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旅行編──第十一章『弾けて光って花開く』──
その90。神頼みだけではなく
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※ ※ ※ ※ ※
宿泊先から車で三十分程移動した場所に、『学問、至誠、厄除け』のご利益があるとされる神社がある。
美鈴が昨日脩一から見せてもらったホームページの浅い知識でも、歴史的に大層な御仁が奉られていると分かった。
──それにしても……。
美鈴は身体のあちこちがギシギシとする為、本気で脩一にしがみつくような形で歩いている。
隣を見上げれば、いつもに増して御機嫌な脩一。美鈴の視線に気が付いたのか、すぐに笑みを浮かべて小首を傾げてきた。
「どうしたの?」
「……ゃ、その……」
「ん?疲れた?休憩する?」
言い渋った美鈴だが、脩一に腰に手を回され、殆ど抱き締められている状態になる。
「ちが……わないけど……っ、近すぎ!公共の場だからっ」
「えぇ?だって美鈴、歩くの辛そうじゃん。いっそ、抱きあ……むぐっ」
「それ以上言わないでっ。下腹部と大腿部の筋肉痛に困ってるだけだから!」
そのまま耳元で囁く形で問われ、美鈴は彼の口を物理的にふさいだ後、声を圧し殺しながら噛み付くように告げた。
ついでに言えば口には出せない場所の違和感も伴っているのだが、思うように動けない原因は筋肉痛である。
昨夜脩一と身体を繋げた事は、美鈴にとっても喜ばしい体験だった。
けれどもその際に震えた身体は、普段以上に使わない筋肉やら筋を酷使したようである。──結果、主に下半身を中心とした倦怠感が残った。
対する脩一はそれはもう絶好調のようで、艶々と輝いてすら見える。
「くくくっ、美鈴かぁわぃ。……こんなところで頬を染めてそんな事を言われると俺、すぐにでもホテル連れ込みたくなっちまう」
「っ!」
「………………しないけど。嫌われたくねぇし」
他の参拝客の邪魔にならないようにか参道の端に寄り、脩一は美鈴を抱き締めたまま壁に凭れ掛かった。
どうやら本気で休憩するつもりなのか、まだ本殿は遥か先にあるのだが動くつもりはないらしい。
「脩一さん……、その……恥ずかしいんだけど」
「ん~?俺は恥ずかしくない。大丈夫だよ、周りから美鈴の顔は見えないし」
「や、そうじゃなくて……」
「のんびりしてて。ここの散策には時間がとってあるし、実際この辺りは見所がたくさんあるからな。本当は朝、もっとマッサージしてやりたかったけど……美鈴が嫌がったじゃん?」
「う……」
脩一の胸に顔を埋めたままの美鈴だが、チラチラと周囲の視線が向けられている感覚に落ち着かなかった。
実際に視線を集めるのは脩一の見目だろうが、その腕に収まっているのは美鈴である。好奇心と嫉妬心を受け、初期の頃の社内を思い出して陰鬱になった。
ともあれ、朝から身体が悲鳴をあげていた美鈴。それをすぐに気付いた脩一がマッサージをしてくれたのだが、どうにも違う意味で身体が反応してしまってやめてもらった事実がある。
他人との肉体的接触は嫌悪感があるものの、脩一に触れられるのは嫌いではない美鈴だ。精神的な部分からだろうが、そんな理由から商業的マッサージ店に近付いた事すらない。
つまり美鈴の身体に触れる人物は、脩一以外は必要な時の医師くらいだ。当然ながら医師が必要以上に触る事はないので、必然的に脩一だけ。
「だって……足の付け根とか、触られると……変な気分になるんだもん」
「ぅおっ、エロ可愛いっ。何、美鈴。誘ってるの?」
「ち、違うからっ。ってか本気で無理、死んじゃう」
「あ~……、ごめん?」
「何故に疑問符付き」
昨日の今日では、さすがに美鈴の得意な切り替えが出来なかった。
接触度合いが低ければ問題ないのだが、濃密な触れ合いは美鈴の脳内が勝手に暴走を始める。
「とにかく、せっかくの旅行をダメにしたくないし。少しだけ……介護を、お願いします」
「っ、勿論させていただきます!」
脩一の胸元から見上げて告げれば、一瞬息を呑んだ脩一が喰い気味に承諾してくれた。
そうしてゆっくりと参拝しながら更に少し移動し、男女の良縁を始め、仕事、友人などとの良いご縁を結ぶご利益があるとされる神社へも参拝する。勿論、脩一との縁が続く事を願った美鈴だ。
こうした願い事は始めてな美鈴も、神頼みだけではなく自分の努力も続けようと心に誓う。まだ始まったばかりの脩一との関係は、この先を考えてばかりいては不安に押し潰されそうになるからだ。
またここは、旅の安全や事業の成功祈願、厄除けなどにも御利益があるという。
今回の旅行は勿論だが、厄介な事に巻き込まれないようにと願いもした。主に脩一関連で巻き込まれ気味の美鈴だが、人気者である彼の傍にいる為には、多少のやっかみは仕方がないのだろう。
そんな事ばかりを考えると滅入ってくるので、深呼吸をして気分を入れ換える美鈴だ。隣を歩く脩一を見上げれば、自然と手を伸ばされて繋ぐ掌が嬉しい。
ここは季節によっては桜や紅葉も有名なのだそうだが、美鈴は脩一と一緒なら夏の緑でも何でも好ましいのだろうと思えた。
宿泊先から車で三十分程移動した場所に、『学問、至誠、厄除け』のご利益があるとされる神社がある。
美鈴が昨日脩一から見せてもらったホームページの浅い知識でも、歴史的に大層な御仁が奉られていると分かった。
──それにしても……。
美鈴は身体のあちこちがギシギシとする為、本気で脩一にしがみつくような形で歩いている。
隣を見上げれば、いつもに増して御機嫌な脩一。美鈴の視線に気が付いたのか、すぐに笑みを浮かべて小首を傾げてきた。
「どうしたの?」
「……ゃ、その……」
「ん?疲れた?休憩する?」
言い渋った美鈴だが、脩一に腰に手を回され、殆ど抱き締められている状態になる。
「ちが……わないけど……っ、近すぎ!公共の場だからっ」
「えぇ?だって美鈴、歩くの辛そうじゃん。いっそ、抱きあ……むぐっ」
「それ以上言わないでっ。下腹部と大腿部の筋肉痛に困ってるだけだから!」
そのまま耳元で囁く形で問われ、美鈴は彼の口を物理的にふさいだ後、声を圧し殺しながら噛み付くように告げた。
ついでに言えば口には出せない場所の違和感も伴っているのだが、思うように動けない原因は筋肉痛である。
昨夜脩一と身体を繋げた事は、美鈴にとっても喜ばしい体験だった。
けれどもその際に震えた身体は、普段以上に使わない筋肉やら筋を酷使したようである。──結果、主に下半身を中心とした倦怠感が残った。
対する脩一はそれはもう絶好調のようで、艶々と輝いてすら見える。
「くくくっ、美鈴かぁわぃ。……こんなところで頬を染めてそんな事を言われると俺、すぐにでもホテル連れ込みたくなっちまう」
「っ!」
「………………しないけど。嫌われたくねぇし」
他の参拝客の邪魔にならないようにか参道の端に寄り、脩一は美鈴を抱き締めたまま壁に凭れ掛かった。
どうやら本気で休憩するつもりなのか、まだ本殿は遥か先にあるのだが動くつもりはないらしい。
「脩一さん……、その……恥ずかしいんだけど」
「ん~?俺は恥ずかしくない。大丈夫だよ、周りから美鈴の顔は見えないし」
「や、そうじゃなくて……」
「のんびりしてて。ここの散策には時間がとってあるし、実際この辺りは見所がたくさんあるからな。本当は朝、もっとマッサージしてやりたかったけど……美鈴が嫌がったじゃん?」
「う……」
脩一の胸に顔を埋めたままの美鈴だが、チラチラと周囲の視線が向けられている感覚に落ち着かなかった。
実際に視線を集めるのは脩一の見目だろうが、その腕に収まっているのは美鈴である。好奇心と嫉妬心を受け、初期の頃の社内を思い出して陰鬱になった。
ともあれ、朝から身体が悲鳴をあげていた美鈴。それをすぐに気付いた脩一がマッサージをしてくれたのだが、どうにも違う意味で身体が反応してしまってやめてもらった事実がある。
他人との肉体的接触は嫌悪感があるものの、脩一に触れられるのは嫌いではない美鈴だ。精神的な部分からだろうが、そんな理由から商業的マッサージ店に近付いた事すらない。
つまり美鈴の身体に触れる人物は、脩一以外は必要な時の医師くらいだ。当然ながら医師が必要以上に触る事はないので、必然的に脩一だけ。
「だって……足の付け根とか、触られると……変な気分になるんだもん」
「ぅおっ、エロ可愛いっ。何、美鈴。誘ってるの?」
「ち、違うからっ。ってか本気で無理、死んじゃう」
「あ~……、ごめん?」
「何故に疑問符付き」
昨日の今日では、さすがに美鈴の得意な切り替えが出来なかった。
接触度合いが低ければ問題ないのだが、濃密な触れ合いは美鈴の脳内が勝手に暴走を始める。
「とにかく、せっかくの旅行をダメにしたくないし。少しだけ……介護を、お願いします」
「っ、勿論させていただきます!」
脩一の胸元から見上げて告げれば、一瞬息を呑んだ脩一が喰い気味に承諾してくれた。
そうしてゆっくりと参拝しながら更に少し移動し、男女の良縁を始め、仕事、友人などとの良いご縁を結ぶご利益があるとされる神社へも参拝する。勿論、脩一との縁が続く事を願った美鈴だ。
こうした願い事は始めてな美鈴も、神頼みだけではなく自分の努力も続けようと心に誓う。まだ始まったばかりの脩一との関係は、この先を考えてばかりいては不安に押し潰されそうになるからだ。
またここは、旅の安全や事業の成功祈願、厄除けなどにも御利益があるという。
今回の旅行は勿論だが、厄介な事に巻き込まれないようにと願いもした。主に脩一関連で巻き込まれ気味の美鈴だが、人気者である彼の傍にいる為には、多少のやっかみは仕方がないのだろう。
そんな事ばかりを考えると滅入ってくるので、深呼吸をして気分を入れ換える美鈴だ。隣を歩く脩一を見上げれば、自然と手を伸ばされて繋ぐ掌が嬉しい。
ここは季節によっては桜や紅葉も有名なのだそうだが、美鈴は脩一と一緒なら夏の緑でも何でも好ましいのだろうと思えた。
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