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交際編──第九章『熱く』──
その77。翻弄される感情に(※軽)
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※ ※ ※ ※ ※
美鈴の身体だけを求めている訳ではないのに──脩一は己の行動を鑑みて、果たしてそう言い切れるだろうかと思う。
本能が暴走し、理性を凌駕する感覚。感情は感覚に引き摺られ、情動に駆られるのだ。
会議室で美鈴に性的な事をして良い筈がない。深く考えなくとも分かるのに、脩一は自分が止められなかった。
美鈴が傷付けられていた──その事実が、酷く脩一を傷付ける。何よりも、脩一が復讐出来ない現状が。
怒りなのか。悲しみなのか。
爆発的な感情に翻弄され、脩一自身も分からなくなっている。
それを抑え宥める為に、己が唯一求める美鈴へ手を伸ばしているといった感覚だった。
「……あ……ふっ……、んぁ……んぅ……」
「美鈴……可愛ぃ、美鈴……ごめん、こんなとこで……」
「っ……はぁ……、しゅ、ち、さ……、んふ……っ、気持ちぃ……の」
自己嫌悪に似た感情から謝罪の言葉が出た脩一だったが、美鈴は既に快楽に呑まれているのか、声を圧し殺しながらも彼に縋ってくる。
ズクン──と下腹部に熱が籠った。しかしながら、ここで本気で暴走する訳にもいかない。
「キスと肌に触れるだけで気持ち良くなってくれて、俺はとても嬉しいよ美鈴。でもね。ここではこれ以上……ダメ、かな?」
「な……ぁん、……で……?」
「ははっ……、本当にごめんね。俺が我慢出来なくなっちゃう」
脩一は少しだけ困った表情で、美鈴の鼻先に軽いキスを落とした。不満そうな美鈴の顔が愛おしくて、何度も顔中にキスをする。
他者から不当な扱いを受けた事を──美鈴から直接聞けなかった事に、苛立ってもいたのだろう。気付けなかった自分にも、怒りを覚えていたのだ。
けれどもこうして素直に抱き付いてきてくれる美鈴を、脩一は大切にしたい。とても。非常に。有り得ないくらい。──感情に言葉がついていかない程に。
「ん……はぁ……、意地悪ぅ」
「ごめん、悪かった、謝るから。……許して?」
「……ふっ、ふふ……あ……も、くすぐった……ぃ」
唇が触れるだけのキスを繰り返し、それまでの情欲的な感覚を散らしていった。
乱してしまった美鈴の服を戻しつつ、じゃれ合いのレベルにする。そうする事で昂った彼女も脩一自身も、どうにか平生の落ち着きを取り戻してきたようだっだ。
「もぅ、分かったからぁ」
「うん。ありがとう、美鈴。……あ、一つ約束して?」
「うん?なぁに?」
完全にいつもの状態に戻った美鈴の腰を抱き留めながら、脩一は真っ直ぐ視線を向ける。──小首を傾げる彼女は愛らしい。
「今回の事のような……。そうでなくても、美鈴が嫌だなって思う事を誰かにされたら。必ず俺に教えて?」
「え?……っと、脩一さん?」
「あ……俺からされた事でも、だな」
「うん?」
未だ脩一の膝の上に乗っている美鈴だが、今は特に気になっていないようだ。
「何でも良いから。……どんな事でも、美鈴の事を知りたい」
「ん~……、あのね?私、結構図太いの。で、鈍いの。嫌がらせのつもりで何かしてくる人がいても、その時には嫌だなとか思ったとしてもね。あまり記憶に残らないんだよねぇ。すぐに忘れちゃうし、人の顔も覚える気がないからか覚えてられないし。……どうでも良いから、かな?風で飛んできた葉っぱが、顔に当たったってくらい?」
真剣に問い掛ける脩一に悪いと思っているのか、美鈴は困ったような表情をする。
卑劣な苛めのような事を繰り返しされれば、普通なら少しずつ心を病んでいく。
自分に非があろうとなかろうと、全ての結果を自分が悪いのだと思うようになっていくと脩一は思っていた。
彼自身はストーカー事案以外で、『苛め』に相当する事を経験していない。あの、目の前で美鈴が多勢に攻撃されている状況を見た時、即座に立ち向かえたのも第三者だったからに過ぎない。
美鈴に対しては第三者ではないと思っているものの、加害者側からしたらその時に攻撃性を向ける相手ではないのだ。──勿論、仮に相手が猛獣であっても美鈴を背に庇うだろうが、本能的な恐怖心を完全に捩じ曲げたりは出来ないだろう。
つまり話はズレたが、当事者であれば少なからず傷付いていく筈なのだ。
それを美鈴は、『どうでも良いから』と言った。『風で飛んできた葉っぱが、顔に当たったってくらい』と。──彼女は知らず知らずのうちに溜め込むタイプだと、脩一は悟った。
「美鈴。それならそう教えて?『風もないのに葉っぱが顔に当たったんだよね』って」
「うん?」
「LINEでメールくれるだけでも良いよ。葉っぱのマークとか。美鈴が忘れちゃう前にね」
「そ、そんなもの?え?鬱陶しくない?」
「俺が聞きたいって言ってるのに、何で鬱陶しく思われるって考えちゃうかな。本当に可愛いな、美鈴は。大好き。愛してるよ、美鈴」
「あ、あ、あぃ………………。好き……。脩一さん、大好き」
不安そうな顔を蹴散らすように、脩一は過去誰に対しても口にした事がなかった愛を告げる。
美鈴は真っ赤になりながらも──同じ『愛』は返ってこなかったが、初めての『大好き』をもらえただけで脩一は嬉しかった。
美鈴の身体だけを求めている訳ではないのに──脩一は己の行動を鑑みて、果たしてそう言い切れるだろうかと思う。
本能が暴走し、理性を凌駕する感覚。感情は感覚に引き摺られ、情動に駆られるのだ。
会議室で美鈴に性的な事をして良い筈がない。深く考えなくとも分かるのに、脩一は自分が止められなかった。
美鈴が傷付けられていた──その事実が、酷く脩一を傷付ける。何よりも、脩一が復讐出来ない現状が。
怒りなのか。悲しみなのか。
爆発的な感情に翻弄され、脩一自身も分からなくなっている。
それを抑え宥める為に、己が唯一求める美鈴へ手を伸ばしているといった感覚だった。
「……あ……ふっ……、んぁ……んぅ……」
「美鈴……可愛ぃ、美鈴……ごめん、こんなとこで……」
「っ……はぁ……、しゅ、ち、さ……、んふ……っ、気持ちぃ……の」
自己嫌悪に似た感情から謝罪の言葉が出た脩一だったが、美鈴は既に快楽に呑まれているのか、声を圧し殺しながらも彼に縋ってくる。
ズクン──と下腹部に熱が籠った。しかしながら、ここで本気で暴走する訳にもいかない。
「キスと肌に触れるだけで気持ち良くなってくれて、俺はとても嬉しいよ美鈴。でもね。ここではこれ以上……ダメ、かな?」
「な……ぁん、……で……?」
「ははっ……、本当にごめんね。俺が我慢出来なくなっちゃう」
脩一は少しだけ困った表情で、美鈴の鼻先に軽いキスを落とした。不満そうな美鈴の顔が愛おしくて、何度も顔中にキスをする。
他者から不当な扱いを受けた事を──美鈴から直接聞けなかった事に、苛立ってもいたのだろう。気付けなかった自分にも、怒りを覚えていたのだ。
けれどもこうして素直に抱き付いてきてくれる美鈴を、脩一は大切にしたい。とても。非常に。有り得ないくらい。──感情に言葉がついていかない程に。
「ん……はぁ……、意地悪ぅ」
「ごめん、悪かった、謝るから。……許して?」
「……ふっ、ふふ……あ……も、くすぐった……ぃ」
唇が触れるだけのキスを繰り返し、それまでの情欲的な感覚を散らしていった。
乱してしまった美鈴の服を戻しつつ、じゃれ合いのレベルにする。そうする事で昂った彼女も脩一自身も、どうにか平生の落ち着きを取り戻してきたようだっだ。
「もぅ、分かったからぁ」
「うん。ありがとう、美鈴。……あ、一つ約束して?」
「うん?なぁに?」
完全にいつもの状態に戻った美鈴の腰を抱き留めながら、脩一は真っ直ぐ視線を向ける。──小首を傾げる彼女は愛らしい。
「今回の事のような……。そうでなくても、美鈴が嫌だなって思う事を誰かにされたら。必ず俺に教えて?」
「え?……っと、脩一さん?」
「あ……俺からされた事でも、だな」
「うん?」
未だ脩一の膝の上に乗っている美鈴だが、今は特に気になっていないようだ。
「何でも良いから。……どんな事でも、美鈴の事を知りたい」
「ん~……、あのね?私、結構図太いの。で、鈍いの。嫌がらせのつもりで何かしてくる人がいても、その時には嫌だなとか思ったとしてもね。あまり記憶に残らないんだよねぇ。すぐに忘れちゃうし、人の顔も覚える気がないからか覚えてられないし。……どうでも良いから、かな?風で飛んできた葉っぱが、顔に当たったってくらい?」
真剣に問い掛ける脩一に悪いと思っているのか、美鈴は困ったような表情をする。
卑劣な苛めのような事を繰り返しされれば、普通なら少しずつ心を病んでいく。
自分に非があろうとなかろうと、全ての結果を自分が悪いのだと思うようになっていくと脩一は思っていた。
彼自身はストーカー事案以外で、『苛め』に相当する事を経験していない。あの、目の前で美鈴が多勢に攻撃されている状況を見た時、即座に立ち向かえたのも第三者だったからに過ぎない。
美鈴に対しては第三者ではないと思っているものの、加害者側からしたらその時に攻撃性を向ける相手ではないのだ。──勿論、仮に相手が猛獣であっても美鈴を背に庇うだろうが、本能的な恐怖心を完全に捩じ曲げたりは出来ないだろう。
つまり話はズレたが、当事者であれば少なからず傷付いていく筈なのだ。
それを美鈴は、『どうでも良いから』と言った。『風で飛んできた葉っぱが、顔に当たったってくらい』と。──彼女は知らず知らずのうちに溜め込むタイプだと、脩一は悟った。
「美鈴。それならそう教えて?『風もないのに葉っぱが顔に当たったんだよね』って」
「うん?」
「LINEでメールくれるだけでも良いよ。葉っぱのマークとか。美鈴が忘れちゃう前にね」
「そ、そんなもの?え?鬱陶しくない?」
「俺が聞きたいって言ってるのに、何で鬱陶しく思われるって考えちゃうかな。本当に可愛いな、美鈴は。大好き。愛してるよ、美鈴」
「あ、あ、あぃ………………。好き……。脩一さん、大好き」
不安そうな顔を蹴散らすように、脩一は過去誰に対しても口にした事がなかった愛を告げる。
美鈴は真っ赤になりながらも──同じ『愛』は返ってこなかったが、初めての『大好き』をもらえただけで脩一は嬉しかった。
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