階段で異性とぶつかって恋に落ちるなんて少女漫画だけの話と思ってました

まひる

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旅行編──第十章『浮いて飛んで羽ばたいて』──

その85。風呂上がりの匂いが(※微)

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 ※ ※ ※ ※ ※

 大浴場を満喫して、美鈴みすずは部屋へと戻ってきた。
 既に脩一しゅういちは帰ってきており、持ってきたのであろう小型のノートパソコンに向かって何かの作業中である。

「……お仕事?」
「ん?……いや、旅程確認」
「え、旅程?」
「そ」

 部屋に入ったは良いものの、仕事ならば邪魔になるかもと立ち尽くしていた美鈴。
 しかしながら脩一からの返答で、それならば自分にも関わりがあるかもしれないとゆっくりと彼へ歩み寄っていった。

「何、大丈夫だって。ほら、明日行くところ」
「学問の神様?」

 遠慮がちに近付く美鈴に対し、脩一は笑顔を浮かべながら腕を伸ばしてくる。そうやって彼が穏やかな表情を向けてくれる事で、美鈴は歩み寄る許可を得たように感じるのだ。
 手がれる距離まで近付けば、当然のように脩一の腕の中に抱き留められる。体格が小柄ではない美鈴も、脩一が相手ではすっぽりとその内に納められるのだった。

 そうしてノートパソコンに視線を向ければ、目的地であろう場所のホームページを見ていたようである。

「学問、至誠しせい、厄除け……。この人、歴史的にも凄い人だったんだね。名前だけはアニメでも出てたけど、リアルに政敵に邪魔扱いされたんだ」
「あぁ。そうならないように、出来る男は自分だけじゃなく、周囲を守る力も必要だな」
「ふふふ、スパダリ発言~」
「スパダリ?」
「うん。っていっても、私も確かな定義を分かってる訳じゃないけど。漫画とか小説であるんだよね。えっと……スーパーダーリン、だったかな」
完璧スーパー、な理想の男性ダーリン?……ふむ、俺のいう出来る男って事だな。まぁ、俺は美鈴にとってスパダリであれば良い」
「え、私にスパハニの壁は高い」

 何故か学問の神様からスパダリに話題が変わったが、脩一がそうであるならば美鈴も同等のレベルでなくてはならないのではと焦りを浮かべた。
 けれども対脩一のスーパーハニーともなると、さすがに理想とするものは高そうである。
 即座にそこまで想像し、美鈴はすぐに両手を降参の形で上げた。

「何だ?今度はスパハニか。美鈴が思うのがどんなレベルかは分からないけど、俺にとっては今のままで最高な女性だ。変に気を張る必要はないさ。美鈴、ありのままの君を愛している」
「っ~……脩一さん、私に甘々過ぎぃ。もう、大好きっ」

 真っ直ぐ過ぎる程向けられる脩一からの愛情表現に、美鈴は自分のキャパシティを越える。
 ただ腕の中に抱き締められているだけでは感情の収まりがつかず、自分から彼に抱き付いた。

「ふっ……、俺は美鈴だから好きなんだって言ってるだろ?」
「私も脩一さん、好き~っ」

 脩一以外からここまでベタベタに好意を向けられた事のない美鈴は、どうやって自分の気持ちを返せば良いのか分からない。
 けれども座椅子にくつろいでいる脩一に自分から密着した途端、彼にもっとれたくて仕方がなくなった。

 ──どうすれば良いんだろ。でも……私の好きを、脩一さんに伝えたい。

 身体をひねった形で脩一の首にしがみついている美鈴。腰の辺りを支えるように脩一の腕が回っている。
 浴衣越しに伝わってくる体温から、この一月ひとつきの間に繰り返しおこなってきた恋人としてのれ合いが思い出された。

 美鈴は少しだけ背筋を伸ばすようにして、脩一の頬に唇を寄せる。いつも脩一からされる、顔中に落とされるキスが思い浮かんだ。
 頬に、鼻先に。

 好きという気持ちがあふれてきて、敏感な皮膚である唇でもっとれたい。
 額に、目蓋まぶたに。

 緩く細められる脩一の眼差しが、美鈴の身体のもっと内側を熱くさせた。
 いつの間にか膝立ちになっていたのにも気付かず、脩一のこめかみや耳へ唇を移動させる。
 背筋や脇腹などへ優しくれてくる脩一の手の動きに、自然と身体が震えた。

 自分の呼気が荒くなってきている事に気付いたけれど、このたかぶった感情は収まりそうにない。
 脩一の顎に、首筋に。

 唇でれるたび、脩一の体温が上がってきている気がした。
 風呂上がりの匂いが、本来の脩一の匂いと合わさって鼻をくすぐる。

 ──何だろう……、ぞくぞくする。お腹……、奥の方が熱い……。

 浴衣越しに脩一の胸部へ両手を這わせた。
 がっしりとした肩幅としっかりと張りのある筋肉。合わせから覗く肌に、無性にれたい。
 いつもはされる側の美鈴であるが、こうして自分かられるのも、身体を熱くして震える感情が高まっていく事を知った。

「脩一、さ……」

 浴衣の隙間から手を差し入れる。しっとりと熱い肌に、自然と唇を寄せた。
 はむはむと、皮膚を撫でるように唇を動かす。

 脩一の肌を辿たどる美鈴の手に、小さな突起がれた。
 さわさわと皮膚の表面を撫でている内に、不意に唇でも接触してみたくなる。
 摘まめない程の小さな突起は、唇ではむはむと撫でても変わらなかった。そして美鈴は、小さく舌先を出して舐めてみる。

「~~~っ」

 直後──びくびくと震えた脩一の身体に、美鈴はとろんとした表情のまま彼を見上げた。
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