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第一章
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いつから見始めたか、毎日のように続く夢。
物語が続くように夢の内容が続いて、この前、その結婚した相手との間に子供が産まれたわ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私はエフェ・ゾタ・サハー。サハー家の一男二女の次女、つまりは望まれていない予備よね。
第一子である姉の誕生後、二歳違いで私が産まれたんだけど。──何度、『あんたが男の子だったら』って言われたか分からないわ。
本当にあれって、かなり失礼な言葉だよね。私という存在をまるっと無視した発言だっていう事、あの両親──って言うか主に母親──気付いてないでしょ。
この都市は大きめな街だという理由もあって、外壁がしっかりしている。つまりは街の外を闊歩する魔物が襲ってくる事がない。
五十年周期くらいで起こる大暴走の際、過去には街の外壁が壊された事もあるみたい。だけどここ百五十年程は、そういった被害は出ていないって聞いてる。
サハー家は父親のガサナ・サハーを筆頭に、母親のオユ・チャダ・サハー。姉のニザ・フォーリ・サハーと、最後に私の三歳下の弟のルンサコ・イシェン・サハーを合わせて、五人家族なの。
そして貴族ではないけど商家でそれなりの地位があって、平民の中では上位に位置する立場に生まれ育っているわね。ちなみに、父は食品問屋の長をしてる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「エフェ、貴女また書いてるの?」
姉のニザが、私の手元の紙を覗き込みながら告げる。
誰にも邪魔されない筈の自室で、私はいつものように夢の内容を書き起こしていた。──今の私は六歳の可愛いお子様である。
「うるさいの。そもそも、何で勝手に人の部屋に入ってくるのよ」
「良いじゃない」
「良くな……ちょ、触らないで」
ニザは私の言葉を無視して、書き上げたばかりの紙を奪った。
それは今日の夢の内容で、いつからか見ている事に気付いた『続く夢』の内容を書き記す事にしたのである。
「ふう~ん。やっと子供が産まれたんだぁ」
「………………返して」
「嫌~っ」
読みながら感想じみた事を口にするニザだけど、実際に頭に入っているのかは不明だった。
これまでだって何度も内容を聞き返されたし、第一、登場人物の名前すら覚えていない。──他の誰かが目にしても分からないように、人物名は全て偽名にしてある。
けれどもこの作業自体を知っていてくれる誰がいる事が何となく嬉しくて、身長の違いを利用して勝手に読み耽るニザから、無理矢理に奪い取る事をしない私だった。
私が気付いたのは、いつの頃だっただろう。毎日のように同じ夢を見ている事、そして内容が繋がっている事に気付いてしまった。
どうしてこんな風に続く夢を見るのか、不安だったのは本当である。それを口にすれば、おかしい子供として扱われてしまう恐怖もあった。
私は物心付いた時から両親が好きではなくて。特に母親は嫌いだった。
我が儘な姉と、何かと手の掛かる弟。その間に存在する私は、嫌でも自分の事は自分でするしかなかった。
機嫌の良い時は、『貴女は手が掛からなくて良いわ』とか『貴女がお手伝いしてくれてとても助かるわ』とか言われる。──でも私は知ってる。それって、便利な人手なんだよね。給料が不要なお手伝いさん。
「エフェ。これ、半端なくダメ男だよねぇ。ダメよ、こんなの好きになっちゃ。っていうか、本当にモデルがいる訳じゃないの?」
「………………好きにならないし、モデルもいないよ」
ニザの呆れたような質問に、私は小さく『たぶん』と付け加えて答えた。
そもそもこうして紙に書き起こす事になったのは、『頭の中が不安なら、紙に書けば良いじゃない』という、ニザの言葉が発端である。
わんぱくで小さな生傷が絶えないような幼女だった幼い頃の私。その為か、自然と治癒魔法が使えるようになっていった。
この世界の人は当たり前のように魔力を持っていて、その属性で様々な効果をもたらす。
それを調べるのは十歳の年に行われる星降る祭。貴族も平民も区別なく、全てのマージェラ王国民が受けなくてはならないと義務付けられてもいた。
そして木・火・土・風・水・光・闇の七種類の属性を調べ、魔法学院に通って魔力の使い方を学ぶ。
学院は十二になる歳から十五になる歳の三年で、貴族はそこで社交界の基盤を築き、十六になる歳の王都で開催される花開く風パーティーで社交デビューをするのだ。
勿論、平民にはそのような大それた社交などない。ただそれぞれの街で行われる花開く風には、花嫁と花婿を捜す意味合いがあった。
結局貴賤関係なく、成人としての初御披露目の場となる。
ちなみに全王国民といったが、あくまでも税金を納めて戸籍名簿に記載されている者だけだ。何処の国にもあるが、流浪の民にはその権利はない。
物語が続くように夢の内容が続いて、この前、その結婚した相手との間に子供が産まれたわ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私はエフェ・ゾタ・サハー。サハー家の一男二女の次女、つまりは望まれていない予備よね。
第一子である姉の誕生後、二歳違いで私が産まれたんだけど。──何度、『あんたが男の子だったら』って言われたか分からないわ。
本当にあれって、かなり失礼な言葉だよね。私という存在をまるっと無視した発言だっていう事、あの両親──って言うか主に母親──気付いてないでしょ。
この都市は大きめな街だという理由もあって、外壁がしっかりしている。つまりは街の外を闊歩する魔物が襲ってくる事がない。
五十年周期くらいで起こる大暴走の際、過去には街の外壁が壊された事もあるみたい。だけどここ百五十年程は、そういった被害は出ていないって聞いてる。
サハー家は父親のガサナ・サハーを筆頭に、母親のオユ・チャダ・サハー。姉のニザ・フォーリ・サハーと、最後に私の三歳下の弟のルンサコ・イシェン・サハーを合わせて、五人家族なの。
そして貴族ではないけど商家でそれなりの地位があって、平民の中では上位に位置する立場に生まれ育っているわね。ちなみに、父は食品問屋の長をしてる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「エフェ、貴女また書いてるの?」
姉のニザが、私の手元の紙を覗き込みながら告げる。
誰にも邪魔されない筈の自室で、私はいつものように夢の内容を書き起こしていた。──今の私は六歳の可愛いお子様である。
「うるさいの。そもそも、何で勝手に人の部屋に入ってくるのよ」
「良いじゃない」
「良くな……ちょ、触らないで」
ニザは私の言葉を無視して、書き上げたばかりの紙を奪った。
それは今日の夢の内容で、いつからか見ている事に気付いた『続く夢』の内容を書き記す事にしたのである。
「ふう~ん。やっと子供が産まれたんだぁ」
「………………返して」
「嫌~っ」
読みながら感想じみた事を口にするニザだけど、実際に頭に入っているのかは不明だった。
これまでだって何度も内容を聞き返されたし、第一、登場人物の名前すら覚えていない。──他の誰かが目にしても分からないように、人物名は全て偽名にしてある。
けれどもこの作業自体を知っていてくれる誰がいる事が何となく嬉しくて、身長の違いを利用して勝手に読み耽るニザから、無理矢理に奪い取る事をしない私だった。
私が気付いたのは、いつの頃だっただろう。毎日のように同じ夢を見ている事、そして内容が繋がっている事に気付いてしまった。
どうしてこんな風に続く夢を見るのか、不安だったのは本当である。それを口にすれば、おかしい子供として扱われてしまう恐怖もあった。
私は物心付いた時から両親が好きではなくて。特に母親は嫌いだった。
我が儘な姉と、何かと手の掛かる弟。その間に存在する私は、嫌でも自分の事は自分でするしかなかった。
機嫌の良い時は、『貴女は手が掛からなくて良いわ』とか『貴女がお手伝いしてくれてとても助かるわ』とか言われる。──でも私は知ってる。それって、便利な人手なんだよね。給料が不要なお手伝いさん。
「エフェ。これ、半端なくダメ男だよねぇ。ダメよ、こんなの好きになっちゃ。っていうか、本当にモデルがいる訳じゃないの?」
「………………好きにならないし、モデルもいないよ」
ニザの呆れたような質問に、私は小さく『たぶん』と付け加えて答えた。
そもそもこうして紙に書き起こす事になったのは、『頭の中が不安なら、紙に書けば良いじゃない』という、ニザの言葉が発端である。
わんぱくで小さな生傷が絶えないような幼女だった幼い頃の私。その為か、自然と治癒魔法が使えるようになっていった。
この世界の人は当たり前のように魔力を持っていて、その属性で様々な効果をもたらす。
それを調べるのは十歳の年に行われる星降る祭。貴族も平民も区別なく、全てのマージェラ王国民が受けなくてはならないと義務付けられてもいた。
そして木・火・土・風・水・光・闇の七種類の属性を調べ、魔法学院に通って魔力の使い方を学ぶ。
学院は十二になる歳から十五になる歳の三年で、貴族はそこで社交界の基盤を築き、十六になる歳の王都で開催される花開く風パーティーで社交デビューをするのだ。
勿論、平民にはそのような大それた社交などない。ただそれぞれの街で行われる花開く風には、花嫁と花婿を捜す意味合いがあった。
結局貴賤関係なく、成人としての初御披露目の場となる。
ちなみに全王国民といったが、あくまでも税金を納めて戸籍名簿に記載されている者だけだ。何処の国にもあるが、流浪の民にはその権利はない。
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