私である。物凄く──そう、物凄く毎日が疲れるのだ。
勿論、フォザフ姉弟のおかげで直接的な攻撃はない。だがしかしその分、常に湾曲した鬱屈とした陰口と視線に晒されている。──だから独りになりたい。
「決まりですわね、エフェ。明日の土の時に迎えに伺いますわ」
「えっ、早っ?!」
「そうだよ、ノスナ。日の出と共に行くのは、さすがに早くない?せめて風の時にしようよ。あ、エフェ。朝食は俺達が用意するから、動きやすい服装でね~」
「あ、え?もう……決まっているの?」
「「また明日」ですわ」
「あ……うん……」
こうして私の意思確認は全くなされないまま、休日の予定が確定したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
動きやすい服装でと言われ、膝下丈のワンピースに念のためとキュロットを選んだのだが。
「こんなのはダメですわ。ほらエフェ、こちらに着替えなさい。エアドは少し外に出ていて」
待ち合わせの学院前で、即座にノースから服装を却下され。フォザフ侯爵家の馬車内で、お付きのメイドさん二人に着替えさせられてしまった私。
そして、やたらふんわり系ふりふりリボンな私に変身した。
「え、影森に行くんだよね?」
「そうですわ。可愛いは防御力ましましですの」
「うん、エフェ可愛い」
微笑みを浮かべるノースとエア。
言わせてもらえば、二人の装いも森へ行く格好ではない。街へショッピング、な。美味しいレストラン、行くのか的な。
──何だろう、この話の通じてない感。
昨日改めて調べた『影森』は、正しく暗い森なのである。
鬱蒼と繁った木々が日の光を遮り、昼間でも視界が悪い場所だ。整備された道を外れれば、方向感覚を見失って出られなくなるという曰く付き。
そして、流浪の民の住む集落があるといわれている。
私は今日、この生を終えてしまうかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
分かってた。前回の私は、最上級クラスになんてならなかった。
少しずつ前回と異なっていく現在の生は、私の行動が原因で変化しているだけではないだろう。そうだ、何かしらの別の力が加わっているに違いない。
私は、日の沈む火の時だろう今。自然物で造り上げられた集落を目の前に、スンと表情が消える自分を感じた。
「凄いね、エフェ。本当に集落があったね、ノスナ」
「流浪の民の住む集落ですわよね?エアド、エフェ。わたくし達は発見致しましたわっ」
「……そうだねエア、ノース。影森を彷徨って、もう半日以上経ったもん。反対側へ出たっておかしくないのに、森から出られないなんて……ね」
流浪の民は、マージェラ王国民と認められていない。戸籍がないのだ。
だが、見た目は同じ人間である。──初めて見たけれど。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局。フォザフ姉弟は、好奇心から流浪の民を見たかっただけらしい。そして当然のように、大切な子女に護衛がついていない筈もなく。──空腹を訴えれば、すぐに目の前にピクニック的な食事の用意がなされていたからね。
ノースとエアの目的が達成された途端、周囲に十人程のフォザフ侯爵家騎士が現れた。流浪の民達が向ける警戒をものともせず、かなりの食糧を対価として攻撃態勢を解除してもらう。
そして行きの時間が嘘のように、木の時から闇の時に変わる前に私は寮の自室に戻ってきていたのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる