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第一章
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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
星降る祭が始まった。
街のあちらこちらで篝火が焚かれ、幻想的に夜の街が照らし出されている。いつもなら目にする事のない光景が、一層魅力的に広がっているように見える。
普段は子供の私達が、木の時の時間に屋外に居る事はないのだ。けれども星降る祭の日だけは別で、十歳の子供は一生に一度の『主役となる日』である。
そして今夜、姉であるニザもこの鳥呼ぶ声に参加していた。
「大丈夫ですか?御姉様、顔色が悪いですけれど」
「わ、分かってるわよ。で、でも、どうしようもないじゃない」
魔力測定の鳥呼ぶ声を受ける子供は、手伝いとなる一人を除いて傍にいる事が出来ない。
人数が多い事もあるが、基本的にこれは当人の素質検査であって、本来は一人で受けるものなのだ。ただ年齢を考慮した上で、唯一一人だけ傍におく事を許されている。
そしてニザに付き添う事になったのは私で、理由は本人が望んだから。二つ年上の姉に八歳の女児が付き添うのも何かおかしいと思うのだが、私としては彼女よりも精神年齢が上のつもりだった。
ソワソワと落ち着かないニザに対し、手を握ったまま肩を撫でて落ち着かせてあげる。
「あぁ……。貴女に頼んで、本当に良かったわ。御母様じゃ、逆に私……怒られちゃうもの」
「……まぁ、御母様は細かい所に目が向きますからね。今は些末な事を気にしているよりも、御姉様自身の魔力を落ち着けた方が宜しいかと思います」
「ま、魔力?私、まだ自分で分からないのよね。本当にあるの?」
「えぇ、しっかりと」
不安そうに瞳を揺らすニザだが、いつもの我が儘状態が押さえ込まれている分可愛く思えた。
彼女はあまり魔力に興味がないようで、私やルーが家庭教師をつけてまで教えを受けている意味が分からないようである。それよりも噂話や流行の品々の方が目を引くようだ。
彼女の会話内容の殆どが、何処の誰が容姿が整っているとか、最近人気のあの店がとかである。
そんな彼女は、己の内なる力を使って現象を興す事に魅力を感じないのだろう。
「今は緊張の為に、魔力が膨らんだり萎んだりしています。深く呼吸をして安静な心持ちになった方が、安定した状態を保てそうですね」
「そ、そう?エフェの方が魔力に関しては先輩だから、言っている事をやってみるわね」
「えぇ、お願いしますね」
根は素直なので、ニザは私の言葉を実行しようと、深呼吸を繰り返していた。
魔力持ち両親の長子なのだから、魔力無しの訳がないのである。それに関しては、私やルーがしっかりと魔力を使えるので、父も母も心配すらしていないようだ。
精神状態が安定してくると、やはりニザの内面にしっかりとした魔力を感じる。
私はニザの手を握ったまま、周囲の状況も確認していた。もうすぐそこまで司祭様が廻ってきている。
「その調子ですよ、御姉様」
「う、うん」
今だ緊張は解けていないようだが、先程より断然魔力が安定している。もう、このまま鳥呼ぶ声を受けてしまった方が良さそうだ。
そうしてニザの前に司祭様が立ったのだが、瞳を閉じている彼女は分かっていないようである。私はそのまま司祭様に黙礼をして、開始を了承した。
同じような子供が少なくないのだろう。こうして本人が気付かなくても、他者の魔力を視る事が出来る司祭様には何の問題もないようだった。
「貴女は木属性の魔力をお持ちです。おめでとうございます」
「ありがとうございます、司祭様」
「ほえっ?!ほ、本当にっ?」
突然聞こえた司祭様の声に、驚きと共に目を開けたニザ。
いまいち状況を把握出来ていなようで、司祭様と私を交互に見比べてる。
「良かったですね、御姉様」
「あ、え……うん。ありがとう、エフェ。ありがとうございます、司祭様」
戸惑いつつも、きちんと司祭様に感謝の意を伝える事が出来たニザだ。
それを見て笑みを浮かべながら何度か頷き、司祭様はまた別の子供の方へ移動していく。
「エフェ、私、魔力あるって」
「はい、木属性ですね。おめでとうございます」
「うん、うんっ」
うっすらと涙を浮かべながら顔一面に喜びを浮かべるニザは、いつも以上に輝いて見えた。実際に自分の魔力が判明して、本当に嬉しいのだろう。
万が一魔力無しと診断されたのなら、将来的な人生が非常に狭い選択肢しか残されない事になるのだ。
それ程、王国の民にとって身近な力である。
「さぁ、御父様に報告にいきましょう」
「うんっ」
鑑定の終了した子供達は、すぐに両親のところへ戻って良い事になっている。
実際、家長に報告義務があるのだから、魔力の有無と属性をすぐに王国側へ連絡しなくてはならなかった。──まぁ大抵の子供達は、喜びのあまりすぐに親元へ駆け出してしまうのだけど。
星降る祭が始まった。
街のあちらこちらで篝火が焚かれ、幻想的に夜の街が照らし出されている。いつもなら目にする事のない光景が、一層魅力的に広がっているように見える。
普段は子供の私達が、木の時の時間に屋外に居る事はないのだ。けれども星降る祭の日だけは別で、十歳の子供は一生に一度の『主役となる日』である。
そして今夜、姉であるニザもこの鳥呼ぶ声に参加していた。
「大丈夫ですか?御姉様、顔色が悪いですけれど」
「わ、分かってるわよ。で、でも、どうしようもないじゃない」
魔力測定の鳥呼ぶ声を受ける子供は、手伝いとなる一人を除いて傍にいる事が出来ない。
人数が多い事もあるが、基本的にこれは当人の素質検査であって、本来は一人で受けるものなのだ。ただ年齢を考慮した上で、唯一一人だけ傍におく事を許されている。
そしてニザに付き添う事になったのは私で、理由は本人が望んだから。二つ年上の姉に八歳の女児が付き添うのも何かおかしいと思うのだが、私としては彼女よりも精神年齢が上のつもりだった。
ソワソワと落ち着かないニザに対し、手を握ったまま肩を撫でて落ち着かせてあげる。
「あぁ……。貴女に頼んで、本当に良かったわ。御母様じゃ、逆に私……怒られちゃうもの」
「……まぁ、御母様は細かい所に目が向きますからね。今は些末な事を気にしているよりも、御姉様自身の魔力を落ち着けた方が宜しいかと思います」
「ま、魔力?私、まだ自分で分からないのよね。本当にあるの?」
「えぇ、しっかりと」
不安そうに瞳を揺らすニザだが、いつもの我が儘状態が押さえ込まれている分可愛く思えた。
彼女はあまり魔力に興味がないようで、私やルーが家庭教師をつけてまで教えを受けている意味が分からないようである。それよりも噂話や流行の品々の方が目を引くようだ。
彼女の会話内容の殆どが、何処の誰が容姿が整っているとか、最近人気のあの店がとかである。
そんな彼女は、己の内なる力を使って現象を興す事に魅力を感じないのだろう。
「今は緊張の為に、魔力が膨らんだり萎んだりしています。深く呼吸をして安静な心持ちになった方が、安定した状態を保てそうですね」
「そ、そう?エフェの方が魔力に関しては先輩だから、言っている事をやってみるわね」
「えぇ、お願いしますね」
根は素直なので、ニザは私の言葉を実行しようと、深呼吸を繰り返していた。
魔力持ち両親の長子なのだから、魔力無しの訳がないのである。それに関しては、私やルーがしっかりと魔力を使えるので、父も母も心配すらしていないようだ。
精神状態が安定してくると、やはりニザの内面にしっかりとした魔力を感じる。
私はニザの手を握ったまま、周囲の状況も確認していた。もうすぐそこまで司祭様が廻ってきている。
「その調子ですよ、御姉様」
「う、うん」
今だ緊張は解けていないようだが、先程より断然魔力が安定している。もう、このまま鳥呼ぶ声を受けてしまった方が良さそうだ。
そうしてニザの前に司祭様が立ったのだが、瞳を閉じている彼女は分かっていないようである。私はそのまま司祭様に黙礼をして、開始を了承した。
同じような子供が少なくないのだろう。こうして本人が気付かなくても、他者の魔力を視る事が出来る司祭様には何の問題もないようだった。
「貴女は木属性の魔力をお持ちです。おめでとうございます」
「ありがとうございます、司祭様」
「ほえっ?!ほ、本当にっ?」
突然聞こえた司祭様の声に、驚きと共に目を開けたニザ。
いまいち状況を把握出来ていなようで、司祭様と私を交互に見比べてる。
「良かったですね、御姉様」
「あ、え……うん。ありがとう、エフェ。ありがとうございます、司祭様」
戸惑いつつも、きちんと司祭様に感謝の意を伝える事が出来たニザだ。
それを見て笑みを浮かべながら何度か頷き、司祭様はまた別の子供の方へ移動していく。
「エフェ、私、魔力あるって」
「はい、木属性ですね。おめでとうございます」
「うん、うんっ」
うっすらと涙を浮かべながら顔一面に喜びを浮かべるニザは、いつも以上に輝いて見えた。実際に自分の魔力が判明して、本当に嬉しいのだろう。
万が一魔力無しと診断されたのなら、将来的な人生が非常に狭い選択肢しか残されない事になるのだ。
それ程、王国の民にとって身近な力である。
「さぁ、御父様に報告にいきましょう」
「うんっ」
鑑定の終了した子供達は、すぐに両親のところへ戻って良い事になっている。
実際、家長に報告義務があるのだから、魔力の有無と属性をすぐに王国側へ連絡しなくてはならなかった。──まぁ大抵の子供達は、喜びのあまりすぐに親元へ駆け出してしまうのだけど。
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