上 下
84 / 92
旅行編──第十章『浮いて飛んで羽ばたいて』──

その84。満腹感は睡魔を誘う

しおりを挟む
 ※ ※ ※ ※ ※

 個室で会席料理を堪能して、脩一しゅういち美鈴みすずは一度部屋に戻る。

「ふぁ~、お腹いっぱいだよぉ」
「くくくっ、すぐに転がる程か?……アザラシになっちまうぞ?」
「ふふふ、アザラシになったら可愛い?」
「あぁ、美鈴ならどんな装いでも可愛いな」
「やだ、冗談だったのに。でも、脩一さんがアザラシになっても可愛いかも」
「ふはっ。なら、二人してアザラシになるか」

 既に和室にセッティングされた布団へ横たわり、美鈴は笑みを浮かべる脩一を見上げた。
 いつもの柔らかな微笑みは、この旅行で更に甘い雰囲気をただよわせている。
 隣で同じ様に横たわった脩一の腕へ抱き留められ、多幸感にみたされた美鈴は彼の胸に額をり付けた。

「かぁわぃ、食べちゃいたい」
「もうお腹いっぱいだからダメだもん」
「いやいや、ベツバラ・・・・でしょ。……ねぇ、美鈴。食べて良い?………………あれ?美鈴?…………寝た?……マジで?」

 ぽやぽやと幸せな気持ちに、美鈴は自然と目蓋まぶたが落ちてきてしまう。
 脩一が話している事へ返答をしなくてはと思いながらも、睡魔に誘われて意識が沈んでいってしまった。

 ※ ※ ※ ※ ※

「っ!」
「………………起きた?」
「ご、ごめんなさいっ。えっ、物凄く寝ちゃった?」
「いや、一時間も経ってないよ」

 腹部が満たされての睡眠だったからか、美鈴は自分が寝ていた事に驚いたようで、慌てて脩一に謝罪する。
 さすがに飛行機や舟に乗ったりして、旅の疲れが出たようだ。
 脩一は美鈴が起きるまでずっと寝顔を観察していたのだが、彼女が目覚めただけで嬉しいという表情を浮かべる。

 ──このまま朝まで寝てたらどうしようかと思ってたし。
「ぅん?……どうしたの、脩一さん」
「ん~?………………摘まみ食い」

 抱き締めている美鈴へ、脩一は幾度もキスを落とす。
 頬に、鼻先に。額、頭部から耳へ。続けていくと、次第に美鈴の身体が震えてきた。
 漏れ出す呼気から、快感からくる震えなのだと察する事が出来る。

「ん……ふっ。……脩一、さ、待って……ぁん……」
「どうしたの、美鈴」

 耳の付け根にキスを落とせば、ふるりと大きく身体が跳ねた。
 この一月ひとつき程、幾度も繰り返してきた行為である。既にこの先に快楽が続くと、美鈴にも分かっているのだ。

「っあ……ん、お、風呂……まだ、だか……っん……」
「ん~、風呂?俺は後でも良いけど?」
「んふ……、私が、いゃ……って……」
「そうだよねぇ。美鈴、綺麗好きだもんね」
「そ、なんじゃ……っあん、ちょ……ふっ……」

 首筋や鎖骨の辺りに唇がれるだけで、美鈴の身体はびくびくと震える。
 けれども休止、ここまでだ。拒絶の意思を見せている美鈴を無視して、この先へは進められない。

「ん、じゃあお風呂ね」
「はぁ……はぁ……」
「どうしたの?美鈴」

 急に行為をやめた脩一が不満なのか、美鈴の瞳が物言いたげに見上げていた。
 脩一は分かっているのだが、美鈴から『どうしたい』のか言わせたい。続ける事もやめる事も、二人での行為なのだ。

「……脩一さんの意地悪」
「え、何でさ。俺、ちゃんと美鈴の意見を聞いているよ?……ねぇ、どうしたい?」

 小首をかしげていた脩一に、ねたような表情を向けていた美鈴だった。

「も……、お風呂入りに行く」
「部屋のじゃなくて?」
「うん、大浴場に行きたいもん」
「あ~……分かった、そうだね。せっかくだから色々なお風呂に入りたいよな、うん。それなら行こうか」
「うんっ」

 けれども入浴したい気持ちが強かったのか──しかも、距離がある大浴場の方へ行くと言い出したのである。
 互いに気分がたかぶった後ではあるものの、既に美鈴の意識は大浴場へ向けられていた。この辺りは切り替えが早い美鈴らしい。

 脩一は再びの『おあずけ』に溜め息を呑み込むと、ゆっくりと美鈴の上体を抱き起こすのだった。

「浴衣?」
「ん、良いんじゃね?こういうところって、パジャマよりも雰囲気出るでしょ」
「そう……よね」

 押し入れから浴衣を見つけた美鈴が、少しの戸惑いを見せる。
 脩一はそれを見た途端、脳内で美鈴の浴衣姿を妄想した。

「うん。何より、美鈴の浴衣が見たい」
「……私も脩一さんの浴衣姿が見たい、かも」
「くくくっ、かも・・なんだ」
「だ、だって……何だかえっち・・・な感じがして……」
「ふはっ、何それ。エロい美鈴も可愛い、好き」

 うっすらと頬を染めた美鈴を見て、脩一はすぐに抱き締めて頭頂部にキスを落とす。
 浴衣を胸に抱き締めていた美鈴は、脩一の腕の中から見上げると、彼の顎にキスを返してきた。

 ──っ!……待て俺今はまだタイミング違うから。

 美鈴からキスをしてくれる事はまれなので、余計に脩一の脩一が臨戦態勢になったのである。
 先程までの空気もあり、脩一は己を鎮める為に更に神経をついやす事となった。──けれどもそれすらいとおしい美鈴の為ならば苦にならないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ハイスペ男からの猛烈な求愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペ男からの猛烈な求愛

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

処理中です...